第62話 告白と告白

 俺はミレットとアンにゆっくり話しかけた。


「実は……、俺は【気配察知】スキルを持っているんだ」


「えっ!?」


「……」


 アンは驚き、ミレットは無言だ。

 アンが首をひねる。


「あれ? えっと……、ユウトのスキルは外れスキルじゃなかった? ジャイルにからかわれてたよね?」


「うん。そうだよ」


「え? でも、【気配察知】を持っているの?」


「うん」


「それって……おかしいよね? どうして?」


「あの……、なぜかは聞かないで欲しい。とにかく、俺はスキル【気配察知】が使えるんだ」


「……」


 アンは困惑した目を俺に向けた。

 だが、アンの目に不信の色はない。


 俺のスキル構成に疑問を感じ、戸惑ってはいるが、俺自身に不信感を抱くことはないようだ。

 そのことに俺は、ほっと胸をなで下ろす。


「アンさん。ユウトのスキルのことは、一時置いておきましょう。今、大切なのは、この場所の探索です」


 ミレットを見ると、軽くうなずき先を続けろと目で促してきた。


 ミレットの目にも不信感はない。

 何か俺に聞きたそうではあるが、俺への追求よりも今の状況を優先してくれるらしい。


「それで……、この辺りをスキル【気配察知】で探ってみたが、ここから見えない右手の方で反応があるんだ。まず、動きのある反応が二十。この二十は魔物だと思う。一カ所に集まっている」


「二十ですか……随分固まっていますね」


 ミレットは首を傾げ考えている。

 アンは眉根を寄せ緊張した表情をする。


「そして動きのない反応が、四つあるんだ」


「四つ……。お父さんたち?」


 アンの唇が白い。

 ああ、かわいそうに……。


「アン、落ち着いて!ゆっくり呼吸をして!」


「アンさん。深呼吸をしましょう」


 ミレットがアンの肩に手をやり支えるようにして深呼吸を促す。

 アンは両目をつぶり、ゆっくりと息を吸い、ゆっくり吐き出す。


 トンネルの中は、やたら殺風景で、松明の灯りがゴツゴツとした岩を照らしていた。

 どこからか微かに風が流れてきて、松明の火を揺らし、俺たちの顔に当たる灯りが揺らぐ。


 松明の灯りの中、アンは必死に深呼吸をして落ち着こうとしている。


 だが、長々とここにいるわけにもいかない。

 俺は話を再開する。


「四つの動かない反応がアンのお父さんかどうかはわからない。俺のスキルでは、そこまで判別がつかないんだ。ただ、状況から想像すると……、魔物に包囲された四人の冒険者がどこかに立て籠もっているんじゃないかと……」


「可能性はありますね……」


 ミレットは俺の想像を否定しなかった。

 考え込んでいる。

 賢いミレットのことだ、どう行動するか考えているのだろう。


「俺は状況を確認したい。ここから見ると鉱山の中は遮蔽物が沢山あるし、暗がりもある。コボルトに見つからないように、身を隠して四つの反応がある場所へ近づく。どうだろう?」


 俺の提案にミレットは、ジッと考え込んでいる。

 危険が大きいと考えているのだろう。

 コボルトは仲間を呼び寄せる魔物だと、ミレットは言っていた。

 数が増えることを危惧するのは当然だ。


 俺とミレットが黙っていると、アンが震える唇で言葉を発した。


「ミレット様とユウトは帰って……」


「アン!?」


「何を言うのですか!?」


「ごめんなさい。二人を巻き込んでしまって……。この先にお父さんたちがいるかもしれないんでしょ? でも、危険なんでしょ? だったら私が行く……。ユウトはミレット様を守って。二人なら戻れるでしょう?」


 アンの顔は真っ白で血の気がひいている。

 お父さんの身を案じているが、俺とミレットの命を危険にさらすことに責任を感じているのだ。


「アン。俺はパーティーのリーダーだ。リスクがあることはわかっている。だが、アンを見捨てるような真似は出来ないし、三人一緒に行動した方が生存確率が高い」


「でも……ミレット様が……」


「アンさん。領民を助けるのは領主一族の務めです。私は領主一族として務めを果たします。ユウト! 進みましょう!」


「お、おう!」


 結局、俺のスキルの件は追求されずに済み、四つの反応がある方向へ進み状況を確認しようということになった。


 ただ、ミレットが何か気になることを言っていた気がする。

 俺はトンネルを出る前に、ミレットに小声で話しかけた。


「なあ、ミレット。さっき領主一族がどうこう言ってなかった?」


「言いましたよ」


「領主一族って……、誰が?」


「わたくしです」


「……え?」


「わたくしは、城塞都市トロザの領主アルフォンス・トロザ・メルシー伯爵の娘です」


「えっ!?」


「黙っていて、ごめんなさい」


 俺はマジマジとミレットの顔を見る。

 お嬢さんだろうなと思ってはいたが、領主の娘……、つまり貴族だったのか……。


「あー、その、今まで色々とご無礼をいたしました」


「いえ。気にしないで下さい。今まで通りお願いします」


 ミレットは照れくさそうにしている。

 俺は面白くなって、気取った声で呼びかけてみた。


「ミレット様……」


「今まで通りで!」


 こうして俺たちは、コボルトに見つからないように鉱山フィールドの探索を始めた。

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