第13話 黄条の騎乗

 小野がウザ絡みしてきたあの日から、黄条の俺に対する態度がまた少し変化したように感じる。


「本番まであと4日だね。今日も頑張ろうね、誠くん!」


 放課後に俺を見つけると、明るく笑いかけてくる黄条。

 そして、その様子を微笑ましそうに見守る無瀬。

 そういえば、黄条からはいつの間にか下の名前で呼ばれるようになっている。


 そんな変化は、相変わらずサボりながらもちょくちょく顔を出してくる小野……はともかく、友人の明山たちにも気にされ始めていた。


「黄条って、お前のこと狙ってるんじゃねえのか?」


 ヘラヘラと俺に耳打ちして、からかってくる小野。


「気を付けた方が良いぞ」


 その一方で、彼女の本性を知っている明山は、俺のことを心配してくれていた。

 確かに、男に動画撮影されながらS〇Xするような得体の知れないビ○チに目を付けられるのは、背後にどんなリスクが隠れているかがわからない分、注意が必要だろう。


 彼らが気にするように、確かに俺の思い上がりでなければ、最近の黄条の言動からは、俺への好意のようなものを感じる。

 相変わらず周囲には尖った雰囲気を纏っているが、何故か俺にだけは柔らかい雰囲気というか……


 不覚にも、少し可愛いと思ってしまう。


 だが、俺は騙されない。


 決意が揺らがぬよう、俺は文化祭本番までほぼ毎晩、黄条の動画を見ることにした。

 画面越しの彼女は、何度見ても槍坂と激しく交わっている。


 俺は考える。

 男ならともかく、女にとってあんな激しく行為を致すのは、相当な覚悟のいることだと思う。

 ……普通の倫理観であれば。

 つまり、何か対価を得ていた……?お金とか……?


 いや、黄条は噂によれば地主の一人娘。金銭面で苦労することはまずあり得ないだろう。

 となると、何だ?

 槍坂のことが本気で嫌なら、黄条の性格だ。きっぱり抵抗するだろう。

 するとつまり、黄条は肯定したということ……


(まさか、黄条は男を見る目がなかっただけで、槍坂と一時的に恋人で、彼とそういう関係になっただけ?)


 一つの仮説が浮かび上がる。


 いずれにせよ、男の俺からすると想像するだけでしんどい。だが、その場合、彼女を拒絶するのは、少し冷たくも思える。


 元カレとの行為が映像として残っているのはどうしても受け入れがたいし、何よりNTR感が強すぎて辛い。


 だが、一度槍坂を好きになっていたとしても、その後きっちり別れを告げていたのであれば、それは仕方のないことなのではないか?


 ―――俺は黄条を信じたい、そう心のどこかで思ってしまっていたのかもしれない。




♢♢♢




 そしていよいよ文化祭の前日が訪れた。

 クラスメイト達は総動員で手分けして暗幕やら装飾やらを配置し、普段勉強していたはずの空間は、みるみるうちに薄暗いお化け屋敷へと変化していく。


 俺たちは小道具班だったが、まずは設計の土台を完成させる必要があることから、制作を担当していなかった大道具を、黄条と一緒に搬入していた。


「黄条さん、こっちにお願い……!」


 クラスのアイドル枠である城花さんの誘導に従い、黄条は大きな段ボールを運びこんでいたのだが……


「きゃっ!」


 悲鳴が上がる。

 暗い中での作業で足元を取られた彼女は、持っていた段ボールに気を取られてバランスを崩してしまった。


「危ない!」


 俺は咄嗟に彼女の身体をかばおうとした。だが、荷物の重みの分だけ俺は支えきれず……そのまま、強い衝撃が襲う。


「……ったた……」


 目を開けるとそこには、俺の身体に覆いかぶさるように両膝をついて転んでいる黄条が……


(ぐらっ……)


 一瞬、眩暈がした。

 そして同時に激しい動悸と、吐き気に襲われる。


 仰向けに倒れる形となった俺は、上手く受け身を取れずに、少し頭を床に打ってしまったらしい。

 だが、それ以上に、目の前の暗がりに広がる光景が、俺の記憶を刺激して、激しく拒絶していた。




「……どけよ!」




 低くて暗い怒声が零れる。

 それが自分の口から発せられたものだと理解するのに少し時間がかかった。


 ―――気がついたら俺は、反射的に黄条の身体をはねのけていた。

 と姿が重なって、つい思い出してしまったから。


 黄条は俺を仰向けに押し倒すような体勢で、そのまま腰を落としており……

 俺の嫌いな、ビ〇チな女と重なってしまった。


「……えっ……」


 俺に押し返された黄条は、尻餅をついて、少し涙目になっていた。


 何が起きたのか分からないという表情で、彼女は不安げな表情を浮かべていた。

 身体も少し震えていた気がする。


「……いや、何でもない。ごめん」


「……う、うん」


 それからはぎこちない雰囲気となった。

 幸い、周囲は暗かったこともあり気づかなかったようだが、一瞬見せた怯えるような黄条の様子は、普段の凛とした彼女の姿からは遠くかけ離れたものだった。


 何をやってるんだ、俺は。


 バランスを崩したのを無理にかばって下敷きになったのは俺だし、黄条が悪いわけではないのに。

 だがこれ以上何と謝れば良いかも分からず、話を蒸し返すのも変な気がして、俺は黄条を避けるようにしつつ、最後の準備を行うほかなかった。

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