独奏〜勇人のメロディー

みっちゃん87

第1話 夢の始まり

勇人はいつものように、ひとりでカラオケボックスにいた。彼の周りには、色とりどりのネオンが輝く、生命力に満ちた都市の夜が広がっている。しかし勇人にとって、そのすべてはこの瞬間、この部屋の外側にあるものだった。彼の世界は、この小さなカラオケボックスの中にすべてがある。


勇人はマイクを握り、スクリーンに表示される歌詞に目を落とす。彼の選んだ曲は、いつものように、心に響くメロディーだった。音楽が流れ始め、彼の声が部屋に満ちる。この瞬間、勇人はすべてを忘れ、ただ音楽に身を委ねる。


歌い終わると、彼は深く息を吸い込んだ。カラオケが彼にとってどれだけ特別な存在か、改めて実感する。しかし、彼はまた、この瞬間がいつも一過性のものであることにも気付いていた。カラオケボックスを出れば、彼を待つのは日常の喧騒だ。それが彼を苛む。


「もし自分だけのカラオケ部屋があったら…」勇人は考えた。「いや、カラオケ御殿があったらどうだろう?」彼の心に、突如として夢が宿った。自分だけのカラオケ御殿を作る――そこでは、いつでも、どんなときでも、自分の世界に浸れる。その夢は、彼の日常に新たな光を灯す。


その夜、勇人は家に帰り、その夢を実現するための第一歩を踏み出すことを決意する。彼は自室のデスクに向かい、ノートパソコンを開く。画面が光り、そこには彼が常用するAI秘書、キャンちゃんが現れる。


「キャンちゃん、聞いてくれ。俺、自分だけのカラオケ御殿を建てたいんだ」


キャンちゃんの画面上の顔が微笑む。「勇人さん、素晴らしい夢ですね。どうやって始めますか?」


勇人は、その問いに答えるために、深夜までインターネットで調査を始める。彼の旅は、この一夜から始まった。


カラオケ御殿を作る――それは、ただの夢物語ではなく、勇人にとっての新たな人生の冒険だった。そしてこの物語は、彼の心の中で鳴り響く「独奏〜勇人のメロディー」の第一章に過ぎない。

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