第42話 おじさん、告られる①
「しかし本当にいいのかなぁ、リンネ一人残してきて」
「師匠なら大丈夫ですよ。魔人や魔族程度、百体同時にかかってきても余裕です」
一息に喋る呪術師あらため寿術師のミカ。
彼女は俺の左腕をガッチリと抱きかかえている。
「ひゃ、百体って……」
「大体、もしレインとかいうやつが逃げてもケントに責任はねぇだろ? ちゃんと国が捕まえとかないのが悪いんだよ!」
そう声を荒げるのは
彼女は俺の右腕に体を押し付けてガッチリとホールドしている。
「悪かったわね……騎士団が無責任な腰抜けで」
ため息交じりにそう呟くのはセオリア。
彼女は再会した当初のように騎士然とした口調ではなく、最近はめっきり素で話すようになっている。
そんな彼女は俺たち三人の後ろからついてきている。
「ったく……二人ともケントと堂々とイチャイチャして……。私は世間体や社会的立場があるから……」
セオリアはブツブツと文句(?)を言っている。
いやいや、これは俺が逃げないように拘束されてるだけだと思うぞ?
露店で賑わう通りを抜ける俺達に町の人々が声をかけてくる。
「あら、賢者様! 今日は両手に花で!」
「街を救った英雄様は色にも強いねぇ!」
「あ、
うぉぉ……。
ものすごく背中がむずむずする……。
別に俺は賢者じゃないし。
英雄でもないし。
ましてや『
でもこいつらは復讐のために俺を取り押さえてるだけだからね?
とはいえ、それをいちいち説明して回るわけにもいかないので。
「えへへ~……どうも~……」
と、ヘラヘラと頭を下げて通り過ぎる俺なのであった。
「でもよかったです」
「へ? なにが?」
「なにがって決まってんだろ。ケント、洞窟で言ったらしいじゃね~か」
……ん?
なんか言ったかな?
「ほら、『俺は、女は大好きだァァァァ!』って」
……は?
いやいや……え?
なにこれ?
往来のど真ん中でなに言ってくれちゃってるの?
え、これそういうタイプの復讐?
「いや、それは売り言葉に買い言葉ってやつで……」
とっさに訂正しようとする。
これじゃまるで俺が「女好き」みたいじゃないか。
俺は「女が苦手ってわけじゃない」って意味で言っただけだ。
似てるようでぜんぜん違うからね?
「へぇ~? レインさんはそうは言ってませんでしたけど?」
「はぁ!? お前ら、レインとなに話してたんだよ!?」
「秘密です」
「秘密だな」
「秘密ね」
「いやいやいや、おかしいだろ! なに敵の手先と一晩でそんな秘密ごとを抱えてるんだよ!」
ぎゅう~。
俺の両腕にミカとハンナの体が押し付けられる。
「私たち心配してたんですからね?」
「はぁ? 心配? なにを?」
「だからケントがだな~……」
ハンナを遮って後ろのセオリアが言う。
「女に興味がないんじゃないかって思ってたってことよ!」
…………は?
え、なに?
俺、そういう風に思われてたんだ?
「だってほら、私と一緒にカイザスまで五日も一緒に旅したのになにもなかったし……」
「私といっしょに宿で一晩を過ごした時もな」
「私という永遠の美少女にも反応しないし異常です」
ちょ……? いや、それは……。
『お前らが子供だから』
なんて本当のことを言ったら、なんかよくない気がする……。
なんだ?
この場で最適な正解は……。
そもそも俺に対する復讐と、俺が女好きであることに一体なんの関係が……?
ミカとハンナの責めるような視線。
そして背後からセオリアの死者の王デスサルコーのような……っていうか本当に封印されてたんだよな、デスサルコー。
しかもセオリアの育った孤児院に。
なんだこれ? どんな偶然?
孤児院の調査は騎士団が先にするから俺たちは関わるなって言われてる。
けど、落ち着いたらまた孤児院にも顔を出さないとな。
エリサにマムも心配だし。
なんて半ば意図的に思考を脱線させていると。
ぴこ~ん!
(こ、これだ……!)
天才的な洞察力を誇る俺が起死回生のチャンスを見いだした。
「わ、わぁ~、ここの手芸かわいいよね~(自分でも自覚できるほどの棒読み)」
そう言って、俺は以前セオリアと共に訪れた手芸屋さんにエスケープするのだった。
今度はミカとハンナ、そしてセオリアの三人を連れて。
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