第21話 星の子
――――夜中、真っ黒な服装の1人の魔法使いが森の中で呪文を唱える。
地面に描かれた大きな魔法陣が赤く不気味に光る。
「夜空の彼方にさまよえる御霊よ、大地におりて愚民を一掃せよ」
夜空に1つの光の線が走る。
それは一直線に大地に衝突し、一瞬、夜空を白昼の如く照らす程の光を放った。
大爆発によって大地はめくり上げられ、多くの木々がなぎ倒された。
「魔王軍からの人類への
ブンブンブンと、唸るような音を上げて空中に浮遊する隕石。
それにはドラゴンの頭が生えていた。
「コメートドラッヘと呼ぶべきでしょうけど、我々侵略魔王軍はあなたを
ブンブンブン・・・
隕石ドラゴンは唸るような音を出しながら、ゆっくりと要塞の街、アートハイムに向かって進みだした。
「すべてを破壊しなさい。侵略魔王の為に・・・」――――
なんか、夜中に街の側で星が落ちたのよ。
アートハイムの警備兵達が調査に向かったんだけど、ただ1人を除いて全滅したそうでさ、生き残った1人も怯えて何が起きたかわからないのよさ。
そこであたし達が現場へ向かう事になったんだけど、ベルメルワグマ伯がサレム達にもチャンスを与えたいって言いだして、彼等も一緒に行く事になったのさ。
「オレ達が先に行って、事件を解決してきてやる!お前らは後ろで指でもしゃぶってろや!」
っと、後が無いサレム達は焦っていたのか、自分達だけで先に走って行っちゃったのよ。
あたし達も後を追ってみたはいいものの、途中でサレムが泣きべそかいて、走って逃げて来たのさ。
「無理だ!あんな化け物!強すぎる!かないっこない!」
「サレム、あんたらのお仲間さん達は?」
「仲間?!あいつらは知らん!そんな事よりオレは死にかけたんだ!治療魔法をかけてくれ!」
確かにサレムは泥まみれのボロボロな姿だったけど、逃げている途中で転んで負ったような怪我しかしていないし、見た目よりも遥かに軽傷なのがわかるのよ。
「仲間を見捨てて逃げて来たなんて!勇者失格だぞ!」
珍しく怒りを露わにしたのはハレルだったの。
「っへ、あんな程度のやつら、またいつでも仲間に出来るさ」
サレムの生意気かつ挑発的な言葉にハレルは拳を振り上げた。
しかし、ハレルの拳はプロテイウスが引き留めたさ。
「ハレル。こいつは確かに糞野郎だ。だが、真の勇者が鉄槌を下す価値は無い」
「そ、そうだ!オレも勇者だ!死にかけたのに殴られる筋はないんだ!」
「汚れ仕事はオレにまかせておけ」
プロテイウスはサレムをぶん殴ったのさ。
歯が3、4本ばかり宙を舞ったのよ。
サレムは意識を失って、その場に倒れちゃったわけ。
「こいつはここで寝ていてもらう。オレ達は先を急ごうぜ」
☆☆
ブンブンブン・・・
あたし達は森を進むと、奇妙な音を放ち続ける宙に浮いた灼熱に熱した大きな岩に、ドラゴンの頭が生えた化け物に出くわしたの。
ギャオオオッ!
岩のドラゴンは大きな声を上げ、口から怪光線を放ったよ。
「オン!バザラアラタンノウオンタラクソワカ!」
メメシアが呪文を唱え、空間を捻じ曲げる防壁を出し、怪光線の軌道を捻じ曲げ、遥か空の彼方に飛ばしたの。
「ウニヴェリズムツァシュトゥーレン!」
あたしも全力の破壊魔法を放つのさ!
大爆発で岩のドラゴンの体制が崩れ、地に体を付けたの!
プロテイウスが大剣でドラゴンの頭に鋭い一撃をかまし、続いてハレルが神の雷をぶちかましたのさ!
岩のドラゴンはしぶとく、しばらく激しい戦いが続いたのさ。
周辺の森の木々はなぎ倒され、大地は焼け、空は煙に包まれた。
でも、なんとかあたし達はこの激しい戦いに勝利したのさ。
岩のドラゴンは爆散し、砕けた岩が周囲に巻き散らされたのさ。
「やった!やっつけたっ!」
敵を倒した事がわかると、ハレルは体力の限界だったのか、その場に倒れ込んだの。
プロテイウスも息を切らして座り込んだのさ。
流石のあたしも魔力を使い過ぎて、その反動で全身が毛の先まで疲れ切ってしまったのさ。
メメシアは大きな魔法を何度も使ったと言うのに、呼吸を整え、倒れたハレルに回復魔法をかけているのさ。
「厳しい戦いでしたが、全員が無事でよかったです」
「いやあ、メメシアのおかげだわさ・・・あんな怪光線、まともに受けていたらひとたまりもないどころか、人のかたちも無かっただろうね~・・・」
「マジョリンの攻撃魔法が無ければ、手も足も出せませんでした。それとプロテイウス、ハレルが捨て身の攻撃を続けてくれたのも、相手に大きなダメージを与える結果をもたらしました。わたくし達、誰1人として、欠けていては勝てなかったと思います」
「へへっ、いい事いうじゃ~ん・・・」
あたしはその場で仰向けに寝っ転がったのよ。
そして、困難を乗り越えた後、とってもビールが飲みたい気分になっていたのだわさ。
☆☆
その後、あたし達はベルメルワグマ伯に全てを報告したのさ。
サレムは行方不明で、どうやら何処かへ逃げて行ってしまったみたいなのよ。
しかも、サレム達がこれまで散々、税金を使ってしまっていた為に、街の人達にもあたし達が平和を守った事実を伝えられないって事になったのよさ。
苦労して戦ったと言うのに、酷い仕打ちだわさ。
また、財政の都合上、褒美すらろくに出なかったのよ。
唯一出たのが馬車割引券。
結局、受け取らない事になったんだけどさ、あたし、こっそり馬車割引券をもらっておいて、こっそり道具屋で売っちゃったのだわさ。
あたしは少し、懐が豊かになったのだわさ。
次の朝、この街を出る事になったんだわさ。
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