第39話 ついに大魔王との決戦の時がきた!

 親父である勇者ヤリテガの遺志を受け継いだ俺は、その屍を越えてさらに進んでいき、ついに最深部にたどり着いた。


 そこは玉座の間のような広い空間となっている。そして、その中央にある祭壇のようなところに一人の男が佇んでいた。


 よく見ると、俺たちと同じ氷河期世代と見られるおっさんなのだが、そのあまりにヤバい姿に度肝を抜かれた。というよりもドン引いた。


 男は全身を緑色に塗りたくり、局部は造花のような飾りで隠れているものの、ほぼほぼ全裸のような格好をしている。まるでどこぞのスポーツの祭典で、あまりに奇抜すぎる格好から大顰蹙を買っていたの男のようだ。


 これまで見てきた氷河期おじさんとはまたレベルやベクトルが違う、底知れぬヤバさがあると俺は直感した。


 こいつが大魔王キョーセイセイコーなのか。見た目だけなら、魔王だったフドーイセイコーがざこに思えてくるほどだ。


「フハハハハハ! 私の名はキョーセイセイコー。全てをわからせる闇の大魔王だ!」


 俺たちの気配を感じ取ったキョーセイセイコーが振り返ると、祭壇から語りかけてきた。


「勇者よ、よくぞここまで参った。ちょうどいい、これからわからせの神にメスガキを生贄として捧げるところだ」


 わからせの神にメスガキを生贄に捧げるだと!?


 ていうか、わからせの神なんてのがいるとは初耳だぞ。


 祭壇の上に目を凝らすと、いやらしい木馬に跨がり荒縄でぎっちぎちに拘束されたJKくらいのメスガキと思われる女の子が苦悶の、いや恍惚な表情を浮かべていた。


「ふんっ! あんな薄汚いメス豚がわからせの生贄だなんて、大魔王だか何だか知りませんが全然わかっていませんね!」


 シコルが露骨に不機嫌そうな顔になり吐き捨てた。JCまでしかメスガキとは認めていない真性ガチロリのシコルにとって、生贄に捧げられている女の子がJKくらいなのが許せないようだ。


 いやシコルさん。お前の基準はやっぱりシビア過ぎるから。


「ひゃっひゃっひゃ。ワシャDMMじゃから全然いいぞい」


 ヤライソが臭い息を吐きながらそんなことをのたまった。


 DMM? あぁ、誰でもみんなメスガキってことか。確かお前は以前WDD、つまり若けりゃ誰でも大好きとか言ってたもんな。


「我こそは全てをわからせる者。そして、理不尽にメスガキから煽られる全ての氷河期おじさんを絶望から解放する者だ!」


 あれ? 何だかこのおっさん、ちょっとマトモなことを言っていると思うのは気のせいだろうか?


 ……いや、違う! 氷河期おじさんはメスガキから煽られてナンボってもんだ!


「それは思い上がりってもんだぞ、大魔王! 多くの氷河期おじさんはそんなことを望んではいない! それに、全てのメスガキをわからせるのはお前じゃなくてこの俺だ!」

「そんなことでは誰も救えぬ。誰もわからせることはできぬ! 勇者よ、お前も生贄となるがよい! 出合え、我が下僕たち! こいつらを捕らえて生贄とせよ! あ、でもそこのババアはいらん!」


 キョーセイセイコーがそう言い放つと、大魔王配下のティカーン、ジョーレイ、カイハルが現れた。


「ちょ、失礼ね! 誰がババアよ! ねぇコドージ、こいつらあたしがやっちゃっていいかしら?」


 そう言って、メリケンサックのついたグローブをはめるトヨーコはる気満々だ。


 メスガキなら俺が真っ先に相手をするのだが、大魔王配下の奴らは俺らと同じ氷河期おじさんのようなので、ここはトヨーコに任せることにしよう。


 トヨーコは《拳》を使った。


「はぁ? 痴漢されただぁ?? 誰がテメーみたいなババアのケツなんか触るかよ! ……って、ぐふぉおあああああ!」


 トヨーコは《拳》を使った。


「お前はババアだから青少年健全育成条例なんかに抵触しねーんだよ! つーか、誰がババアなんかと……ぶべしっ!」


 トヨーコは《拳》を使った。


「おいおい! 誰の許可を得てそんなとこに突っ立ってんだ? ここはあんたみたいなババアがいていい場所じゃねーから! 客取るならよそでやれや! ……ほぼぉわあああああ!」


 大魔王配下のティカーン、ジョーレイ、カイハルは、トヨーコの物理攻撃でみんな一撃で屠られた。


 それにしても、トヨーコの《拳》の破壊力はいつもながら本当に凄まじいものがある。


「ほう、ババアの分際でなかなかやるではないか。ならばメスガキ草を使ってからお前も生贄にしてやろう」

「はぁ? 生贄なんかまっぴらごめんだわ! でもお金を奮発するなら考えてあげてもいいけど」


 いいんかーい! このババア、どこまでも商魂たくましいな。


「ババアの戯れ言はともかく、勇者よ。この世界は理不尽に満ち溢れていると思わないか? いや、この世界だけではない。お前が元いた日本という世界についてもだ」


 キョーセイセイコーは静かに語り始めた。


「氷河期世代のおじさんというだけで、なぜ我々は虐げられなければならないのだ! 時代のせいで、社会のせいで仕事に就きたくても就けず、そのために結婚することも叶わず、金もないからただ自宅にいるだけなのに、世間からは氷河期童貞無職引きこもり貯蓄ゼロ子供部屋おじさんなどと蔑まれてきた……」


 ん? それって、まさに前世での俺のことだよね。


「それだけではない。女どもからはいつも『キモい、臭い、ジジイ、マジで無理』などとの罵詈雑言を浴びせられる。メスガキからそう煽られるならまだいい。だが勘違いしたババアどもから受ける屈辱の数々には我慢ならん!」


 そう言うと、キョーセイセイコーはトヨーコに憎悪の目を向けた。


 おいおい、このおっさんの言うことにいちいち共感できるんだが。


「そこで我はこの世界に転生して、前世で受けたあらゆる屈辱や恨みを晴らすべく大魔王となったのだ! わからせこそ我が生きがい! わからせられた者こそ至高なのだ!」


 うんうん、その通り! このおっさんとはいい酒が飲めるかもしれない。


「故に、我は全てをわからせる! それはメスガキだけではない。ババアもおっさんも、老弱男女全ての者をわからせるのだ!」


 えっ? は、はい?? 老若男女!? 


 あんたの言うわからせって、の方もありってこと???


 こいつ、まさかの両刀使いだったんかーい!!


「フハハハハ! いいリアクションだ。そういう目をしたおっさんこそわからせ甲斐があるというものだ! まずは手始めにお前をわからせて、わからせの神に生贄として捧げよう!」


 無理無理無理! それは絶対に無理だから!


 俺は過去一背中が凍りつき、そして命の危険とはまた違う意味での危険を感じた。


 こいつは絶対に滅ぼさなければダメだ!


 こうして大魔王キョーセイセイコーとの戦闘になったのだが、レベルをカンストしている俺の攻撃がほとんど通じずにまさかの苦戦を強いられる。


「フハハハハハ! チョロザップで鍛えたこの体にそんな攻撃など効かぬわ!」


 シコルやヤライソによる支援魔法も、キョーセイセイコーが放つ『えずくはどう』により悉く無効化されてしまう。


 ごついメリケンサックを《拳》に装着したトヨーコによる物理攻撃もまるで効いていないようだ。


 そうこうしているうちに、シコル、ヤライソ、トヨーコが次々とヤられていった。


 トヨーコはババアとはいえ女だからまだいいとして、シコルやヤライソはお気の毒としか言い様がない。


「フハハハハハ! 勇者よ、お前も大人しく我にやられるのだ! そうすればわからせられる喜びをお前も知ることができるはずだ!」


 アホか! そんな喜びなんか知りたくないわ!


 だが、このままでは俺もヤられてしまうのは時間の問題だ。


 ――どうしたらいい?


 ここでふと、俺は親父からもらったアイテムのことを思い出した。


 こうなったら一か八かだ!


 俺は《光のボールギャグ》を使った。


「フハハハハハ! 何をしようとこの我には通用せぬぞ! ……おごっ!? あがっ、ふがっ、あがががががっ!」


 口に《光のボールギャグ》を噛ませられたキョーセイセイコーはまばゆいばかりの光に包まれた。


 そこからは俺の攻撃が面白いようにヒットして、キョーセイセイコーはアへ顔で身悶えた。


 やがて、キョーセイセイコーは四つん這いになるような形で倒れて、こちらにその薄汚いケツを向けてきた。まるでそこに俺の《わからせ棒》を使えとばかりに。


 そこで俺は、別の意味でその望みをかなえてやろうと、トヨーコに止めを刺してもらうことにした。


「さっきはよくもやってくれたわね。五割増しで料金を請求させてもらうから覚悟しなさい!」


 トヨーコは《拳》×2を使った。


「んごっ!? ふぉご! あごっ! あがあがあがあああ! ……※◎∀#√%∑@!? お゛ごっ、う゛ごっ、あ゛がっ……お゛んっ♡ ん゛おっ♡ お゛がっ♡ ごほっ♡ あ゛ばっ♡ お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛♡」


 トヨーコによって激しくわからせられたキョーセイセイコーは、断末魔を上げながら息絶えた。


「さっきの料金に加えて、これもオプションとして追加料金取るわよ! 死んだってきっちり支払ってもらうんだから!」


 大魔王に止めを刺したのはお手柄だけど、死んだ相手からも金をむしり取ろうとするなんて、この女ほんと銭ゲバだな……。


 このように、トラウマになりそうなほどに酷い戦いだったが、俺たちはついに大魔王を倒したのだった。


 そしてとりあえず、生贄に捧げられていたJKくらいのメスガキについては、助け出した後《わからせ棒》を使ってきっちりとわからせておいた。

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