第7話(累計 第53話) 会議室は踊る。

「一体、警備はどうなっていたんですか? むざむざ奴隷の少女を奪われるなんて!」


 トシが妹ナオミを奪取した事件から一週間後。

 カレリア公館の会議室。

 そこでは、カレリアを支配するカレリア民主労働党の党大会、会議が行われていた。


「親に見放された奴隷枠とは言え、無垢な少女を奪い取るとは、ラウドから来た隊商。ゆるせません! 公安委員長、どうしてこのような事になったのですか?」


 民主労働党、党首にて中央委員会委員長ラザーリ・イグレシアスは、興奮してつばを飛ばしながら警備を担当する強面な壮年男性、公安委員長に問い詰めた。


「はい! 隊商警備用に持ち込まれていた機械人形ギガス。情報によれば、つい先日ラウド周辺で行われた戦闘において、秘密結社『ラハーシャ』の主有する神話級機械人形と戦い勝利した者の可能性があります」


「なんと! では、あれも神話級か、公安委員長殿。なら、街中で暴れられなかっただけでも御の字ではないかな、ラザーリ殿」


「人事委員長、そういう問題ではありません! 我らの崇高な理念。人は自然なる力のみで生きるべきという願いが破壊されたのですぞ!」


 恰幅の良い中年な人事委員長、彼は街中でヴィローが暴れなかったのを喜ぶが、それを中央委員長たるラザーリには許せない。

 自分が作り上げた「子供による清浄で自然な社会」が壊されたと思うからだ。


「そういえば、人事委員長。今回盗まれた奴隷は何者ですか? 労働委員長が工員に尋ねたところ、隊商の少年が妹と呼んでいたそうですが?」


「彼女、ナオミ・クルスですが、三年ほど前に出入りの奴隷商から購入しています。貴族の元で雇われていた両親が死亡後、購入したとは別の奴隷商に身元を売られたと情報があります」


 人事委員長は、横に立たせた少女メイドから情報が書かれた紙を貰い読み上げる。

 読み上げながらも、片手を少女のスカート尻に手を置きイヤらしく揉んでいた。


「では、今回の兄らしき人物との邂逅かいこうは偶然であったということですか?」


「ええ、おそらくは。あの少女、年齢の割に成長が遅く、顔立ちはいいモノの、まだ外部に売り出せる状態ではありませんでした。ワタシも眼を付けていましたが、実に残念です」


 残念という人事委員長。

 横にはべらせていた少女メイドの膨らんだ胸を強くもむ。


「あん!」


「この娘の様に豊満であれば、強制労働などさせずにワタシが飼いましたのに」


「人事委員長、パブロ・レリヤ殿。いい加減、清い子供を私の目前で汚すのは辞めてくれないか。君の人事能力には感謝しているが、流石に少々目に余ります」


 少女の胸を尚も揉む人事院長パブロに対し、苦言をいうラザーリ。

 しかし、一向に気にしないパブロであった。


「ワタシは特定の少年少女にしか手を出しませんので、御安心を。本人の了解も得ていますし。皆、奴隷や労働者よりはワタシに養われるのを望みますよ」


「そ、それはそうだが……。で、公安委員長。逃亡した機械人形らは、その後どうなりましたか?」


 ニヤニヤしながらも少女の胸から手を離さないパブロから視線を逸らすラザーリ。

 少女が顔を赤らめながらも拒否しない様子を見ていられず、話を公安委員長に振り直した。


「彼らですが、街外の警備兵らによればラウドの方向へ飛翔していったとの事です。なお、今現在もラウドからの公式な苦情は来ていません」


「でしたら、多数の水生成魔導具は奴隷少女一人の身柄で手に入った訳ですな、ラザーリ殿」


「確かにその通りです、パブロ殿。購入費を支払う前に彼らは逃げたのだから。で、今後どうしたら良いと思われますか、皆様?」


 自分だけで抱え込める問題では無いと思うラザーリ。

 会議室に集まった同志たちに意見を求めた。


「わたくしが思いますし、このまま抗議もせずに放置で宜しいのではないでしょうか? 少女の身柄を人質には最早使えませんが、現状は当方の方が得をしております。このまま、何もなかった風を装い、機械人形の主を刺激しない方が宜しいのでは?」


「農業委員長! それは甘いではないですか? 抗議をせねば、我らが掲げます『清浄な世界』が守れなません。ラザーリ殿、是非に公式にラウドに抗議をしましょう!」


 キツイ顔つきの中年女性、農業委員長は現状維持を提案。

 美少年の執事役に茶を給仕させながら涼しい顔。

 何もなかったことで済ませる事を勧めるが、自分の分野に泥を塗られた公安委員長は怒りで拒否をする。


「公安委員長。では、貴方の軍隊。民主労働党少年団で、あの機械人形に勝てるのですか? 現在、カレリアであれに勝てる軍力は存在しません。なら、『砂竜の尾を踏む』行為は危険です。既にあの事件から一週間が経過、今も動きが無いというのなら、農業委員長の意見が正しいと思われます」


「わ、分かりました。では、引き続き周辺警戒をします。出来ますれば、当方でも神話級とまでは言いませぬが、機械人形の兵力の増強をお願いします、ラザーリ殿」


「はい、公安委員長。今、とある筋から軍力を借りる交渉をしていますので、しばしお待ちを。さて、農業委員長。水が大量に手に入ったのですが、集団農場の方はどうですか? 大人達は真面目に働いていますか?」


「現在、数々の手法を用いておりますが、なにせ我々は農業も素人。苦戦をしております。大人だけでは人手不足、更に人員を回して頂けると嬉しいですわ」


 公安院長を黙らせたラザーリは農業委員長に集団農場の話を聞くが、専門家がいない中での農業で上手くいかない。

 更に子供らも農場に送ってくれと頼んだ。


「あい、分かりました。奴隷枠の子らから幾人か農場へ回しましょう。人事委員長、他国からの年少奴隷の買い付けはどうなっていますか? また他国への見目麗しい子らの売り出しも急いでください」


「奴隷に関してですが、最近は貴族連合内で奴隷商の摘発が行われていますようで『仕入れ』が滞っております。また『輸出』に関しましても、大口の売り先でした秘密結社が半壊なので売り先も難しくなっております」


「奴隷の輸出入は、当地の収入源。哀れな子らを引き取り、清浄な世界で育て上げて、外国に羽ばたたせるのが我らが目的。世界を正常な子供の世界にしようではないでしょうか、同志諸君!」


「はい!」


 革命と「理想」に酔いしれた者達が会議室で気勢を上げた。

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