第34話 生活環境、上向く
【まえがき】
今回はカイザスの街の人々視点でのお話です。
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【冒険者ギルド長ベルド・クレアラシル】
極端すぎる!
俺は一週間前まで薄汚れた
それがなんだこれは……?
『ワイワイガヤガヤ』
ずいぶんな活気じゃねぇかよ……。
あふれかえる人、人、人。
ちょっと前まで蜘蛛の巣と埃だらけだったここがだぜ?
これもハンナが中心になってエル、ヤリス、コビットが修繕を手伝ってくれたからだなぁ……。
なんつ~か。
熱があるよ、あいつらは。
へへっ……。
すっかり俺が失っちまってたもんだ。
熱。
そうだよ、熱。
この十年間、俺が忘れてたものだ。
それがよぅ。
なんでぇなんでぇ。
蘇ってきちゃうじゃないの、こんなの。
「ベルドさ~ん! 午前の分の新人のリスト作り終わりました~!」
「おう、ご苦労! 休憩してくれていいぞ!」
「はぁ~い!」
こうして新しい受付嬢まで雇えてる。
わかんねぇもんだな、人生いつ何がどうなるかなんて。
ま、これも全部。
ケントのおかげ。
なんだよな。
剣鬼ケント・リバー。
本当に還ってきたんだなぁ……。
ありゃマジでカリスマだ。
本人はこの十年の隠匿生活でボーっとしちゃってるけどよ。
相変わらず実力は本物。
っつ~か、前以上?
バケモンだわ、ありゃ。
唯一欠点があるとすれば……。
未だに十年前の
解消してやんねぇとな……俺が。
当時調子に乗ってたあいつを
だからケントを今度の洞窟調査でエルたちと同行させて、その傷を癒やしてもらおうと思ってる。
仲間を守って。
ケントにとっていいリハビリになるはずだ。
エルたちだってなかなかの腕利き。
失敗するってことはないだろう。
剣士エル。
戦士ヤリス。
狩人コビット。
スカウト、テン。
この四人が中心で。
お目付け役のキング副団長。
案内役のジャンヌ副団長。
そこに剣鬼ケントだ。
それともう一人……あれ? 誰だっけ?
ああ、そうだレインだ。
レイン。
荷物持ちの影の薄い男。
計八人での探索。
適切な人数だ。
洞窟に大人数で挑むほどバカなことはないからな。
ケントの取り巻きの嬢ちゃんたちはブーブー言ってたけどな。
セオリアは副団長のジャンヌが行くから団長として留守番。
ハンナは追求されてないだけで元盗賊ギルドボスってバレてるから、執行猶予中の元部下、テンたちと同時に外に行かせられるわけがねぇ。
んで、ミカとリンネは今回は国が招いたお客様だ。
危険なダンジョン探索になんか参加させられねぇよ。
ってことで。
今度の洞窟探索。
これでケントも少しはシャキッとしてくれるとありがたいんだが……。
あいつは冒険者の復興を目指してるらしいが、俺からすりゃケント。
復活しなきゃならんのは、お前の方だよ。
いつまでものんべんだらりと第一線から退いたご隠居ヅラしてんじゃねぇぞ?
俺がお前を復活させてやるからよ。
また一緒に見ようじゃねぇか。
冒険者の灯す「光」ってやつをよ。
【武器屋ボルト・ワカバ】
目が回るってのは別に例えじゃない。
「ああ、そっちは七銀貨だよ」
「使い方? 握って刺す、それだけだって」
「あ~、こっちは素材の加工業者の方ね」
首、ぐるんぐるん。
体、あっち向きこっち向き。
こないだまで閑古鳥鳴いてた店が嘘みたいな盛況っぷり。
次々押し寄せてくる冒険者志望のお客さんや、一手に任されたワイバーンの素材の関連業者、おまけに役人や冷やかしまで連日顔を出しやがる。
(こりゃ宣伝効果が強すぎたな)
ワイバーンを一刀両断した剣。
ケントに持たせた剣。
『
そう大仰に名付けた剣。
ただの鋼製の剣だ。
けど、市民にとっちゃ聖剣のように思えたらしい。
客足殺到。
(ひぃ~、勘弁してくれよ)
ウワサでは、遠くの国からワイバーンの希少で新鮮な素材を買い付けるために
そんなの対応しきれねぇって。
しかも今まで盗賊相手に商売をしてた武具屋の連中。
自分たちが素材加工のノウハウを持ってないからって俺を武具ギルドの重役に推薦してるとか。
俺に取り入りながらノウハウも盗もうって魂胆。
まったく商売人らしい
武具にかけるプライドってもんがないのかね。
にしても。
もう潮時かと思ってた武器屋だったが。
まさかここまで変わることになるとはな……。
ケント、これも全部お前のおかげだ。
お前が冒険者を続ける限りは全力でサポートさせてもらうぜ。
そのためには武具ギルド……。
目指してみてもいいかもな。
俺も、本気でこの道のてっぺんを。
【中華露店女店主ソウォン・カイネ】
あら、お兄さんイケメンだね。
ここらへんの人じゃないのかい?
ああ、そう、どうだい? 今日は
え? 食事じゃない?
話かい? お客さんだったら話してもいいけどねぇ……って、はい肉まんね。
じゃあ、これが蒸すまでなんでも聞いとくれ。
あ、言っとくけど子供が一人いるよ、
名前はウォンヒ。
抜けてるけど裏表のないいい子でねぇ。
でも父親がいないんだよ。
あんたどうだい? 子持ちの女はいやかい?
え? そんな話はどうでもいい?
まったくつれないねぇ。
で、なんだい? え? 黒髪の?
ああ、賢者様のことかい?
ちょくちょく来てくれてるよ。
ウォンヒが連れてきてね。
最近は誰かしらお友達も連れてきてくれて助かってるよ。
ほら、こんな場所だろ?
匂いも味も独特だしさ。
なかなか常連さんってのが出来なくてね。
その点、賢者様はいいさ!
まず金払いがいい!
次に美味そうに食ってくれる!
やっぱ嬉しいじゃないか。
自分の作ったものを美味しそうに食べてくれるってのはさ。
料理人
え? お友達かい?
頭のツルツルのデカい男に、武器屋の旦那が多いかね。
女の騎士様とか可愛い女の子も何回か連れてきてたねぇ。
そうそう、うちのウォンヒと同じくらいの年齢の子も二人いたよ。
やっぱりモテるんだねぇ、賢者様は。
話の内容?
あんまり詳しくは聞いてないけど「ずっと森の中でサバイバルしてたから、ちょっとしたことでもすごく幸せに感じる」とかそういう話をよくしてたかねぇ。
あとは昔話かねぇ。
冒険者だったんだろ、賢者様?
え、今も? へぇ。
ああ、ワイバーンを倒したのも賢者様なんだってね。
でもあんな人の良さそうな人が……やっぱり私らには賢者様ってほうがしっくりくるねぇ。
へ? 賢者様の弱点?
そりゃあんた、決まってるだろ。
「女」だよ、「女」
だって賢者様ったらさぁ。
最初に私が迫った時に顔を真赤にして飛び出していったからね。
ありゃ意外とおぼこな可能性も……。
へ? もういい?
あれ、白髪のお兄さん?
もう肉まん蒸し上がるよ?
っていうか、お代!
お代置いとっておくれよ!
……って。
……あれ?
なんだっけ?
私、なんで肉まん蒸してるのかね?
んん~?
たしか誰かお客さんが来てたような気が……。
気のせい……?
やだやだ、この年でまだボケたくないねぇ。
しょうがないからこの肉まんはウォンヒのおやつにでもするか。
「ウォンヒ~! おやつだよ~!」
「わ~い! おやつ~!」
「ウォンヒ、また鼻垂れてる! ちゃんと拭きなさい!」
「はぁ~い! ズビズバ」
【ワイバーン襲来の時にいたおじいちゃん】
ぷるぷるぷる……。
今日も天気がいいのぅ……。
ぷるぷるぷる……。
おや、こんな昼間にコウモリが飛んどるのう。
こないだは
今日はコウモリ。
なにかが……起こりかけとる気がするのう……。
ま、余命
ぷるぷるぷる……。
さて、今日の散歩はこれくらいにして家に帰るとするかのう……。
ああ、そういえばワイバーンを倒した若者。
優しくワシを避難させてくれたのぅ。
ああいう若者がいれば、この街も安心じゃろ。
ぷるぷるぷる……グギッ!
うっ、腰が……!
今、目の前を通り過ぎた若者に助けを求めるとしよう……。
「そこの若者よ……。ちょっと腰が抜けて……手を貸してくださらぬか……」
「……俺のことが見えるのか?」
「ああ? 目が悪いからのう、ぼんやりと感じるくらいじゃが。おるじゃろ? 優しそうな雰囲気が感じられるよ」
方便じゃ。
こう言われたら助けざるをえんじゃろ?
年寄りの生きる知恵じゃよ、ふぉふぉふぉ。
「俺が優しい、だと……!?」
ギリッ──!
歯ぎしりの音が聞こえた気がするが、秘技「聞こえなかったふり」じゃ。
別にこっちはいつ死んでもいいんじゃも~ん。
怖いもんなんてないもんね~。
ただ、ぎっくり腰は痛いから助けてほしいがのぅ……。
「チッ! 肩貸せっ!」
白髪の若者はワシを噴水の石垣に座らせると右手を向けて「……必要ないか」と言った後、早足で立ち去って行ったんじゃ。
? 無愛想な若者じゃったが助かった……。
さて、ここで痛みが収まるまで待つとするかのぅ。
バサバサバサ。
お、さっきのコウモリが白髪の若者の肩に止まったのぅ。
ふむ、意外とあの若者は「魔の者」で国家転覆を企む悪の手先だったりしてのぅ。
ふふ……そんなことあるわけないに決まっとるがのぅ……。
ぷるぷるぷる……。
腰……。
早くよくならんかのぅ……。
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