こういうのでいいんだよおじさん、伝説になる ~元パーティーメンバーからの復讐は実は求婚!? しかも世間からは「違いのわかる賢者様」なんて呼ばれてるみたいです!?~
めで汰
おじさん、旅立つの巻
第1話 おじさん、ケント・リバー
「ふぅ、こういうのでいいんだよ」
その辺の香草の匂いをつけた鳥の肉。
草の香り以外、特に味付けはない。
じゅっ……。
肉から溢れ出すアブラ。
それが熱された石の上で踊る。
たまらない匂い。
(都会の料理なんかとは程遠いんだろうが……)
俺にはこれで十分だ。
ハムッ。
「ハッ、ハフッ……!」
口の中で転がる肉、熱。
広がる香草の香り。
歯が肉を噛み切る。
飛び出すアブラ。
ガツンと脳を刺激する。
(あぁ……)
こんなに
これ以上、なにを求めるというのか。
十分じゃないか。
俺にはこれで十分だ。
過度な味付けも、装飾も、
今日獲った鳥を、ただ焼いて食う。
そのへんの名も知らぬ草といっしょに。
食料を獲って。
食べて。
クソして。
寝る。
人生なんて突き詰めればそれだけだ。
余計なものはいらない。
目の前の生きるための作業を。
自分の器の範囲内で。
分をわきまえて。
やるだけ。
自分の出来ないことは求めない。
求める意味がないから。
俺は昔、それがわからなかった。
だから自分の器以上のものを求めた。
その結果──。
失った。
信用も。
信頼も。
仲間も。
友も。
そして──希望も。
取り返しのつかない失敗。
思い出したくない。
なのに、今でも頭に蘇ってくる。
毎日のように。
(風呂にでも……入るか)
気分を変えよう。
パパパと服を脱ぐ。
こんな森の中の一軒家。
どうせ誰も見てないんだ。
こういう風に好き放題できるのが隠居一人暮らしのいいところだな〜。
(うぅ……しかし冷えてきたな)
まもなく秋。
この季節に外でむき出しの五右衛門風呂はちとツラい。
ただ、それも──。
(湯に浸かればすぐにあったかくなるんだよなぁ、っと)
火をかけておいた石釜の湯船。
俺はその中に急いで体を沈める。
(くわぁ~……)
極楽極楽ぅ~……。
そうそう、これこれ。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
しっかし、風呂ってのは寒い時に入ったほうが気持ちいいのはなんでかね。
風呂で気分良くなったのも一瞬のこと。
すぐにまた嫌な記憶が蘇ってくる。
昔。
俺は冒険者になった。
覚醒したスキル名は『超感覚』。
あらゆる感覚が鋭くなり、まるで未来を視るかのように感じることが出来る。
無敵だった。
剣を振るえば俺に勝てる相手は誰もいなかった。
すぐに思い上がった。
登録した冒険者ギルドでは誰しもにチヤホヤされた。
俺はさらに思い上がった。
あらゆるダンジョン、クエストをソロで踏破した。
世のすべてが俺の思うままになると思った。
俺以外のすべてがモブに思えた。
俺は自分のことを勇者だと思い込んだ。
ギルドランクも、あと一歩で最高位の『
けど『
「仲間との連携のよさ」
これがオレを地獄に叩き落とした。
思い上がっていた俺は、駆け出し冒険者の女三人を連れてダンジョンに向かった。
誰でもよかった。
そのへんにいた三人。
たまたま目についたから声をかけた。
ただの数合わせ。
仲間なんていらないと思ってた。
全部、俺ひとりで出来ると思ってた。
その結果が──。
ダンジョンの罠にハマった。
パーティーも半壊。
さいわい命を落とした者はいなかった。
けど、無敵の冒険者たる俺の初めての『失敗』。
俺のことをよく思ってなかった連中は、これを機に俺のことを叩き始めた。
思い上がっていた俺の心はポッキリと折れた。
なんだ。
俺がすごかったのはスキルだけじゃないか。
いくらすごいスキルを持っていても、それを使うやつがポンコツじゃ意味がない。
要するに『器じゃなかった』ってことだ。
俺は、最強の冒険者たる資格がない。
俺は、ギルドランク『
俺には、このスキルを使いこなせる才能がない。
俺は街から離れた。
森の中で一人自分自身と向かい合う日々。
心地よかった。
嫉妬も、羨望も、おべんちゃらも、なにもない、シンプルな世界。
そして約十年。
やっと気づけた。
自分のほんとうの器。
そんなに大したものじゃない。
ただの人だ、俺は。
いや……十年分老いたから、もう「ただのおっさん」だな。
気づいちまえば気楽だった。
一人で狩りをして。
採取をして。
生きる。
そういった必要最低限のことを毎日行う。
それが俺の「キャパ」だ。
冒険だなんてとんでもない。
ましてや、他人様と一緒に冒険なんて不可能だ。
だって俺……人が何を考えてるかなんてわかんね~んだもん。
無理無理。
こうやって一人森の奥でのんびり生きる。
それだけよ。
俺の残る人生もそうやって過ごしていくだけ。
日々の小さな「こういうのでいいんだよ」を噛み締め、幸せを感じる。
それだけで十分。
勇者じゃない俺にはね。
ピクッ……。
(ふたつ──いや、みっつか)
長年の生活の習慣で常時発動させているスキル『超感覚』が、森の中に
(ふたつは──ゴブリンだな)
ゴブリン。
数年前にこっぴどく撃退してやってからは、とんと姿を見せなかったが。
近くに新しいゴブリンの集団でも移り住んできたんだろうか?
(あとひとつは──気配を遮断してる?)
ま、俺みたいなポンコツな奴のスキルだ。
そりゃ、わからない相手もいるだろ。
(……もしかしたらここで死ぬかもな、俺)
それも悪くないかもしれん。
どうせいつかは死ぬんだ。
それが遅いか早いか……。
ただ、黙ってやられはせんがね。
「ぶわぁ~っくしょん!」
くしゃみと同時に身をかがめて石を拾う。
ピュピュピュッ──!
そして気配に向けて投石。
ぷちゃちゃっ!
「ぐぎゃ……!」
よし、ふたつは倒した。
残る一つは──。
キィン──!
弾き飛ばされた……か。
つまり──相手は鉄器を装備している。
対するこちらは……素っ裸。
(これは……ほんとうにここで終わりかもしれんね……)
ザブッ。
風呂から出る。
夜風が体温を奪っていく。
(さぁ、素手でどこまでやれるか……)
気配に向き、構える。
ザザッ!
「いやぁ、さすがは歴戦の天才剣士ケント・リバー! まさか完璧に気配を消していた私に気づくとは! それにしても今の一撃の鋭さは見事の一言! こんな森の奥深くに姿を隠していても、変わらず実力は超一流といったところか! いや、むしろ昔よりもますます──」
べらべらと喋りながら出てきたのは。
「お、お前……セオリア……か?」
かつて俺が巻き込んでしまった女冒険者。
その一人。
セオリア・スパーク。
「そう、私はかつてのあなたのパーティーメンバー、セオリア・スパーク! いやぁ~、探したぞ! まさかこんな辺境に隠れているとは……って」
偉そうに語るセオリアが、俺を見て青ざめる。
「ち、ち……ちん◯ぉぉぉぉぉぉ! ちん◯出てるうぅぅぅぅぅ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
あ、うん……。
こういうのはよくない……。
よくないんだよなぁ……。
────────────
【あとがき】
第一話を読んでいただいてありがとうございます!
この先もノーストレスで楽しく読んでいただけるライトなおっさんファンタジーを書いてきますので、ハートや☆、レビューで応援お願いします!
毎日更新できるように頑張ります!
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