歴史の塵を踏み歩く
びゃくななごう
あるトーク番組の記録#01
オープニング
スタジオが合図とともに暗くなる。観客席が静まり返ったところで指示が入った。
ロックミュージシャンが手掛ける番組お馴染みのテーマソングのイントロと共に、ライトが差し込まれメイン舞台が照らされる。
期待を込めた大きな拍手が観客席から湧き上がり、出迎えられたのは番組の司会を務める男性タレントのルーカス・ミラーだ。
濃いブラウンの頭髪は短く整えられており、こざっぱりとした青いジャケットと白色のパンツを合わせたスーツ姿。すらりとしたシルエットながら、実はトレーニングを重ねている身体付きをしていることは、先日公開されたばかりの映画で露わになり話題を呼んだ。
「ありがとう、みなさん! 盛大な拍手を嬉しく思います! 手が腫れてしまう前に、番組を始めましょう!」
四十代を迎えているミラーだが、その顔つきと声は若々しい。人前に出ることを生業にしている彼は、人を楽しませるために視覚だけでなく聴覚に至る部分にまで磨きをかけている。ミラーの一声によって、スタジオは次のステップへと進んだ。
セットが動き、ソファとサイドテーブルが設置されている空間が現れる。まるでリラックスのために訪れるカフェを模したセッティングこそが成功の秘訣だ。格安で作る、質の高いトーク番組。それこそ番組のコンセプトである。毎月特集を組んで放送しているが、高視聴率と話題性がスポンサーの充分以上の満足度に繋がっている。
「さあ! 今回のテーマは『歴史の塵』です。歴史の塵とは、重要な出来事や人物、その功績などが忘れられてゆくという、表現の一つとして用いられます。このテーマでは
ミラーは事前の打ち合わせはもちろん、ゲストのことやテーマについても独学でカバーしている。彼が活躍し続けられるのは人知れぬ努力によるものだ。そうして生まれるやり取りで得られる発見や知見は、番組視聴者に有益な情報をもたらす。番組とあわせてミラーが高く評価されている所以である。
「まず触れていくのは、我々人類が大きな転換期を迎える前のことです。旧時代と呼ばれるその時、人々は何をしていたのでしょうか? ゲストにお呼びしているのは大人気作家のあの人です! どうぞ!」
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