第506話 降下する魔王軍

「私と千奈津ちゃんの合体技、上手くいったね! 近付かなくても無傷で敵を倒せるし、肩も温まった~」


 ぐるんぐるんと元気に腕を回し、ほくほく顔の悠那。一方、道作りに勤しむ千奈津はとても気疲れしたような顔になっている。


「私としては、もうこの手は使いたくないわね。障壁を解除するタイミングがシビアなのよ……」


 二人の言う合体技とは、悠那が魔法で作り出した毒泥を、千奈津の障壁で包み込んだ物の事を差している。ボール型の毒泥入り障壁はちょうど野球ボール程度の大きさであり、悠那が投擲するのに適したサイズであった。悠那が敵に向かってこれを投げ込み、衝突間際に千奈津が周りの障壁を解除すれば、敵には毒泥のみが当たるという算段である。適度に手加減して投げられた柔らかな泥を浴びたとしても、敵にダメージは殆ど入らず、泥に篭めた状態異常(全身麻痺及び昏睡)のみが引き起こされる。そうして無力化した後、敵が空中から落下するよりも速く、悠那が『天駆』で宙を蹴り敵にタッチ。ここで落下速度を落とす重力操作を施すという訳だ。効率的に戦いを終わらす為、魔力の削減に努める為にそうした――― というよりも、最早その目的は鍛錬に近いだろう。或いは普通に前進するだけでは、悠那達にとってはあまりに退屈過ぎたのかもしれない。


 とまあ退屈云々の話は抜きにして、エルデラド領横断の旅もそろそろゴールが近い。行く手を阻む者達を全て戦闘不能(HPはほぼ満タン)にして来た悠那達は、遂にエルデラドの帝都前にまで到達したのだ。


「わあ、おっきな街にお城! これは探し甲斐があるね!」

「こんなに明るいなんて、ちょっと吃驚びっくりかも」


 空より見下ろす彼女らの眼下には、数十メートルはありそうな防壁に囲まれた広大な城下町と、その中心にて聳え立つ巨大な城があった。日が沈み辺りは暗くなっているというのに、帝都内は眩い光で満ちており、まるで街の中は昼間のように明るく照らされている。しかし、その中に一般人がいる様子はなく、見掛ける者達は皆兵士ばかりだ。


「戒厳令が敷かれているのかしらね。兵士でない人々は、家に閉じ籠っているのかも」

「一応こっからは、普通に戦闘行為もできるようになるんだよな? けどよ、目的の皇帝の野郎がそこらの住居に隠れていやがったら、一般人を巻き込んじまうかもしれないぜ? その場合はどうする?」

「道中と同じく、生きたまま動けないようにするのがベストだけど…… 正直、エルデラドが形振り構わなくなったら、一般人をわざと戦いに巻き込ませるようになると思うのよね。テロリストと同じく、手段を選ばずよ」

「助けを求める人達に爆弾を仕掛けるとか?」

「考えたくはないけど、可能性としては十分にある。でもまあ、一番危険なのは―――」

「■■■■! ■■!」

「―――キラさんなんだけどね」


 帝都まで来たというのに、キラの調子は一切変わらず。ここまではまだ単調な道のりだったが、帝都内部に突入した後はどうしたものかと、今から狂戦士の存在で頭の痛い千奈津である。


「突入後のキラさんの相手は私が引き受けるわ。順番的にも私だしね」

「それじゃ、私と刀子ちゃんが探索係?」

「良いのか? 千奈津の刀じゃ、この暴れん坊と相性が悪くねぇか?」

「忘れられやすいけど、私の職業は僧侶よ? アンデッドが相手なら、これ以上に相性の良い職業はないでしょうが」

「「あ、確かに!」」


 ここに忘れていた者達が約二名。


「ハァ、まったくもう…… 降下する前に、フラージュの魔法を皆に使っておくわね。透明化状態になっておけば、一般兵士に見つかる事はまずないと思うし」

「キラさんにも?」

「それは駄目。キラさんが透明になったら、逆に危ないもの」


 千奈津が自身と悠那、刀子にフラージュを施す。その精細な光学迷彩は実に見事なもので、注視されたとしてもまず気付かれない出来だ。ついでに障壁の絨毯にも迷彩を施し、キラ以外の全てを不可視状態に。そのまま帝都の城の真上まで移動してみるが、空を護る敵の姿は見当たらない。


「敵影なし! ちょっと残念!」

「多分だけど、道中でこの高度に対応できる戦力を全部投入しちゃったんじゃないかしら? 何気に結構な数の敵を落としたと思うし」

「えっと、百くらい?」

「もっとよ、悠那。一桁足りないわよ……」

「んな事より、どこに着地するよ? 最初から別々に行くか?」

「いえ、時間に余裕があるし、最初は纏まって行動しましょう。でも折角空から仕掛けられるのだから、一番警備の厚そうなところに行くのが良いかも。例えば…… ちょっと安易だけど、王座の間とか?」

「お、分かりやすくて良いな。そこに一票」

「私はどこでもオッケー! 同じく一票!」

「決定ね。あの辺りを狙って降下しましょう」

「了解! それじゃあ行こっか!」

「■■■!」


 三人が障壁から飛び降り、その後をキラが追いかける。


「よし、キラの野郎もちゃんと付いて来てるな」

「わー、風が気持ち良いー」

「んー…… この落下速度、もう少し速くならないかしら?」

「「ち、千奈津(ちゃん)?」」


 大気中の落下運動に少々不満気なのは、意外にも千奈津であった。これも忘れがちなのだが、彼女は極度の絶叫マシン好き。度重なるレベルアップにより、千奈津が求める絶叫レベルも高くなってきているようだ。


「と、取り敢えずよ、屋根をぶち破るから下がってろ」


 城に衝突する間際、撃砕で城の屋根を粉砕する刀子。その際の衝撃音は流石に抑えられず、ズガァンという轟音が城内に鳴り響いた。次いで、四人分の盛大な着地音も響いてしまう。


「目論見通り王座の間に出たみたい。王様の姿は…… なし!」


 巻き起こった粉塵の中より周囲を見回し、無駄に豪華絢爛な王座を発見する悠那。今は誰も座っていないが、それによりここが王座の間である事を把握する。同時に周りでポカンとしている兵士達の姿も視界に入った。


「な、何だ、この音は!?」

「敵襲、敵襲だ!」

「王座に『首無し』が現れたぞ! 増援を呼べ!」

「■■■……!」


 数秒して正気を取り戻した彼らであるが、どうも透明化を施していないキラの姿のみしか、悠那達の事を認識していないようである。そんな声援(?)に応えるように、キラも禍々しい唸り声を首から上げていた。


「がっ!?」

「ぐうっ……」

「げぇ……!」


 騒がれて応援を呼ばれるのも面倒なので、悠那と刀子が周囲の兵士達を一掃する。一秒もかからず、王座の間を護る兵士達の全員が気絶、むしろ床に倒れ込むまでの方が時間を要したくらいだった。


「すみませんが、キラさんも拘束させてもらいますね。色々考えましたけど、これが一番良さそうなので」


 キラの着地の直後、千奈津は彼の周りに障壁を張った。もちろん、それは通常の壁の障壁ではない。彼のフォルムをなぞって作られた、まるで型にはめるような障壁の牢獄である。見えない壁の中に閉じ込める、そう表現した方が良いかもしれない。


「■、■■……!?」


 キラの体は着地したポーズのまま、ピッタリと障壁にはまってしまっている為、指先一つ動かす事ができない。呪詛塗れだったその声も、不思議と動揺している様子だ。


「お、おい千奈津、それって息はできるのか? 死んじゃわないか?」

「アンデッドの人達の相談を受けてる時に、彼らの大体の特徴は聞いていたから大丈夫。呼吸ができなくても、アンデッドは死なないそうよ。武器を振りかぶったりする事もできないから、暫くはこの状態で持つと思うわ」

「へ、へー……」


 それ、人間が相手ならやっぱり窒息するじゃんと、千奈津は怒らせないようにしようと一大決心する刀子。


「千奈津ちゃん、フュームフォッグでお城の中に毒を撒くから、状態異常予防の魔法を皆に使ってくれるかな? 二人には効果が薄いと思うけど、一応普通の人は一発で落ちちゃうやつだから」

「了解。それじゃあ私はここにいる間、この王座の間に障壁を張り巡らせて、拠点代わりに作り替えておくわね。何かあったら、ここに駆け込んで」

「なんか俺、敵が可哀想になってきたんだけど……」


 こうしてエルデラド城は全身麻痺&昏睡に病む毒ガスで満たされ、王座の間は鉄壁の拠点として活用される事になるのであった。

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