第7話
白薔薇隊、それは女王に仕える兵士の部隊。
この兵士達の武装衣装は特徴的で、頭には陣笠と鳥を模した鉄の仮面を被り、腰には白い革製の貞操帯をつけている。
紋章はバラの花。白バラなので当たり前か。
更に特徴的な物が白薔薇隊の剣が刃に薬を満たす作りになっている。
獣や人に切りつけると切りつけた所から麻痺をする。痛みすらもだ。薬の量が多ければ意識を飛ばして眠らせる。
それがこの剣、慈悲の一撃ミザリコードである。
なぜ、このような作りをしている剣を携えている部隊を作ったのかは……死に間際だけでも楽をさせてやろうという考え方なのだろう。
業を背負っているこの地の考え方が私にはよくわからない。
そんな部隊を指揮しているのはヴィクトリア隊長である。
「ジナヴラ、命令だ」
隊長の冷たい声が二人しかいない部屋を凍らせた。
顔はビクトリア隊長は銀色をした金属製の仮面を被っている。仮面の形は鳥を模したような形に繊細な草花の模様を彫った職人の技巧が光る逸品だ。
それに紺色のコートに軍服を着ている。
後頭部の仮面からは青い長いリボンが垂れている。
顔は見えない。
顔を知るものは私しかいない。
だが仮面の下の表情は何となく私には想像ができる。
「ジナヴラ、ジェーン・ドゥの心臓を取ってこい」
「姉上……いや……隊長、それは」
動揺を隠せなかった。
隊長の背後には大きい窓が並んでいて窓から射し込む光が逆光で隊長を影に包みこんでいる。
「それは……出来ない」
振り絞って出た言葉がこれだった。
同胞の、しかも友人の心臓を取って来いと言われ、はいって言えるだろうか?
どんなに頭がイカれた奴でも躊躇はするはずだ。心があるなら。
一度木造の床を見てから、冷たい仮面を見た。
「出来ない?」
鉄仮面は私の方に向いている。
鉄仮面の手は腰にぶら下げている鞘から剣を抜き出し、丁度私の胸に突き出した。
「姉である私の命令は絶対よ」
「出来ない」
姉はジリジリと私につめより、私の胸に剣を当てた。
私は白い革製の胸当をつけていなかったので剣の鋭く冷たい硬さが制服の上から伝わった。
両手で優しく手のひらが傷つかないように私は剣を掴んだ。
鉄の鳥は日の光を冷たく返す。剣ミザリコードを持つ手は固い。
「友の心臓を奪うぐらいなら、私のにしてくれ」
思わず剣を掴む手が強くなる。このまま剣を引いたら、手のひらが斬れるぐらいに。
引き金を引く音が聞こえた。この部屋には引き金の音が響いた。
このミザリコードと言う剣は引き金を引くと剣についているシリンダーの中に入っている薬品の液体が刃に伝わせてから使う。
逆に引き金を引かない時は相手は苦しむ事になる。
目の前の鉄の鳥は何も言わず、こちらを見ている。
微動だにしない。手も。
私は目を閉じ、覚悟を決めた。
これなら出来ると。
両手で掴んだ剣から温かい水と冷たい水が伝ったのをこの手に感じた。
胸に冷たい異物が服と肌を越えて骨肉を鋭くなぞった。
「ジナヴラ、あなたは祭壇者だ」
倒れこんだ私を見下ろしてる鉄の鳥は冷たく言い放った。目が霞み、差し込んでくる光が淡くも私に刺さる。
体から剣を引き抜いた。冷たくて硬い鋭い異物が生温くなり、引き抜いた所の感覚が残る。
引き抜いた所の隙間に空気に触れて傷口が冷たく感じる。
「私たちは業によって生きながらえている」
鉄の鳥はゆっくりと私の元へかがみ、それを自分が斬り刺した場所に手をつっこんだ。
「っ……!」
中の物を探すようにかき混ぜられ、湿った音が響いた。
気持ち悪い。声を出したつもりでいたが聞こえていないのか出せていなかったのか鉄の鳥はそんな事もお構いなしだった。
ミザリコードの薬のおかげでか、慈悲とは何なのだろう。
(姉は最初から私のを取る気でいたのか。いや私がお願いした事だから当たり前だ。)
(これなら……、どうかこれで……)
私の体の中に入っている手の動きが止まり、ゆっくりと引き抜いた。
私は霞む目を精一杯見開いた。
鉄の鳥の真っ赤に染まった手には何も残っていなかった。
「ハァ……ハァ……」
「あ……!あぁ……!」
喋りたいが声にならない。
鉄の鳥は立ち上がった。ミゼリコードを赤く染まった右手に持ち、引き金を引く。
刃についた血は薬の液体によって洗い流され、私の開けられた傷口に薬を垂らした。
姉である鉄の鳥はまた私を見下ろしてこう言い放った。
朦朧としていた中、聞き取れた言葉はこれだった。
「これがあなたの業の形だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。