第20話 誠実なお方
「今の僕はまだ、貴女が今までどんな生活を送ってきていたのか、どんなものが好きなのか、何も知りません」
けれど、その真剣さが。それこそが、マニエス様がとても誠実なお方なのだと物語っているような気がして。
出会ったばかりの、仮の婚約者に対して。こんな風に本音で話してくださる方が、
「ただ『嫁取りの占い』の結果は、変更することも覆すこともできません。そういう、ものなのです」
だからこそ、スコターディ男爵家からソフォクレス伯爵家へと令嬢を嫁がせるのは決定事項なのだと。そう、苦しそうにマニエス様は口になさいました。
まるで、心の底から後悔しているかのように。
(けれど、私にとっては)
この縁談は、とてもありがたいものでした。
ようやく男爵家の一員として、家族のお役に立てる。初めてそう思えたのと同時に。
(こんなにも、美味しいものをいただいて。幸せや、あたたかさをいただいて)
悪いことなど、一つもありませんでした。むしろ、私は選んでいただけたことを感謝する立場なのです。
だからどうか、マニエス様。
「そんな顔をなさらないでください。私にとって占いの結果は、大変ありがたいものでしたから」
「本当、ですか?」
「もちろんです。ですからどうか、そんなに思いつめないでください」
ご自分を責める必要は、全くありません。むしろ褒めてあげてほしいくらいなのですから。
そもそも、国内唯一の占い師一家の嫡男が『嫁取りの占い』を成功させたということは、国の利益になるということ。
それなのにご本人が後悔されているなんて。そんなことあってはならないと、私は思うのです。身勝手ではありますが。
「……貴女にそう言っていただけると、とても助かります」
「本心ですから。私も含めスコターディ男爵家では、占いの結果をとても喜んでいましたし」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、選んでいただきありがとうございました」
役立たずだった私に、男爵家のために役立てる機会をくださって。
将来の家族の一員として、あたたかく迎え入れてくださって。
ソフォクレス伯爵家の皆様には、使用人の方々含め感謝しかありません。
「あぁ、僕の話のせいで紅茶が冷めてしまいましたね。温かいものに交換させますから、少し――」
「だ、大丈夫です! むしろ今日はとても暖かいので、この温度でもちょうどいいくらいですよ」
実際この場所は、とても柔らかな日差しが降り注いでいて。冬の冷たい水のような温度でも、美味しくいただけそうでした。
それに交換した場合、この紅茶はどうなってしまうのでしょうか?
私が口をつけている手前、誰かが飲むことはできないはずです。となると、ただ捨ててしまうだけ?
そんな贅沢なこと、私にはできません!
「確かに、今日はとても暖かいですね」
晴れ渡った青空を見上げたマニエス様の肩から、銀の髪がサラリと流れて。
その様があまりにも綺麗すぎて、思わず小さくため息を零してしまいました。この美しさを表現できないのが、とてももどかしいです。
「そうそう。マカロンも色によって味が違うので、ぜひ楽しんでくださいね」
「色だけじゃなく、味まで違うのですか……!?」
それは驚きです!
笑顔のマニエス様から勧められるままに、淡い色のまかろんを一口かじってみると……。
「!!」
今日の朝食でいただいた、ベリーのような甘酸っぱさが口の中に広がって。
けれどベリーよりもずっと甘く、ほろほろと口の中で溶けてしまうのです。
「どうですか?」
「とっても美味しいです!」
思わず笑顔になってしまうほどの美味しさ。これがまかろん、なんですね!
クッキーの甘さも幸せでしたが、こちらもまた幸せになる味でした。
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