第39話 時計の針が止まる時...

時同じくして...


「くっ...何なんですか?あの人...って言うか魔物?性格も嫌ですけど...それよりも。」


木の影に身を潜めた麻生は少し覗き込んで遠くの人影を見つめる。


「おのれ~!!ちょこまかと隠れてないで姿を現せ!!卑怯な人間がぁ~!!」


その視線の先にはダンダン...と地団駄を踏む幼子シャーロットの姿があった。一先ず見つかってないと麻生は安堵のため息を漏らした。


「魔物も恩恵スキルを持つ存在...とは聞きましたが、回復系とは相性が悪すぎます。少し悔しいですけど、心愛ちゃんと合流した方が...。」


そう決断した麻生は身を低くして静かに移動を開始した。しかし...次の一手を考えたのは幼子シャーロットも同じであった。


「炙り出し...派手なのは止めろと言われたが致し方無しじゃ!何より蜥蜴リビィに負けとうない!」


シャーロットは手にした鉄扇に巨大な炎を纏わせる。それは近くの草木が熱さで焦げるほどである。


「薙ぎ燃やせ!!火天月地かてんげっち!!」


鉄扇を大きく一振すると、それより飛ばされた熱風が一気に森を焼き尽くす。逃げようとした麻生もそれに気づいて小さく悲鳴をあげた。


「ん?少し熱...って、はぁ!?あの魔物!正気ですか?こんな場所で火を使うなんて...自分の仲間も巻き込むつもりですか?」


「そこに居ったか!異界の人間よ。もう逃がさんぞ!」


ようやく見つけた敵の影にシャーロットは意気揚々と麻生の元へと向かっていく。


「どうせ退路は無いでしょうに...でも、お陰で覚悟ってのは決まったかも知れません。装填バレット・チェンジ


ガチャン!


あくまで冷静に麻生は銃口を飛んでくる標的に定めて呟く。


「むっ?また同じことの繰り返しか?先ほど仕留め損ねたと学んでおらぬのか?だが諸刃の愚策...嫌いではないぞ?」


「耳が痛いですね。でも一つだけ教えてあげます。追い詰められた人間魔物を噛むんです。散弾バースト!!」


「これは...!」


銃口より放たれた弾丸は一直線にシャーロットへと向かっていき、命中する寸前で大きく膨張して破裂した。


パラパラ...。


煙が周囲を包むなか、爆風を避けて地に伏せた麻生がゆっくりと起き上がり、注意深く目を凝らしてシャーロットが居た位置を確認する。


「ケホッ!ゴホッ...。流石に無傷にすることは可能でも無敵であるわけがない。これならば復活まで時間がかかる筈です。今なら...」


「逃げられる...とでも考えてみたか?詰めが甘すぎるのぅ。」


「なっ!?あれでも駄目なんですか?」


煙の中から聞こえた声に麻生は思わず歯をギリッと鳴らす。


「悲観するでないぞ、良い一撃じゃ。何せ妾が受けることなく防御を選んだ...誇るが良い。その褒美に妾もそれなりの一発をくれてやろう。」


シャーロットが鉄扇を天に掲げると周囲で燃え盛る炎の勢いが弱まり、小さな火の玉が鉄扇の頭上にふわふわと集まっていく。


「空に...もう1つの...太陽。」


そう言って身体を震わせた麻生、本能が告げたのを理解する。は危険すぎると、足が勝手に踵を返す。


「ふむ...確かに火が弱まれば逃げ道も生まれよう...じゃが。もう手遅れじゃ!生天剝日せいてんはくじつ。」


シャーロットの手を離れた巨大な火球は一直線に走り去る麻生の元に向かっていく。逃げながら振り向いた麻生は諦めを呟く。


「はぁ...はぁ...ッ!!心愛ちゃん...ごめん!」


ズドォォォン!!


地に落ちた火球は辺りを吹き飛ばして大地に大きなくぼみを1つ作成して、その変わり果てた景色に僅かに頬を引き攣らせたものの、シャーロットは胸を張る。


「ちと張り切りすぎたかのぅ?でも、まぁ…取り逃がして咎めを食らうよりはマシと考えるべきかのぅ?カッカッ!」


「加減をしろって言ったよね?鳥頭...?」


「む?その声...蜥蜴もどき?妾をそう呼ぶなと何度言え...ばばばっ!?」


聞き慣れた声に反応して、振り返るシャーロットを強力な水流が包み込んだ。抵抗する間無く彼女シャーロットは勢いに流されていく。


「派手に立ち回って時間を稼いだ努力に免じて、それくらいで勘弁してやる。...。」


水に溺れて気を失ったシャーロットを担ぎ上げたリビィは大きなくぼみを見つめる。まるで何かがそこに見えてるかのように。


「とりあえずリリュスと合流しなきゃ、流石にアイツが付いてれば、どんな不足も関係ないだろうけど...。てか重いな。鳥頭こいつ。」


リビィはシャーロットをズルズルと引き摺りながら、先程リリュスと別れた場所を目指すのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アハ...アハハ...!♡ほら!見なさい?魔王ちゃん!♡この惨劇はキミのせい♡キミが弱い只の人間だから!」


「あぁ!!リリュスさん!!ペペ!!あぁぁッ!!」


勇者である敵の女の子に押さえ付けられた私は目の前の光景に悲鳴をあげる。涙で視界がぼやける自分が情けないと思う。


「泣かないで...くださいな。雫...様。」


「そうよ...ペペ達は...余裕かしら。」


同じように地に伏した彼女達はそう言うと私を安心させようと微笑んで見せる。でも...それが強がりだと分かりきっている。


「アハハ♡健気だねぇ~♡流石は魔王に仕える配下だねぇ。安心して?ちゃんと大事な娘も同じ目に会わせるからさ♡」


私の上に股がる女の子は手にした刃物を私の首もとにあてがい、嬉しそうに笑った。


「その方に...かすり傷の1つでも...付けてみなさい?その時は...死よりも...苦痛を...。」


「リリュスさん...。」


「きゃあ...♡怖いなぁ~♡でもぉ?今のキミ達は魔王ちゃんの死を止められないでしょ?♡」


ザクッ!!


リリュスさん達の制止より先に私の首に刃物が突き刺さる。じんわりと拡がってくる痛みと温かさに...意識が離れていくのを理解した。

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