書き散らかした短編置き場

フジオリ。

桜の毒


「桜は周りの命を吸うんだって」


隣で足をぶらぶらと動かしこちらを見ることなく儚げな少女は独り言のようにそんなことを呟いた。


「桜の木の下には死体が埋まってるとか

桜色は血を吸い上げた色だとか、そういうオカルトのことか?」


いわゆる都市伝説として語られている逸話を例に挙げるとうーんと首を捻り言葉を選ぶように少女は口を開く。


「なんか、桜には毒があるんだって」

「ああ、アミグダリンとクマリンのことか」


 以前、適当にネットで調べた知識を披露する。

少女はポカンとした顔をしてからくすくす笑い出した。


「知ってるんだ、クマリンってかわいい名前だね」

「クマリンは葉に含まれる成分で、これが桜の風味とか言われてるやつだな

動物によっては死ぬこともあるんだとか」


インターネットで齧ったうんちくを得意げに語る。

桜餅などの桜の葉を使った食べ物は苦手だがこの子が気になるのなら好きなもののように装うことだって苦ではない。


彼女一推しという桜餅を葉ごと食べる。


「人間だから桜の毒も平気なんだね」


こちらを見たまま少女はどこかがっかりしたように笑った。


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とある企画への参加作品です。

お題「桜」

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