第17話 社会的抹殺悪魔
「レティシア。頼むから機嫌を直して欲しいんだけど……ほら、お弁当あるから」
「そうだぞ天使。心の狭い女ね」
「うるさいです、うるさいです、静かにしてくださいっ!悪魔のおばかさん!あなた様の裏切り者!」
「なにも裏切ってないよ!よけられなかっただけだ!」
昼休みの屋上。
体育座りを決め込み背を向けるレティシアに、僕と悪魔……ヴァイオレットは声をかけていた。
僕は機嫌を直して欲しくて。
悪魔は面白がって。
発端は今朝のホームルームだ。
「ヴァイオレットだ。ツキシロソウトの婚約者よ。よろしく」
清楚であるはずの制服を思い切り着崩した姿で、悪魔は腰に手を当て挑発的に登場し嗤った。
ざわつく教室を突っ切って、僕の席までランウェイを歩くモデルのようにやってきた彼女は、なんと僕の首筋にキスをした。
そう、僕は二度目の社会的な死を迎えたのだ。
レティシアは口許をおさえて絶句し、女子も男子も白い目で僕を見た。その視線は針のようで、午前中ずっと僕を突き刺し続けた。
「悪魔のせいでひどい目に遭った」
「ヴァイオレットだ。ヴィオでもいいわ。唇にキスしてもよかったところを容赦したのよ?感謝して欲しいな」
「誰が感謝するものですか!お離れなさいな!」
レティシアが泣きそうな顔で僕らの間に割って入り、僕を守るように両腕を広げる。
「ついにこのかたの命を奪いに来たのでしょうが、そうはさせませんよ」
「転入してきただけよ?まだ、ね」
「今すぐ魔界に帰りなさい!早く!疾風のように!さあ今すぐ!」
「天使はけちだねぇ。あたしは楽しみは後にとっておくタチなの」
繻子のようなさらさらとした長い黒髪を風に遊ばせる悪魔と、金色の糸を紡いだような長い髪を靡かせながら対峙する天使。
なかなかの迫力で、僕は勇気を出して発言する。
「僕を嘲るために転入してきたのか。僕を弄ぶために?僕はレティシアのために生きると決めたんだ、簡単には死ねない」
「あたしのために死んでもいいって言わせてやるよ。死んだらあんたはあたしのつがいの鳥だ。ツキシロソウト」
悪魔はからからと嗤い、紅い舌をべっと出す。
「天使は邪魔だな。やはり殺してしまうか?」
「そんなことをしたら僕はお前を絶対に許さない。レティシアは……僕の大切な人だ」
「あらそう。だったらやっぱり心変わりさせるしかないな」
びしりと指先を僕らにつきつけ、彼女は宣言する。
「レティシア・コーディリア・ブランシェ。お前のつがいの鳥をあたしは必ず奪う。まだあたしは未熟な悪魔だが、ツキシロソウトとは契約がある。破棄をするつもりはない。あたしをどうにかできるならしてごらん。誰にも邪魔はさせない」
「……受けて立ちましょう。わたしは必ず、創人さまを守り抜きます。たとえこの身がどうなろうとも」
凜とした宣いに、悪魔はくすくすと肩を揺らす。
僕は……どうすることも、できなかった。
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