第40話 静寂の調べ

カラオケ御殿が国際的な注目を集め、日々多くの訪問者で賑わうようになっていた。イベントやプログラムが次々と成功を収める中、勇人はひと時の静けさを見つけるために、御殿の一番隅にある小さな庭に身を置いた。庭の風景は変わらずに美しく、時間がゆっくり流れるかのような静寂がそこにはあった。この静けさの中で、勇人はカラオケ御殿が始めた当初の目的―都会の喧騒から離れ、訪れる人々に穏やかな時間を提供する場所であったこと―を思い出した。


彼は、カラオケ御殿の現状を見渡しながら、自問自答を繰り返した。「本当にこれで良いのだろうか?」と。もちろん、多くの人々が楽しんでおり、新たな文化的交流の場としての機能も果たしているが、本来の穏やかで静かな避難所としての役割は薄れつつあるのではないかという懸念が彼を悩ませた。


勇人は、カラオケ御殿がその成功の中で本来の精神を失いつつあるかもしれないと感じ、何か変化が必要だと決心した。彼は「静寂の調べ」という新たなイニシアティブを考えた。このプロジェクトは、カラオケ御殿の一角に「静寂の庭」と名付けられたエリアを設け、訪れる人々が静かに音楽を楽しむか、単に静かに瞑想や読書をするための場所を提供することを目指すものだった。


勇人はこの新しい空間に、防音処理された個室のカラオケブースを設置し、それぞれの部屋で異なる音楽ジャンルや自然音を選べるようにした。また、庭には小川のせせらぎや鳥のさえずりを再現するスピーカーが隠され、自然の音に包まれながら静かに過ごせるように設計された。


「静寂の調べ」の開設後、多くの訪問者がその静かな環境に引かれ、カラオケ御殿の新たな魅力を発見した。勇人は、このプロジェクトがカラオケ御殿の初期の精神を取り戻す手助けをしたと感じ、心からの満足感を得た。彼は、カラオケ御殿が多様なニーズに応えながらも、その核となる穏やかさと静けさを保ち続けることができると確信した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る