第41話 ダンジョンで不思議に思うこと

 俺たちは、四階層の戦いに慣れてきた。


 四階層の魔物レッサーツナは、動きが速く突進力が強い。

 だが、レッサーツナの動き自体は直線的だ。



 突っ込んできたレッサーツナを、俺が盾で弾く。

 ↓

 レッサーツナが床に落ちる。

 ↓

 アンとミレットがタコ殴り。



 この戦い方で連戦連勝を続けている。

 必勝パターンがわかれば、何ということもない!


 ミレットは、魔法を使わなくても戦闘に参加出来るので喜んでいる。

 魔法の杖を振り回しながら『死になさい!』なんて言っているミレットには、先ほどの甘い雰囲気の欠片もない。


(ふう、ダメダメ! 相手は、まだ子供だよ!)


 そうなのだ。

 俺は日本からの転生者。

 前世では大人だった。


 一方、ミレットは十三歳。

 大人の俺が十三歳のミレットにトキメクなど、『事案発生!』である。


 だが、現在の俺は異世界の少年でミレットと同じ十三歳。

 母親であるサオリママに甘えることもある。

 多分、精神が肉体に引っ張られているのだろう。


 つまり、俺は名実共に十三歳で、ミレットとホニャララホニャララしてもセーフ?


 ホニャララ♪

 ホニャララ♪

 ホニャララ♪

 ホニャララ♪


 頭の中がホニャララだらけになりながら、四階層の通路を走っていると、後ろからミレットが叫んだ。


「ユウト! 前!」


「え?」


 イカン!集中していなかった。

 前方にレッサーツナ!


 俺が足を止めて盾を構えると同時にレッサーツナが空中を突進して来た。

 俺はちょっと焦ったが、この階層で繰り返してきたパターン通りに行動する。


「セイッ!」


 盾を横に動かし、突進して来たレッサーツナを受け流す。

 レッサーツナは、突進した勢いのままダンジョンの壁にぶち当たり、壁に当たった衝撃で床に落ちた。


 床に落ちるとビチビチと跳ねている。

 まさに陸に上がったマグロ。

 シメ時である。


「こんのぉ! マグロ野郎!」


「えい! えい! えい!」


 アンがショートソードでレッサーツナの胴体を突き。

 ミレットが、レッサーツナの頭部に魔法の杖を振り下ろす。


(マグロさんを許してあげて……。マグロでも許して……)


 俺は女性に逆らってはダメだなと思いながら、タコ殴りにされるレッサーツナに心の中で手を合わせた。


(成仏しろよ! アディオス!)



 俺はこの初心者ダンジョンのコンセプトが分かってきた。


 一階層は、魔物との戦闘。

 二階層は、人型魔物との戦闘、武器への対応。

 三階層は、魔法を使った戦闘。

 四階層は、盾を使った戦闘。


 つまり色々な戦闘パターンをこなせる冒険者パーティーじゃないと、ダンジョン攻略が進まない。


(これは誰かが意図して作ったのだろうか? それとも偶然?)


 俺はそんなことを考えながら、四階層の通路を走った。

 というのもミレットを意識してしまうと、前のめりになった姿勢で無様に走ることになるからだ。


 真面目なことを考えて邪念を振り払う。


 もし、誰かが意図したとしたら?

 何のために?


 俺は走り、戦いながら思考を進める。


(いきなり強い魔物を配置したら? 例えばドラゴンとか?)


 もしも、ダンジョンが何かの防衛施設であるとか、金庫のように大切な物を保管する施設とかであるなら、強力な魔物を配置するのが正解だろう。


 だが、この初心者ダンジョンは違う。

 まるでトレーニング施設のようだ。


(ダンジョンとは何なのだろう……?)


 そんなことを考えながらも戦闘を続け、俺たちは五階層――最後の階層へ続く階段にたどり着いた。

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