いきなり現れた (転生した) 人間に森とか山とか魔王城とか全部更地にされた件。

零5s4

いざ、鎌倉へ

第一話 なんか、いる。

 なんか、いる。


 いつものようにただ森を散歩していただけなのだが、人間がいたため咄嗟に物陰に隠れた。気付かれないように息を潜めてその人間を観察する。


「いやー。初期リス間違えてんじゃねぇーの? って思ったけど、逆に木とかたくさんあるところで助かったわー」


(??? 何を言ってるの? あの人間は)


 少し観察をしていると、どうやら木こりをしているらしいということが分かった。なぜこのような異様な風景を私は見ているのか思考を巡らす。別に木こりをしていること自体は全く問題はないし、異様ではない。


「うお! すげぇ! マジでアイテムになった」


 アホそうなのは置いておいて、ここは魔境と呼ばれる森の中でもかなり深い場所。魔物がうじゃうじゃいていつ殺されてもおかしくはない場所だ。そんな所に、あんなにひ弱そうで、バカそうで、無知そうで、なんか意味わからないこと言ってる輩がいることが『異様』なのだ。


 Sランクパーティーでもこんな場所に来る奴はいないし、来れる奴自体が少ないはずなんだけど。だからこんなところまで私は逃げてきたわけで、普通に人間がいるんじゃ意味がないんだけど。


 とりあえず、様子を見てみよう。私がいれば魔物が寄ってくることはないはずだから。


──そして一時間が経った。


「はっはっは。大量大量」


 観察していても、木を切っているだけだ。どっか暇つぶしに食い物を探しに行ったりしても、奴は木を切り続けていた。だんだんと木を切るスピードが早くなっているのは勘違いではないと思う。


──また一時間が経った。


「うえー。まだまだある。やりがいがあるな」


 何のだよ。こっちはいい加減見飽きてきたわ。しかし、木を切るスピードは確かに早くなっているようだ。流石に飲まず食わずはきつそうなので、奴の目を盗んで水と食料をそばに置いてやった。気が付いてくれたそうで呑気にそれらを食べなが木こりを続けている。


 本当に何がしたいのだろうか?


──また一時間が経った。


 日差しが気持ちよくて眠気に逆らえなくなったので、木の上で寝ることにする。やつは相変わらずきこりを続けていたので、少し寝たところでどっかに行ってしまうということはないだろう。



───────────────────────



「い……った」


 最悪な目覚めだ。どうやら地面に腰を打ったらしい。いつものように寝相が悪くて落ちたか、あるいは……。


「……あ、えっと。すみません」


 周りを見るとあの人間が立っており、私の寝ていた木は切り倒されていた。


(あの人間かーー!)


 それより、やばい。この姿を見られてしまったら……。


「俺、ここで木を切ってたんだけど、全部無くしちゃって大丈夫だった?」

「……」


 人間の後ろは木がほとんど切り倒され、綺麗さっぱり平地にされている。その向こうに見える木はとても小さく見え、かなり遠くまで切り倒してきたことがわかる。太陽の位置的にちょうど昼くらいだろう。


 まあ、別に問題はないので顔を縦に振る。


「いやー。ここって人子一人いないじゃ無いじゃん。とりあえず誰かいてよかったよ」

「人間。私が誰か分かってる?」


 人間は首を傾げた。相当な無知なようだ。


「別に、白い羽が生えた可愛い女の子じゃん」

「可愛いっ⁉︎」

「あのさ、この近くに村とか無い?」


 こんなこと言っておいて話を逸らすとは、この人間許すまじ。


 あいにく、この近くに人間の村どころか魔族の村すらも無い。なんと言ったって魔境なのだから仕方ないのだが。


「この近くには無いね。歩いても一週間以上はかかるよ」

「まじかー」


 歩くのはやだなーと言っているが、何故あんなに木こりをしているくせに歩くのが嫌なのか全く理解できない。


「……じゃあ、君はなんでここにいるの?」

「ここに住んでるから」

「ふーん」


 本当にこの人間はなんなのだろうか。魔族と普通に会話する? 何を企んでいるんだ? やはり全部この羽のためなのかもしれない。


「さてどうすっかな。腹が減ったから何か食おうにも何もないし」


 すると、急に自分の腹が鳴った。


「りんご食う?」

「りんご……。ありがとう」


 その場しのぎだが食料をくれたこの人間に幾つか質問をしたかったので、この人間がきこりを再開する前にしてみることにしよう。


「ここってどこか知ってる?」

「知らん!」


 なんでそんな自信もって言えるんだよ。


「ここは、魔境って言われていて──」


 Sランク冒険者でもあまり来ない危険な地域ということなど、人間の世界で人間が教わるだろう最低限のことを教えてやる。この反応的に何も知らなかったと見ていいだろう。


「だからお前みたいなひ弱なやつ、すぐ死ぬよ」

「まじ? やばくね」

「ほんと」


 絶望してるみたいだな。取り乱してもおかしくはない。と思っていたのだが、なぜか人間はだんだんと落ち着いてきた。


「ま、考えたところで意味はないわな。ところで君はなんでこんなところにいるの?」

「はぁっ⁉︎」


 こいつは話を聞いていなかったのか? 魔物と魔族がうじゃうじゃいるって。


「もしや人間。私のこと人間だとか思って……」

「えっ? 違うの?」

「違うよ!」


 分かった。こいつは私の羽を狙っているわけではない。ということは、この人間とならば分かり合えるかもしれない。無知なだけというのも否定しきれないというか肯定するけど。


「私は、魔族だよ。羽が生えてる人間なんていないでしょ」

「そうか? 別にいてもいいと思うけどな。それに、綺麗な羽じゃん」


 綺麗な羽……。視界がぼやけてきた。私は泣いているんだ。そう認識してしまうと次から次へと涙が溢れてくる。


「え⁉︎ なんで? 俺何かした?」

「ありがとう」

「え?」


 そう話している間にもどんどん涙は溢れてくる。頭にポンっと心地の良い重みが乗っかってきた。それは私の白い髪をサラサラと乱していく。


「うああーーーーん」

「おい。ちょっと」


 頭を撫でられて涙が止まらなくなったので、私は顔を見られないためにもあって間もない人間の胸の中で泣いた。


 人間なんかに。


「──落ち着いたか?」

「うん」


 一方的に抱きついて泣き腫らした私にこの人間はずっと頭を撫で続けてくれた。


「人間はさ、私をみると必ず、脇目も振らずにこの羽を取ろうと襲ってくるの」

「……」

「この羽って希少らしくて、高く売れるんだって」


 綺麗なんて言われたことは一度もない。待て。羽を取れ。そう言われたこと以外はない。


「だから、綺麗って言ってくれて嬉しかった。ありがとう」

「……うん。どういたしまして」


 こんな初対面なのに増してや魔族にこんな対応をしてくれる人間は他にいるだろうか。これまでの人生の中でもすごく嬉しかったのは言うまでもない。


「なんかお礼をしたいな。何かして欲しいことある?」

「そんな。ただ誉めただけなのに」

「服、私の涙で汚しちゃったし」

「気にしなくてもいいけど」

「気にするの!」


 そう言って私が困らせると、考え込んでから言った。


「じゃあ、少し質問してからでいいかな?」

「いいよ」

「名前は? って、俺も教えてないな。俺はライヒ」

「ライヒ……」

「そう。君は?」

「ない。魔族はほとんど名前を持たないよ」


 魔族は名前を持っていることは少ない。種族名で呼ばれることがほとんどだ。


「そっか。じゃあ……テト。これからテト、そう名乗って」

「……テト。私の、名前?」

「そう。テト」


 名前。これがどう言うものかはいまいち分からない。あってなんの得になるかも分からない。しかし、自分だけのものという特別感はあった。


「ありがとう」


 今日何度目かも分からないお礼の言葉をライヒに投げかける。また少し涙が溢れてきて、それを拭った。今日は数年ぶりに、いや、十数年ぶりのとてもいい日だ。


「あのさ。あと、この質問がイエスじゃないと色々と詰むんだけど……」

「なに?」

「テトって強い?」

「まあ、そこそこだとは思うけど……」


 強くないとこの魔境で生きていけないし。


「この魔境で俺を守れるくらい?」

「うん。まあ、魔境って言っても、場所によるけどね」

「じゃあ、少しの間でいい。俺が村に行くまで俺を守ってくれないか?」


 もちろん答えは決まっている。


「いいよ」


 でも、私は少しの間なんて言わないで、ずっとついていきたい。


「でも」

「ダメ?」

「いや。少しの間じゃなくて、これからずっと。……えっと。その……。ずっとって言うか」


 いきなり告白をしているみたいですごく恥ずかしくなってきた。違う。どうにかライヒが村に行ってしまってもついていける方法を。


「冒険者のパーティーというか」

「……?」


 ライヒは私の辿々しい説明に首を傾げる。そりゃあそうだ。こんな説明じゃあ誰も理解できない。


「うん。そう! 冒険者としてパーティーを組めたらなって。いや。ライヒが嫌だったら別にいいし、魔族が何言ってんだって話だけど……」

「いいよ。冒険者にもなってみたいと思ってたから。テトがいいなら」

「いいの⁉︎」

「ああ。いいよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る