第25話 おじさん、跳ぶ
ワイバーンの襲撃。
その報を受けて俺達が街の正門にやってくると──。
「どわ~~~~~~!
どいてどいてぇぇぇぇぇぇぇ!
どいてくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
馬に乗った金髪ショートの少女が涙目で突っ込んできた。
「ふぉふぉふぉ、元気なお嬢さんじゃのう……」
どこぞの通りがかりの爺さんが言う。
ああ、俺も同意見だ。
ただし──。
後ろにワイバーンを連れてきてなければ! だがな!
っていうか爺さん避難してろ!
マジでアブねぇから!
俺と一緒に駆けてきたセオリアが馬上の副団長に声をかける。
「ジャンヌ!」
その声に、副団長の少女はパァと顔を輝かせた。
「セオリア団長~~~!(泣)」
「なんでこんなことに!?」
「それが、それがぁ~~~~!(焦)」
「落ち着いて話せ! 他の仲間はどうした!?」
「私が
「で、なんでワイバーンなんかに追われてる!?」
「それがわかんないんですよぉ~~~!」
「どれくらいの間追われてる!?」
「ずっとです!」
「ずっと!?」
「はい、怪しい洞窟を見つけてから三日三晩~!」
うん、ずいぶんと頼りなさそうな副団長だな……。
子供だし……。
お飾りの女騎士団、か。
にしても。
ワイバーン。
冒険者時代に一度戦ったことがある。
飛龍。
飛行能力に長けた小型のドラゴン。
やつらは機動力が高く──。
通常は人を襲わない。
襲う意味がないからだ。
人間は可食部が少ない。
おまけに武器を持ったり、遠距離攻撃を仕掛けてくることもある。
そんな相手に襲いかかるようなことは、大空を自由に
なら──なんで彼女を追ってる?
俺が過去に
こんなにしつこく一人に執着して追ってくるってこと自体ちょっと普通じゃない。
たしか「怪しい洞窟」がどうとか言ってたよな……?
「おい、キミ」
「はい?」
「もしかしてその洞窟からなにか持ち帰ってないか?」
「ああ、そうなんですよ! これ!」
少女がどす黒い
「借りるぞ!(バッ!)」
「えぇ~!? 騎士団の貴重な遠征の成果なんですよぉ~!」
「いいな、セオリア!」
「ああ、もちろんだ!」
「えぇ~、団長~!? っていうか誰なんですか、あのおじさん~!?」
俺は
「こっちだ!」
すると案の定、ワイバーンは俺を追ってきた。
(やはり……この
もう少しで広場に出るというところで見知った顔に出会った。
「ケント!」
「ハンナ! それにベルドも!」
「なんだありゃあ?」
「ワイバーンだ」
「見りゃわかる。なんでこんな
「
「狙ってる……って、お前なんでそんなもん……!」
「なりゆきで?」
「どんな成り行きだよ!」
「ところでベルド?」
「なんだよ!」
「
「はぁ!? 倒す気かよ!?」
「今、倒せる気がしてきた」
「してきたってお前……! まぁ、倒してから俺がおえらいさんに掛け合ってやってもいいが……」
「よし、決まり!」
「つーかどうやって倒すんだよ?
「ああ、それなら──」
ハンナを見る。
「
「ああ、
ハンナはニヤリと笑うと、そのたくましい腕で俺の腹を掴み。
ド──ン──ッ!
っと。
「と、跳びやがった……」
ベルドの呆けたツラが一瞬で眼下に遠ざかっていく。
そう、俺達は──。
突然自分の領域に飛び込んできた人間に驚き体勢を乱すワイバーン。
シュッ──!
俺は片手で木刀を振るう。
ガッ──!
手応えあり。
も……ダメージは少ない。
そりゃそうだ、木刀だ。
武器。
武器がいる。
なにか──。
とりあえずは。
「
……!
いつものように水面が上手く描けない。
宙だからか。
平面じゃないから。
左右だけじゃなく、上下の要素が入ってくるから。
困った。
そう思った時。
「ケント!」
声がした。
武器屋のボルトだ。
色々持ってる。
さすがは武器マニア。
ワイバーンを斬り刻める武器を片っ端から持ってきて売りつける気だったんだろ?
そして、それとは別に。
(あれは──?)
少し離れたところに見えた。
昨日、盗賊ギルドで戦った腕の立つ三人。
痩せと巨漢と色黒の美青年。
(元冒険者だからか)
魔物が──しかもワイバーンが出たとあっては居ても立ってもいられなかったのだろう。
わかる。
そういうものだ、冒険者ってのは。
たとえ一線は退いてても。
俺が──。
今、こうして宙を跳んでいるように。
ドゥ──ン……ッ!
「ハンナ! 大丈夫か!?」
ハンナがしてたのはあくまで
跳んだら着地する。
高く跳べば跳ぶほど、その着地の衝撃も大きくなる。
「ああ、大丈夫だぜ、ケント……私を誰だと思ってんだ?」
強がり。
笑うハンナの額に脂汗が浮かんでいる。
着地で受けた足の衝撃を神力で癒やしてるのだろう。
(跳べてもう一回ってところか……)
負担をかけたくない。
可愛い仲間──。
と。
言っていい……のだろうか……?
仲間。
元仲間。
俺が適当に選んで巻き込んだ
そして今は。
俺に復讐するためだけに盗賊ギルドのボスにまで成り上がったという規格外の根性の持ち主。
ハンナ。
ハンナ・フリーゲン。
「ハンナ……」
「なんだ? まさか私を
気迫のこもった。
それでいてどこか悲しそうな。
寂しそうな。
親に置いていかれる子どものような。
すがるような。
そんな目をハンナは俺に向けた。
「いや……」
そうだ。
たとえ一瞬だけ組んでたパーティーメンバーだろうと。
俺を憎んでいる相手だろうと。
俺によっては可愛い妹みたいなやつじゃないか。
いつも感情丸出しで。
喧嘩っ早くて。
それでいて──強い。
「もう一回だけ頼めるか?」
「当たり前だ!」
よし。
あと一回だ。
次で決める。
そのためにも──。
「ボルト!」
「お、おうっ……!」
俺の差し出した手にボルトが剣を握らせる。
なんだっていい。
あいつを切り裂いて。
セオリアやハンナ。
そして、この街を守れるのなら。
ボルトの目利きなら間違いねぇ。
「それからあっちにいる三人組にも武器を貸してやってくれ! 特にあの痩せたやつに弓を!」
「は? はぁ……? 誰にだよ……?」
混乱するボルト。
そりゃそうだ。
そんなこと急に言われもな。
ってことで。
「ベルド!」
「なんだ!?」
「あっちにいる三人に見覚えは!?」
「あぁん? ありゃあ、エルたちじゃねぇか。うちにいた元冒険者。テンのパーティーメンバーだな」
やはり冒険者。
俺の中で点と点が繋がっていく。
「あいつらに武器を持たせて援護させてくれ!」
「チッ! 俺を裏切りやがった奴らだが……この際だ。ちっとは働いて返してもらうとするか」
ベルドは三人に向け、かつてのカリスマ性を感じさせる大声を上げた。
「エル! ヤリス! コビット! 援護しろぉ! 武器はここだ! 今までの不義理を働きで返せ! もう一度名を
その煽りにピクリと体を震わせる三人。
「テンの恩赦もか!?」
美青年が覇気のある声で聞き返す。
「そこまで責任は持たねぇ! が、交渉してみてやってみてもいい! ただし! てめぇら全員が俺に頭を下げることが条件だがなっ!」
「……『
「おぉ~! 兄ちゃ~ん! 俺の大好きな兄ちゃんが戻ってきたよぉ~!」
「武器? それならもうとっくに持ってる。口より先に手を動かせ、エル」
ふっ。
なんか事情ありげだが、
これが土壇場で命をかけて目の前の功を掴み取ろうとあがいてきたやつらのとっさの対応力よ。
そこはパーティーだろうとソロだろうと変わんねぇ。
ゆえに。
理屈を超えた絆。
共通理解。
冒険者だから
冒険者だから出来る。
「ハンナ!」
「あぁ! 脚はあったまってる……跳、ぶ、ぜ!」
ド──ン──ッ!
俺達が再び宙に跳ぶと同時に。
ヒュバババっ──!
すかさず弓の連射。
体勢を変えたワイバーンに対し。
ド──ン……!
さらに魔法での追撃。
ヒュ~。
やるねぇ。
やっぱ盗賊より冒険者の方が向いてんじゃないの?
そして。
これで上下左右の四方に飛び回っていたワイバーンの行く手が上下左だけの三方に絞られた。
これで、イケるか……?
いや……行くしかない!
「
と、潜ろうとした、その時。
ヒュバババババババッ!
「──!?」
クロスボウ隊。
騎士。
あのイケメン好青年キングくんが指揮を取っている。
「
相変わらずヘラヘラしてるけど……。
これが騎士団か。
統制の取れた動き。
短時間でのこの対応力。
なんのなんの。
騎士団ってのもなかなかやるじゃないの。
そして──。
「ギュォォォォォン!」
ワイバーンの行く手は上下左から
どうやらこれで──。
いけそうだッ!
「
水面。
普段は左右に伸びる水面を。
ぽちゃん──。
縦方向に描かれた静かな水面。
そこに一際大きく乱れた波紋。
その動きを見切った俺は──。
ザンッ──!
一閃。
下から上への。
(うぉ……! この剣、切れ味やばっ……!)
ったく、ボルトの奴とんでもねぇ武器持たせやがって……!
ワイバーンを真っ二つにして太陽の光を背に受けた俺とハンナ。
その、俺を腕に抱いた少女が叫ぶ。
「見たかァ! 見たか、見たかァ~~~~~! これがっ! これが
その日、王都カイザスに二人の英雄が現れた。
一人は、
そしてもう一人は。
ケント・リバー。
──────────────
【あとがき】
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
少しでも「おじさんカッチョいい!」と思っていただけた方は☆かハートをお願いします!
次からは三人目の元パーティーメンバーとのお話に突入します。
久々のまったりほっこりタイムもあります。
ストックなしの思いつきで書き始めた作品だったんですが、意外とスラスラ筆が進んで、今ではかなり先のプロットまで組み上がってきたので驚いています。
これも読んでいただけてる皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
ということで。
どうぞ、引き続きおじさんの活躍をお楽しみくださいませ~。
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