Chapter 3 再び
気が付くと、アルマは真っ暗な空間に立っていた。その中心には見覚えのある椅子と、望んでいた女子がいた。
「あれから……、3日ぶりかのう」
シトリーは生意気な態度で座りながらアルマを見上げる。
「まずは称賛しよう。幹部の1人をよく落としたのう! あやつは昔からおる大物じゃ」
素直に称賛を受け取ろうとするアルマ。その脳裏にある疑問がよぎった。まだ話していないのになぜ知っているのか、と。その答えはすぐ思いついた。
「まさか、ずっと見てたんですか!? 僕がボコボコにされるところも、転移した直後に暗殺されそうになった挙句、魔法の出し方が分からず四苦八苦してたところも!」
シトリーは静かにうなずく。
「残念ながら、わしができるのは見守る事のみ。干渉はいっさいできぬ。まぁ転移場所が悪かったのはわしのミスじゃがのう! てへぺろ!」
「ゑ、何ですか? 燃やしてくれってことですか?」
イラつきのあまり、右手に火球を浮かべる。シトリーはそれに全く動じず、冷静に笑みを浮かべていた。
「魔法もなんだかんだ使えるようになったではないか」
「本当になんだかんだ、ですけどね」
用のなくなった火球を握りつぶすように消火した。
シトリーは椅子の手すりに肘を付き、足を組みなおす。
「さて、お主の用件は何じゃ? 用があるからここに来たんじゃろ?」
「はい。……指輪の勇者について教えてください」
「……クロニスか」
真剣な口調に場の空気がガラリと変わった。暫し瞳を閉じる。意を決したように瞼と口を開いた。
「奴が言っていたことは全て真実じゃ。お主は42番目の指輪の勇者じゃ」
「42番目……」
「どの勇者も各々頑張ってはいた。しかし、四護を落とすに至った者はおらぬ」
自分より前にいた41人の指輪の勇者。その全てが負けた。敵が発した言葉を信じたくはなかったが、身内に事実だと突きつけられてしまった。
表情が暗くなったアルマに問いかける。
「どうした、怖気づいたかのう?」
「……いえ、逃げるつもりはありません。あなたのため、ハイド村の敵討ちのため、そして世界にもう被害を出させないため戦うって決めました」
答えを聞き、シトリーは満面の笑みで頷いた。
シトリーは掌の上にいつかに見た水晶玉を顕現させ、覗き込んだ。
「そろそろ夜が明ける。時間じゃ」
アルマの背後を指さすと、そこに光あふれる扉が現れた。
別れの挨拶として軽く会釈した後、アルマは出口の方へと向かった。あと一歩というところでまた呼び止められた。
「2つほど伝えることがあるのを忘れておった」
「2つ?」
「1つ目。お主はこれから魔法の勉強をするが、頭に入れておいてほしい。『お主は光属性の魔法を使えぬ』」
光属性の魔法。まだ勉強していないから詳しいことは分からないが、それだけ使えないことがあるんだろうか。
「”レイヴン”」
唐突に魔法を唱えるシトリー。指先に黒紫色のもやのような怪しい塊が浮かんでいた。
「学べば分かる。これが証拠になるはずじゃ」
アルマは煮え切らない思いを飲み込むことにした。
「は、はぁ。で、2つ目は?」
「2つ目は『目覚めたら右に思いっきり飛び込んで回避じゃ』!」
「また!?」
「にゃっはっはっ! まぁ前とは違って命に関わることは決してないから安心するのじゃ! ほらさっさといけ!」
指先に浮かべていた”レイヴン”を指で弾くように飛ばす。アルマはそれから逃げるように、光の中へと飛び込んだ。
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