第35話 「王家の谷」

「皆さん、ここまで僕らを送って頂き、ありがとうございます」


「いやいや。俺は、まだオヤジを救ってもらった恩義を返せきれていないぜ」


「アタイ。ここから先が楽しみだよ」


 ラウドを出発して一週間。

 半壊状態のヴィローを乗せたトレーラーと自動車によるキャラバンを組んで貴族連合の勢力範囲での砂漠移動。

 途中、砂蟲サンドワームや大サソリによる襲撃を受けるも、レオンさんやアカネさんの部下さん達の操縦するギガス達によって無事に撃退。


 また近隣の貴族連合の警備兵らにも数回接触したが、レオンさんが伯爵様の発行してくれた証書を提示してくれたので問題無く無事に通過出来た。


 ……下っ端の兵士さん達には恨みはないし、彼らは職務で戦う人。彼らと事を起こす気は僕には無いから、伯爵様の証書には助かったよ。


 そして、僕らは「王家の谷」がある山岳地帯まで到着した。

 遠景に、そびえたつ山と渓谷が見えだす。


「で、どうやって遺跡内に入るんだ、トシ?」


「以前入った時は、崖の上から落ち込んで遺跡に入りましたが、そういう訳には行かないですよね。遺跡から出る時も発射カタパルトから強引に射出されましたし。ただ、ヴィローと中に入る方法の相談はしてます」


【はい、皆様。恐らく宙船そらふねの制御中枢は、まだ生きているはずですので中に入る方法も必ずあるでしょう】


 ヴィローによれば、通信が通じる距離までいけば遺跡中枢へと連絡が付くらしい。

 そうすれば、何らかのかの方法があるのでは無いかという事だ。


 ……楽観的とは思うけれど、実際に現場に行かないと分からない事も多いだろうし。


「空、いや宇宙を飛ぶ船って話だろ。だったら、エアーロックってものがあるはず。それに移民船団とかなら大きな荷物搬入路もあるんじゃね」


「そのあたりを期待するばかりですね、アカネさん」


 僕らは砂塵が吹き荒れる中、山に近づく。


「言われてみれば、何かが地面に突き刺さっているようにも見えるな。これだけの巨大な物を空に浮かべるなんて、ヒトは何処まで凄い技術をもっていたんだろう?」


「命の神秘にも挑んでいたらしいですね。リリも言わばその産物ですし。もちろん、僕はリリがどんな生まれであろうとも大好きです! リリはリリなんですから」


「そこは、リリちゃんに実際接した全員が同じ意見だと思うよ。ウチの部下たちも、リリちゃんファンクラブの会員が多いし。リリちゃんの笑顔の為なら皆頑張るのさ」


「俺もリリちゃんの笑顔は良いと思うぞ。あ、トシからリリちゃんを奪う気はないんだからな。い、妹的な可愛さなんだから」


 ……本当にリリの周囲は、笑顔でいっぱいなんだね。嬉しいなぁ。


 徐々に山に近づけば、それは僕らの前にそそり立つ。

 こんな巨大なモノを作り上げ、命の神秘に挑んだ科学技術の粋。

 それがリリであり、ヴィロー。


 ……僕には、リリもヴィローも過大すぎる力だったのかなぁ。結局、力に酔いしれていたって言われてもしょうがないし。


【今、中枢と連絡が付きました。ここから十一時の方向に約2000。そこにトレーラーごと入れますルートがあるそうですよ】


 僕らは、ヴィローの案内で遺跡内部に侵入できるルートを進んだ。


「ここってただの岩盤に見えるけど? ヴィロー、本当にここなの?」


【少しお待ちくださいな、マスター。千年以上開閉していないそうなので、動かすのも大変らしいです】


 ヴィローが指示をした数分後、轟音を立てて目の前の岩盤、いや装甲板が開いていく。

 開いた扉の向こう。

 床が随分と斜めにはなっているものの、綺麗な板で敷き詰められた通路が続き、照明がどんどん奥に向かって明るくなっていく。


【では、前に進みましょう。傾いてますが艦内は人工重力によって床方向が下になります】


「ヴィローの旦那。何を言っているんだか分かんないけど、まっすぐ進めばいいんだよね。皆の衆、行くぜ」


「おー!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


 明るくて広い通路を行き止まりまで進むと、そこは以前ヴィローが立っていた場所。

 そこはギガスの格納庫であり、整備工場。

 まるで神殿に立つ立像みたいに、多くのAクラスギガス達が立ち並んでいた。


【私を修理したり改造するパーツは、こちらのものをお使いください。既に中枢へ許可は貰っています】


「すげぇ! ここは技術者の楽園パラダイスじゃないかぁ! 予備部品も沢山あるよ。これで旦那を完全修復できそうだ」


「では、アカネさん。ヴィローの事を宜しくお願いします。僕は、リリを守れなかった事を『彼女』に謝ってきます」


 僕は視線を格納庫から別の部屋につながる扉に向けた。

 そこには、渓谷を落ちてきた僕を助け、リリに出会わせてくれた小型ギガス、いやおそらく船の中枢知性が立っていた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ごめんなさい。僕、貴方から託されたリリを守れませんでした」


【事情や詳細は、ヴィローチャナから既に聞いています。逆に、あの状況ではリリン01、いえリリの判断は間違いなかったと思います。よく辛抱なさりましたね。そして、今まで『娘』を愛してくださり、ありがとうございました。貴方に託した私の判断は間違っていなかったのですね】


 僕は、身長一メートル程度のギガスに頭を下げる。

 「彼女」こそ、この船の知性を表現する個体にして僕の命の恩人。

 リリの「親」でもある。


「そんな……。僕は貴方にヴィローを託してもらいました。リリを頼むと言われて。なのに、無様に敗北してヴィローを大破。そしてリリを奪われてしまいました。どう謝ってもすまされないと思います」


【ですが、貴方。いえ、トシ様は諦めてはいないんでしょう? リリを取り戻すために。再度立ち上がり人々を守るために、こちらに来たのでしょう?】


 僕を一切責める言葉も無く、逆に励ましてくれる「彼女」。

 機械ながら優しい言葉に、僕は思わず涙をこぼしてしまった。


「はい! 僕はリリを取り戻したいです。是非、お力をお貸しください」


 僕は、大きく頭を下げた。

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