第12話 涙のアローラ

「ごべんなざ〜い〜… ヒックヒック…

うぐっうっぐっ… ごべん。ごべんなざ…うっうっ〜…」


とりあえず俺たちはカブを停めている小高い丘の大樹の下まで戻った。

大樹の影の中、もはや号泣を通り越してるアローラは座り込んで、もう小一時間は泣いている。


アローラとギャルが爆買いした料金はトム爺がお店側と交渉し、ひとまずトム爺が一部を払い、残りは今回の配達の成功報酬から支払う事で落ち着いた。これもトム爺の人徳のおかげだ。

危うく未払いで牢屋に入れられる所だった。

ったく冗談じゃない。


「あだじね?あだじ、みんなど、ぼうげんいけるのが…ヒック…ずごくだのじぐでぇ、だのじぐで…みんながよぼこぶとおぼっで…みんなが…みん…

うわあああぁぁぁあああ〜っっっ!!」


「う、ウチがいけなかったんだ!!ウチが、かわいい服あるから見に行こうってアロっちを誘ったんだよ!!

許されないのはわかるけど、ウチもバイトでもなんでもやってお金稼ぐよ!!少しずつしか払えないけど、絶対返すから!!」とギャルもアローラの弁明に必死だ。


「わかった。わかったよ?もう良いから。

そりゃ確かに驚いたけどよ、これからダンジョンで金目の物見つければ何とかなるんじゃねーの?」

「フッ 甘いなリオン。もはや、20階層まではちょっとしたデートコースになってる階層まであるぐらいメジャーになってる。

ほとんどの金目の物は取り尽くされてる筈だ。

モンスター討伐といってもほとんどが雑魚で値打ちも無い。初心者や暇な者達がたむろしてる所だ」


「う、う、う、ううああ…うあーッッッんんんん!!!!」

あちゃー、また泣き出したよ。

もう少し空気読めナルシス!


「まあ、そう泣くなアローラ。20階層からは話が違うぞ?初心者立ち寄り禁止の甘えの許されない場所。それが20階層からの最下層じゃ。まだ、討伐されてないモンスターもゴロゴロおるし、金目の物もまだ眠っておるはずじゃ。財宝がお前達を待っておるのじゃよ」

「そうだぜ?アローラ。

お前の好きな宝石がお前を待ってるぞ?」

「うんっうんっ…ぐずっぐずっ…

ほんとぉ?…ぐずっ」

ずるるるるるっと鼻水をすするアローラ。

「そうだな。俺たちのカブがエクセレントなスピードでモンスターや宝石を通り過ぎなければ美しい宝石が待ってるぞ!」

そのナルシスの一言がアローラのトドメを刺した。


「じゃあダメじゃんかぁぁぁ〜ッッッ!!

うわああああんんんんん!!」

滝の様に涙と鼻水が吹き荒れる。

せっかくの美人が台無しだ。


参ったな。

ちょっと考えてみるか。


ヘリオスのダンジョンは広大な土地が最下層の古城を中心に螺旋状に渦巻く様にダンジョン入り口から最下層へ続いている。

その途中に複数の洞窟がありモンスターが巣くっている所もある。

冒険者達はそういう洞窟を探索し、討伐や採掘、採取を行うのだ。


ただ、これはそういう洞窟に入ればの話だ。


つまり、俺たちの目的はあくまでもセシリーちゃんのお手紙を最下層に引きこもっている俺の未来のお父上にお届けに行く事で、基本的にはその途中の洞窟は素通りする。

ナルシスが言う様に通り過ぎてしまうのだ。

しかし、目的地の最下層には古城ユリソン城があり、25階層辺りからその屋根が見え始める。

この25階層から最下層までの通り道には上級モンスターがうろついている確率は非常に高い!

命や怪我の保証も無いが、稼ぐならここしか無い!!


「狙い目は25階層からの上級モンスター狩りだな。ここで一気に稼ぐぞ!!」


「本気なのか?リオン。その気になればカブのスピードがあればそれすら避けられるかもしれんのに。わざわざ危険を犯すとは…命がいくつあっても足りんかもしれんぞ?」と、トム爺は反対の様だ。


が、ナルシスは乗り気だ。

「さすがリオン!!わかっているではないか!!これこそが冒険の醍醐味!!」

拳を握りしめてやる気マンマンだ。


今回のセシリーちゃんの依頼で貧乏生活からオサラバだと思っていたら、冒険に出る前から多額の借金を背負う事になってしまった。

命の保証なんて生ぬるい事を言ってる場合じゃ無い。


「ギャル。

さっき許されない事って言ってたが、俺達は仲間だ。家族のようなものだ。許されない事なんて無い!

アローラ。ギャル。みんなでこの借金を返すぞ!!」

「う、うん!!リオン!!ウチ頑張るよ!!」

「うあああーん!!ありがどう!!リオンーッッッ!!」

と、泣きながらアローラが抱きついてきた。


「待っていた冒険だろ?楽しもうぜアローラ。ほら?顔あげろよ?」と、笑いながらアローラの頭を撫でてやる。

「うん… ぐすっ… 」

顔を上げたアローラから恐ろしい量の鼻水が俺のライトメールに糸を引く。

「うわッッッ!!きったねえッッッ!!マジかよ!?」


「ワハハハハハハハハハハハ!!!!」


その糸を引いた鼻水の量に、みんなが大笑いだ。


「テヘヘ。」と涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で照れながら泣き笑いするアローラ。


まったく…

美人が台無しだぜ?アローラ。

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