異世界財閥 〜ロリ女神から大量のスキルもらって病弱美少女に転生したので老後資金だけ稼いで目指せ若隠居〜

あるふぁせんとーり

序章:財閥設立、前日譚

第一話 プロローグ

「はい、はい、はい……。あー、要は死んだんですか。俺」


 やっぱこんな日に遊びに行くんじゃなかったかぁ……。でも今日新台出るからしょうがない部分もあるよなぁ……。

 ゲーセンの帰り。時間が止まったような中でずぶ濡れの雨の中で目の前に倒れた俺と転がったバキバキのメガネを見ながら、俺は154の妹と同じか、少し小さいくらいの少女と話していた。俺の頭には幽霊が着けてる感じの白い布。名前は確か、天冠てんかんとでも言ったっけ。いや現役バリバリなのかよアレ。


「いや、これどっちかと言うと俺の自業自得感あるなぁ……これ自分に責任あると地獄行きだったりします?」

「いえ!まだ寿命もかなり余ってるので完全にこっちの不手際です!ご、ごめんなさい……」


 そう言って少女はぺこぺこと頭を下げる。話している感じではまだ幼さの残る中学生といった感じ。部活の後輩にいたらかなり可愛がるだろうな、といった感じの少女だった。


「……あ、そうだ!まだお名前聞いてませんでした!」

「あ、はい。えっと、三ツ井みつい栄一郎えいいちろうです」

「はい、栄一ろ……あ、ろうの漢字だけ教えてほしいです……」

「郎だから……あれです、朗らかじゃない方の……そう、おおざとが付いてるやつ」


 そして指示通りに俺の名前を書類のようなものに書き入れた彼女は「これですよね?!」と嬉しそうに俺に見せてくる。グッと親指を立ててやると、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「ってそうじゃなくて……その、不手際で栄一郎さんを殺しちゃってごめんなさい……」

「さっきから気になってたんですけど、その不手際っていうのは……?」

「それはですね……」


 少女はガサゴソと少し大き目のキャリーケースのようなものを漁り、中から広辞苑くらい分厚いファイルを取り出して俺に渡す。何やら583ページを開けとのことだった。


「……わ、マジだ。トラックのナンバーも合ってる……」


 そこには、事故の詳細が記されていた。それによると、俺はスリップした乗用車に轢かれ、全治半年の重傷を……。


「……え重傷?死亡じゃなくて?」

「はい、そこなんです。本当なら重傷で止めないとだったんですけど、私見習いでまだ上手く出来なくて……それで力加減ミスしちゃって……」

「なるほど。……ちなみに見習いっていうのは?」

「神です。神見習い」

「へえ、神……神?!」

「はい!その神です!」

「え神様ってあのひげもじゃで謎に筋骨隆々な御老人じゃ……?」

「ええっと、それって神話とかに出てくる感じの……?」

「そう、それです」

「ああいうのは大先輩ですよ。っていうかもうあんな偉い人たちはとっくのとうに隠居してご意見番とかやってます。あと神協会の相談役とか……」

「うっわリアル……」


 神って世代交代とかあるんだ……。っていうか神協会ってなんだよ……。

 謎に知りたいような知りたくないような情報を獲得し、咀嚼し、俺はゴホンと咳払いをする。話題の転換だ。彼女もそれを察してくれたのか新たな書類を取り出して俺に差し出してくる。


「来世ご案内……?」

「はい!あ、えっと、同じ世界は駄目なんですけど……」

「つまり、この場でパッと生き返るとかそういうのは無理ってことですかね?」

「そういうことです!なのでいわゆる異世界転生って形でご案内してて……」


 一瞬、思考が固まった。


「アレ本当にあるんですか?!フィクションじゃなくて?!」

「いえ、アレ自体はフィクションなんですけど……あの、「良く出来てるなあ」って感じで拝見してます!」

「あーそんな感じの扱いなんですねアレ」


 俺は少し顎に手を当てて考える。


「ちなみにあの、転生特典のチートスキル、みたいなのあるじゃないですか。あれの基準ってどうなってます?やっぱり生前の徳とか?」

「もちろんそういうのもあるんですけど……基本的には寿命とかですかね?」

「あっ寿命。そういえば俺の寿命ってどんくらいでした?さっき「かなり余ってる」みたいなこと言ってましたけど」

「ええっと、栄一郎さんの寿命は結構長くて……あ、ありました!115年ですね!」

「115……え115年?!115歳まで生きてたってことですか俺?!」

「そうですそうです!あの、細く長くって感じで……」

「細く長く……それで静かに死ぬって感じですかね?案外悪くなかったかもな……」

「いえ、ええっと……あったあった、110歳越えた辺りでどっかで目をつけたマスコミとかがちやほやし始めるんですよ。細く長くといっても元気ではあったので、「日本最高齢更新なるか?!」とか「長寿大国日本の象徴!」みたいな感じで。絶頂期ってやつなんですかね?」

「俺の人生の絶頂期そこなんですか?」

「あ、はい!多分ここです!大器晩成タイプですね!」


 大器晩成にも程があるな、と俺は頭を抱える。とはいえ俺はついさっき死んだわけだ。これももしここで死んでなかったら、という話で俺にとってはどうしようもないことなのだ。そんなちょっと口惜しげな俺に少女は「で、でも更新直前の道半ばで死んじゃいますから……」とフォローを入れる。フォローか?まあいいか。


「それでなんですけど、チートスキルとかってどれくらいでもらえるんですかね?」

「えーっと、ちょっと待って下さい、確か寿命表が……」

「残りの年数で決まる感じですか?それとも割合?」

「あ、確か両方必要で……」

「そこ融通効かないタイプなんだ」

「そうなんです、というか両方が計算に必要でして……あ、これだこれだ!」


 そう言って少女が見せてきたのは保険の料金表のような紙の束。年末年始の新聞のチラシくらいには分厚かった。若干読むのが億劫になる程度には、分厚かった。


「これ全部読まないとですかね?」

「いえ、これはあくまで皆さんにお渡ししてるカタログみたいなものなので、最後の方の特別コースってやつだけ説明しますからそこだけで大丈夫です!」

「特別コース、ですか?」

「はい!記憶を持ち越せるタイプの転生で、多分あなた達が「異世界転生」って言われてイメージする、ザ・異世界転生!って感じの……もう少し詳しく説明しますね!」


 今度少女が取り出したのは小学生の頃に遠足で行った水族館で渡されたパンフレットくらいのサイズの書類……というかほぼほぼパンフレット。まるで遠足のしおりのような手書きの可愛らしいイラストは彼女が書いたものだろうか。俺は口を開いて尋ねた。


「これ手書きですか?」

「そうなんです!特別コースの案内はそれぞれの地域の担当が自分で作るってことになってて、それで、これ、私が初めて作ったやつで……!どうですか?!ちゃんと出来てますか?!」

「なんか温かみあって良いです。俺は好きですよ」

「やったぁ!……って、そうじゃなくてそうじゃなくて……」


 そう言って少女は手元の電卓のようなものをポチポチと叩き始めた。「えーっと」なんて言いながらたどたどしい手付き、人差し指打法で彼女は数字を打つ。


「寿命が115年で……えっと、なくなったのが17歳だから……」


 ポチポチ、ポチポチ、と見守ること数分。その間少女が首をひねること数十回。やはり神は文明に疎いのだろうか。尋ねてみると、今はIT化も進んでいるらしい。機械オンチだったかぁ……。


「……!すごいです!と、特別コースどころかオプション全部付けれちゃうかも……!」

「オプション?そんなのあるんですか?」

「そうなんです!他になんかアピールポイントみたいなのありませんか?!ほら、徳積んでます、みたいな!」

「……あ、小学校の頃にやらされたボランティアで表彰されたとかでも大丈夫です?」

「そういうので全然大丈夫です!これなら本当に全部乗せ出来ちゃいますよ!」


 そう言って少女は再びガサゴソとキャリーケースを漁り、そしてA4サイズの書類を取り出し始める。一枚、二枚、三枚、四枚……次から次へと止め処なく彼女が取り出すそれはどんどん勢いを増していき、このまま行くともしかしたら中高5年間で配られたプリントよりも多くなるかもとさえ思った。というかどうなってるんだそのキャリーケース?

 そうこうしているうちに書類は数えるのも億劫になるくらいに積み上がって山を作り、彼女は一仕事終えたかのように満足気に一息つく。


「……えっと?これは……?」

「あの、付けれるオプションの説明書です!私特別転生とか担当するのずっと憧れてて、それで私張り切っちゃって、もし特別転生させるならあれも渡そう、これも渡そうって色々詰め込んでたんですけど、やっぱりそういう人って全然いなくて……だから、こんなにすっごい豪華な転生担当するの、栄一郎さんが初めてなんです!」

「これ……全部?全部ですか?」

「はい!選び放題ですよ!」

「デメリットとかは……?」

「昔はあったりしたらしいんですけど、人間からのクレームが多かったので今はデメリット付きは止めようってルールになってます!というか最悪オンオフも出来るので!」

「あ、そんな便利になってるんですね」

「そうですそうです!だから安心して使いまくっちゃって下さい!」


 まあ最悪オンオフ出来るなら良いか、と俺は「じゃあ、ありがたくもらいます」と答える。「本当ですか?!」と少女は心底嬉しそうにぱぁっと顔を明るくする。


「あ、ちょっと待ってください、すぐ片付けますから……」

「俺も手伝いますよ」


 少女の隣にしゃがみ、俺は散らばった説明書を拾う。トントンと整えたそれは彼女がいつの間にか取り出していた紙袋へ。そして紙袋の5、6をパンパンにしてようやく説明書は片付いた。


「ふぅ……ありがとうございます!」

「いえ、全然大丈夫っすよ。えっと……これで全部ですかね?」

「一応もう一回だけ計算してみますので、もうちょっとだけ待ってて……ほしいです……」


 それぞれの紙袋には中に入った説明書に書かれたスキルに応じて数字の書かれた付箋が貼られている。どうやら、さっき寿命とかで計算していたスコアをこれに割り振っているらしい。あいも変わらずの人差し指打法でポチポチと電卓を叩く彼女はしばらく数字を突き合わせた後に「うーん」と首を傾げた。


「……これどうしましょうか……」

「どうかしたんですか?」

「いえ、まだスコア余っちゃってて……」

「余る……余る?!あんなに詰め込んでたのに?!」

「そうなんです。えっと、公式で採用されてる転生用のスコアを算出する計算式があるんですけど、それが寿命が長いと極端にスコアが高くなっちゃうんです。本当なら寿命が長い人は死ににくいのでそんなにスコアが稼げないんですけど……ほら、

栄一郎さんは……ご愁傷様でした」

「あ、よっぽど俺イレギュラーな死人なんですね」


 「それで、どうしましょうか……?」と頭を抱える少女。俺はふと思い出し、「あ」と小さく声を出す。


「そういえば転生先ってどれくらい決めれるんすか?」

「ええっと、スコア次第ですけど……見た目とか、どれくらいお金持ってるかとか……って、そうでしたそうでした!」


 「忘れてました!」と彼女はガサゴソとカバンを漁り、社会科のつい授業そっちのけで読んでしまう感じの資料集くらいの厚さのパンフレットを差し出してくる。


「ごめんなさい、舞い上がってすっかり忘れてました……」

「いえ……ところでこれは……?」

「これはですね、見た目カタログです!」

「見た目カタログ?」


 僅かに首を傾げながらパラパラと捲ってみると、なるほど、これは確かに見た目カタログだ。吊り目金髪のオタクに厳しそうなギャルから、クラスの端で静かに本を読んでいるが、メガネを外したら実はイケメンといったギャルゲ主人公まで選り取り見取り。「何でも良いんですか?」と問いかけると、彼女は「はい!」と首を強く縦に振った。何でも、何でもか……。


「すいません、何かオススメとかあります?」

「オススメ、オススメですか……ちなみにご希望とか、あと生きてるときに何か「来世は◯◯になりたいなぁ」とか考えたことってあります?」

「いやぁ、「来世はギャルになってオタクに優しいギャルの存在を証明するんだ」なんて息巻いてたこともありましたけど……」

「あー、そういう方多いんですよね。いざ実際に来世を考えるってなるとすっごい悩んじゃう方。でもオススメ……最低限の条件とかありますか?」

「美少女が良いです」


 食い気味に答えた俺に「美少女、美少女か……」ともう一冊の見た目カタログをパラパラと捲りながら呟く彼女。「うーん、うーん」とさっきよりも頭を捻る回数が目に見えて多い。


「えっと、好みかは分からないんですけど、これなんて……」

「……なるほど、「病弱美少女」……」

「はい、病弱美少女って設定したところ以外もハイスペックになるんですけど、デメリットとして寿命とか健康を損ないがちなんです。でも、特別コースはある程度寿命が反映されるので栄一郎さんにはオススメかなぁ、なんて……」

「じゃ、それでお願いします」

「分かりました!」


 彼女はポケットから取り出した仕様書を一瞥し、小さな声で「スキルも渡して、見た目も決めて……」と指差し確認する。


「最後にどれくらいお金持ってるかだけお願いします!」

「あ、じゃあ。残りのスコア全部突っ込んどいてください」

「分かりました!それじゃあこれで一応手続きとかは終わりなんですけど、何か質問とかありますか?」

「えっと、そうだな……。あ、お金を持ってるって家の財産ですか?個人で使えるお金ですか?」

「個人で使えるお金だったと思います!」


 「なら金銭問題もクリアできるか」と思って、「もう大丈夫です」と言いかけたが、俺は最後、あることが気になった。少しの隙間を挟んで、俺は微笑んでいる少女に問いかけた。


「最後、名前だけ聞いても良いですか?」

「……名前、名前ですかぁ……」

「あ、ダメだったりします?」

「はい、実は……昔は大丈夫だったんですけど、特別コースの方が名前広めちゃった結果信仰されちゃうって事件が起きまして……」


 知識元ソシャゲのあんな名前やこんな名前が頭に浮かぶ。あ、あれに転生させられた人達いるんだなぁ、と俺はぼんやりと考えた。


「ちなみにそのへんの方って今何してらっしゃいます?」

「確か……神内閣の閣僚でしたっけ」

「神界も三権分立なんだ……」


 よし、ならしょうがない。取りあえず、もう心置きないと言える状態だろう。


「……準備出来ました。いつでも大丈夫です」

「分かりました。……それでは、良い転生を!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る