いつか夢見た地に立って

ショーン

没話だよー

没話(快晴と魁星の間に入るはずだったやつ)

本編に入れたかったけど、展開的に要らなかったなってなった話を置いていきます。


これは「快晴」と「魁星」の間に入るはずだったおはなし。









──キーンコーンカーンコーン。

その鐘の音は遅刻した間抜けを嘲笑うかのように、1時を告げた。


「ハァ…ハァ…最っ悪!せっかく走ったのに…ハァ…間に合わんかったぁ!」


家から学校まで全力猛ダッシュをかました間抜けは、急いで上履きに履き替える。そこから階段を駆け上がる頃には、体は到底11月とは思えないような暑さに包まれていた。



──かなで高校校舎の1番端っこ。1年1組の教室は5限目、言語文化の授業が既に始まっている。


「居眠りしたら今日の課題の点数0にするからな〜、寝るなよ〜」


「「「「「はーい」」」」」


5限目、しかも1番眠くなる授業である言文のせいか、みんな眠そうな返事を返す──


(5限目つる軍なのは聞いてないよぉ…)


──僕はそんな教室を後ろのドアの窓からこっそりと眺めつつ、入るタイミングを伺う。


弦岡軍曹つる軍こと弦岡先生。ニコニコとした顔に騙されてはいけない。

成績に関しては奏高校で1番厳しく付ける……と言われるこの先生の授業では、絶対にふざけないし、ふざけるやつは何も失うものがないヒロインだけ。そんな暗黙の了解のようなものが、奏高生の間では代々受け継がれてきた。


(正直出ていきたくない…!けど欠課を取られたくもない…!)


一旦頭を引っ込め、某猫ミームさながらに頭を抱えて悩む。今日は厄日かなんかなのか?厄日じゃなくてもめざましテ○ビの占いが最下位だったに違いない。


──そんなことをうだうだ考えていても仕方ない。もしかしたら何かあるかもしれない。そんな一縷いちるの望みにかけ、再び教室の中を見る。


「…もしかしてきょーちゃん気づいてる?」


教室を見渡すと1番後ろ、僕の席の横に座る親友きょーちゃんがちらちらとこちらを見ているのに気がついた。


試しに手を振ってみる。


中指を突き立てられた。


……どうやら親友きょーちゃんは僕の存在に気づいているらしい。僕の席を指さし、【早く来い】的なジェスチャーをしている。


「そう簡単に言われてもなぁ…」


【絶対やだ】という意を伝えるため、全力で表情を変えた。

──それがつぼに入ったのか、親友は肩を震わせて笑い始める。


「ん…?なあ、響。何がそんなにおかしいんだ?」


つる軍の意識が、きょーちゃんへと向く。


──今しかない。ありがとう我が親友よ、身を呈してまで僕を助けてくれたこと、感謝するよ。


義足を外し、ゆっくりとドアを開ける……


……ガタン


「……響、そして一叶。この2人は放課後職員室に来い。課題プリントを贈呈してやろう。」


全部お見通しだったらしい。つる軍は、いつものニコニコ顔のままそう告げた。


さっきまであんなに暑かった体は、真冬のような寒気を感じていた。

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