第4話 外れスキルは、大当たりのスキル!

 ――翌日!


「やる気! イノキ! ダッー!」


 俺はサオリママにタップリ甘え復活した。

 母の愛は偉大なのだ!


 今日は冒険者ギルドで、新成人向けの初心者講習がある。

 俺は走って冒険者ギルドへ向かった。


 転生した世界は、スキルが非常に重要視される。

 職に就くにもスキルを基本にして人生設計を行うのだ。


 生産系のスキルを得たら職人になる。

 農耕系スキルなら農民になり食料を生産する。

 算術のスキルを得たら商人になる。


 そして戦闘系のスキルを得た者は、冒険者になる。

 冒険者はファンタジーRPGに出てくる職業そのもので、魔物と呼ばれるモンスターと戦い人々を守り、魔物から肉や毛皮を得るのだ。

 街の花形で人気のある職業でもある。


 では、俺のようによく分からないスキル――外れスキルを持つ者はどうするか?

 外れスキル持ちも冒険者になるのだ。


 この世界は魔物の数が多いので、魔物を討伐する冒険者はいくらいても良い。

 冒険者ギルドは、どんなスキルの人間であろうと受け入れてくれる。


 逆に他の職業は関連するスキルを持っている人を優先して採用するので、仕事と関係のないスキル持ちは敬遠されてしまう。


 ……と、俺は昨晩サオリママに教わった。


 そんなわけで、俺は冒険者になるべく冒険者ギルドへ向かったのだ。


「ここか……」


 冒険者ギルドはスラムから走って十分ほどの場所にあった。

 城塞都市トロザの西門のすぐ横だ。


 城塞都市トロザの西側には、魔物が跋扈する魔の森やダンジョンの入り口がある。

 西門の近くというのは、冒険者ギルドにピッタリのロケーションなのだろう。


 冒険者ギルドは木造二階建ての大きな建物だった。

 冒険者ギルドの入り口には、やさぐれた感じの男が立っていて、初心者講習は裏の訓練場だと教えてくれた。


 冒険者ギルドの裏に回ると運動場のような広いスペースになっていて、同年代の少年少女が沢山集まっていた。

 ざっと見た感じ五十人はいるだろう。


 地味な色のズボンにシャツを着た子供が多い。

 中には革鎧を着て腰に剣をぶら下げた子も要る。

 既に装備ありか……。

 お金持ちの子供なのだろう。

 正直、羨ましい。


 装備をきっちり身につけた五人の冒険者が訓練場に入ってきた。

 ガッチリした体格でヒゲを生やした男性冒険者が、野太い声で告げた。


「注目! これから初心者講習を始める! 俺は五級冒険者のタイソンだ! オマエたち新人の指導教官だ! 言うことを聞けよ! ヒヨッコども!」


 タイソン教官は、ギロギロと俺たちを見回し圧をかける。

 ヘラヘラ笑っていた子供も一瞬で背筋が伸びた。


 タイソン教官は続ける。


「知っての通り冒険者は魔物と戦うのが仕事だ。冒険者が魔物を退治する話を聞いたことがあるだろう?」


 俺の隣に立つ男の子が目を輝かせてコクコクと何度もうなずいた。

 俺も近所に住んでいたお兄ちゃんに聞いたことがある。


 冒険者がオークと戦って商人を守ったとか。

 農村に現れたゴブリンを魔法使いが焼き尽くしたとか。

 かなりカッコイイ話だ。


 タイソン教官は、訓練場の子供を見回して怒鳴った。


「いいか! 魔物を甘く見るな!」


 迫力のある声に思わずビクッとなる。

 タイソン教官が続けて吠える。


「新人冒険者のうち半数が! 一年以内に死ぬか! 怪我で引退する! これが現実だ! 魔物はオマエたち新人冒険者より強い! 油断したら死ぬ! まず、このことを心に刻め! 絶対に忘れるな!」


「「「「「……」」」」」


 俺たち新人は圧倒されて声も出なかった。

 俺たちはまだ十三歳で成人したといっても、まだまだ子供だ。


 タイソン教官は立派な体格の大人で、正直おっかない。

 オマケにタイソン教官の話の内容は、英雄の冒険譚とはかけ離れた危険極まりないリアルな話だ。


『マジかよ……』


 辺りを見回すと、みんなそんな表情をしている。


 そこへタイソン教官の追い打ち。


「返事をしろ!」


「「「「「ハイッ!」」」」」


 訓練場に入った時は、ガヤガヤしていて弛緩した空気だった。

 だが、今は『ビシッ!』とした雰囲気に変わっている。

 さすが教官を任されるだけある。


 タイソン教官は、満足そうにうなずく。


「よし! では、最初に自分のスキルの確認を行う。私の真似をするように。ステータス! ウオォォォーーーーーーーープン!」


「「「「「ステータス! オープン!」」」」」


 ステータスオープンと言葉を口にすると、目の前に透明な板が現れた。

 昨日、神殿で見たステータスボードだ。

 ステータスボードは非常に不思議な存在だ。


 俺は読み書きが出来ない。

 もちろん日本語の読み書きは出来るが、この世界の言葉の読み書きは出来ないのだ。


 それにも関わらずステータスボードに表示されている言葉は読むことが出来る。

 つまり、このステータスボードは、俺の脳に直接情報を流し込んでいる……とか……?


 俺は疑問に思ったが、この世界には魔法があるのだ。

 ステータスボードも魔法の一種なのだろうと俺は自分を納得させた。


「よし! 全員ステータスボードが出たな? では、自分のスキルをこのように指で押してみろ!」


 俺はタイソン教官の真似をする。

 ステータスボードに表示された自分のスキル【レベル1】を押してみた。


 するとスキルに関する説明が浮き上がってきた。


 ◆―― ステータス ――◆


【名前】 ユウト

【レベル】1

【スキル】レベル1


 ・レベル1⇒討伐ポイントを使って、自分が知るレベル1のスキルを取得することが出来る。


 ◆―――――――――――◆



(や……やった!)


 俺は目を開き無言でニンマリと笑った。

 外れと思ったスキルは、超大当たりのスキルだ!

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