第12話 決着

「せいっ! 怒鬼烈脚ぅううう!」


 ラジは赤きオーラを右足に纏わせ、クロトに渾身の回し蹴りを放つ。B級冒険者レベルの実力を持つラジが本気で放つ一撃は、城壁に大穴が開く威力を持つ。ケルヴィンのマッドバインドによる底無し沼の抑えを打ち破るほどだ。腕に覚えのある冒険者であろうと、まともに受ければ即死は免れないだろう。彼の持つ格闘術スキルと鍛錬の末に傭兵時代に編み出した、必殺技である。


 ポヨン………


 そんな彼の必殺技は、間抜けな音と共に威力をクロトの体に吸収されてしまう。クロトの持つ、打撃半減のスキルの効果だ。そう、ラジはクロトに対し、圧倒的に相性が悪かった。


「クソッタレめ! 何なんだ、このスライムの体は!? 俺の技が全然効かねぇ!」


 ギムルが鑑定眼で読み取ったクロトのステータスをラジに伝えていたのなら、その理由を知ることができただろう。今となっては知る術がない。ラジは元々スキルに詳しいタイプでもなかった。


「ぐっ、まだまだ!」


 クロトはギムルにしたのと同じように、体を鞭に変化させラジに攻撃を仕掛ける。ただし、その数は4本に増やしている。四方から迫り来る攻撃に、ラジは防御し、いなすことで何とか耐えている状態だ。避ける選択肢はない。クロトとラジでは筋力・耐久は拮抗していても、敏捷において絶望的な差がある。よって、ラジはジリ貧になるしかない。


 激動の中、ふと、ラジは地面に自分を迂回するように延びるクロトの体を発見した。その体から逆方向にラジは後退する。


「……何をしてやがる?」


 その先を目で追うと、そこには泥沼があった。ラジが嵌っていた時に比べ、随分と小さくなっている。クロトはケルヴィンが魔法によって生み出した泥沼を吸収していたのだ。


―――もし、束縛の泥沼マッドバインドが破られたなら、クロト、お前の養分にしてしまえ。


 クロトはケルヴィンの指示を忠実に守り、マッドバインドの魔力を吸収する。微少ではあったが負ったダメージは完全に回復し、余分な魔力はスキル・保管によって貯蔵される。この保管は魔力の他にもアイテムや武器防具まで出し入れすることができる、所謂アイテムボックスだ。更にはクロト自身の体も収めることができ、サイズの調節も可能とする。


「な、さっきよりも威力が増している!?」


 鞭による攻撃が更に強まり、遂にラジは身動きが取れなくなってしまった。もはやラジは瀕死状態だ。隙を見たクロトは鞭をラジの四肢に巻きつかせ、動きを封じる。そのまま大きく飛び上がり……


「や、やめろぉおおおおお!!!」


 その巨体をラジに衝突させた。ラジはこの攻撃によりHPが0となり、そのままクロトに捕食されることとなる……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 カシェルは愛剣を構え、E級白魔法【果報オースピシャス】を自身に唱える。この魔法は対象に自然治癒を与え、幸運を微少UPさせる。戦況を僅かでも有利にする為に、魔法による強化を施すことは一般的な戦術だ。事実、ケルヴィンもD級緑魔法【風脚ソニックブーツ】にて敏捷の強化を済ませている。


 スキルポイントにある程度の制限がある冒険者は、一つのスキルを集中して伸ばす傾向がある。F級スキルを多数取得するよりも、上位スキルを所持している方が恩恵が大きいからだ。中にはF級スキルばかり取得する者もいるにはいるのだが、実はスキルの取得限界数がある。その限界数には個人差があり、10の者もいれば20の者もいる。こればかりは実際に限界に達しなければ分からない。


 カシェルは世間一般でいうところの、天才と称されるほどスキルポイントを得てきた。が、それでも順調にランクアップを果たせたのはB級まで。彼ほどの才能を持ってしても、A級の壁は破れなかった。それまで剣術一本でスキルを取得してきた彼は、この頃から腐心するようになった。思えば、人殺しをするようになったのも、莫大な経験値を得てレベルを上げる為だったのかもしれない。今回、ギムルとラジの殺害を企んでいたのも、その理由が一番大きい。尤も、ケルヴィンによって計画は水の泡となってしまったのだが。


「君は、調教師…… いや、召喚士なのかい?」

「……ああ、そうだ」

「ははは、長年冒険者をやってるけど初めて見たよ。あれが召喚術か。なるほど、強力なスキルだ」


 カシェルは何かを納得するように頷く。


「それなら、そんなスキルを持つ君を倒せば、僕のレベルはまだまだ上がりそうだね」

「お前、そんなことの為に今まで人殺しをしていたのか?」

「そんなこととは酷いじゃないか。人はね、モンスターを倒すよりも経験値の稼ぎが良いんだ。冒険者のようにレベルの高い奴なら尚更さ」

「お前さ、本当は自分よりも強い奴と戦ったことが余りないんじゃないか?」

「……何だと?」


 それまで笑顔だったカシェルの表情が、途端に曇る。


「自分より強いモンスターと戦いたくないから、今までD級冒険者に留まっていたんじゃないか? 自分よりも強い人間と戦いたくないから、新人冒険者ばかりを狙っていたんじゃないか?」

「ば、馬鹿を言うな! 僕はそんな……」

「まあ、自覚がなくてもいいんだけどさ。お前のせいで犠牲者が出るのはいただけない」


 ケルヴィンは杖を構える。


「強くなりたきゃ、自分より強い奴に勝て。それができなきゃ、何時までも弱者だぜ?」

「黙れ! 僕を否定するなぁあああ!!!」


 頭に血が上ったのか、カシェルが全力で前に飛び込む。初撃で決める気だ。疾風の如くケルヴィンの懐に潜り込む。


「躱せるものなら躱してみろ! 霞迅剣!」


 カシェルの奥の手、霞迅剣。剣を隠蔽、更には斬りかかる一瞬、カシェル自身も隠密状態になることで必中となる奥義、の筈だった。


「壁…… だとっ!?」


 カシェルが剣を振り下ろした先には、巨大な、中部屋の高い天井にも届きそうなほどの厚い壁が出現していた。C級緑魔法【絶崖城壁アースランパート】は防御魔法の中でも上位に属する。その耐久力は下手な城壁を上回り、カシェルの剣は必中の意味を失ってしまう。


「こんな、土の壁なんかにっ!」

「その壁のお陰で、お前は俺を見失ったんだけどな」

「なっ……」


 ケルヴィンは絶崖城壁アースランパートを唱えた後、壁の向こう側ではなく、既にカシェル側に移動していたのだ。カシェルの意識は壁にいき、風脚ソニックブーツの敏捷強化により、ケルヴィンのスピードは凄まじいレベルに達していた。認識できなかったのも無理はない。


「一体、君は……」


 カシェルは斬り伏せられる。最期に見たのは嵐の長剣―― の形を模った、渦巻く風を纏う杖だった。一太刀で絶崖城壁アースランパート諸共、カシェルを両断する。A級緑魔法【狂飆の覇剣ヴォーテクスエッジ】により、この戦いは終わりを告げた。


「うーん、やっぱり素人の剣じゃ駄目だな。剣術スキルとって鍛えてみるか」


 そんな声を残して。





=====================================

ケルヴィン 23歳 男 人間 召喚士

レベル:17

称号 :なし

HP :175/175

MP :350/350(クロト召喚時-100 メルフィーナ-?)

筋力 :38

耐久 :39

敏捷 :106

魔力 :172

幸運 :140

スキル:召喚術(S級) 空き:8

    緑魔法(A級)

    鑑定眼(S級)

    気配感知(D級)

    隠蔽(B級)

    胆力(C級)

    軍団指揮(B級)

    成長率倍化

    スキルポイント倍化

    経験値共有化 

=====================================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る