第47話 メディア国のその後 ~呪いなき美しき赤子~
話はベネットとメルがひそかにメディア国を出国した翌日にさかのぼる。
新しい王太子夫妻の結婚式とそのお祭りが国を挙げて行われた。
その一週間後には、海外から要人も招いてお披露目パーティが、ベネットの時より数倍の規模と華やかさで催された。
王太子妃エメにとってはそれが絶頂だった。
宴からの夢が冷めると現実が待っている。
王妃はメルにしたのと同じように、エメにも多くの仕事を押し付けた。
「メルだってやっていたことです、あなたができないわけないでしょう」
エメができないと拒絶しても、王妃は任せた仕事を全部やり遂げるまで許さなかった。
もともと元王太子妃のメルを影として面倒な仕事は彼女に押し付ける算段をしていた侯爵家だ。
しかし、いつまでたってもメルが音を上げて帰ってこない。
「メルさえ素直に離婚していればこんなことには……」
エメはメルを逆恨みした。
しかし恨んだところで状況は変わらない。
エメはかんしゃくを起こすが王妃も折れない。
嫁姑の中はどんどん険悪になっていった。
ただ、それが一時休戦となる事態が起こる。
エメが懐妊したのだ。
妊娠中に無理をさせてはまずい、と、いうことで、王妃もあまり仕事を振ってこなくなった。
しかし、それはエメにとってまた別の苦境の始まりであった。
メディア王家の王太子夫妻の間に生まれる子は、なぜか最初は必ず男児で、しかも呪いをかぶったひどい容貌となる。
つまりこの懐妊は世継ぎの王子ではなく『化け物』をこの世に生み出すためのものである。
妊娠中ゆえ、ただでさえ体調は不安定な状態の中、日に日に大きくなっていくおなかの中に得体のしれない『化け物』が宿っているという想像がエメの心を押しつぶす。
どうせ生まれてくるのは世継ぎではなく呪いをかぶった『化け物』ゆえ、父親であるクレールは無関心を貫いた。
使用人たちに当たり散らすエメを見て王妃が厳しく告げる。
「これは義務です、王太子妃なら我慢しなさい!」
かつて自分も我慢した苦難にたいして、わめき散らすしか能のない息子の妻に王妃はいたわりのかけらも見せなかった。
そして産み月が来て、エメは男の子を産み落とす。
その男児は赤子にしては信じられなくらい顔立ちの整った美しい子であった。
「どういうことだ、エメ! そなた不貞を働いたのか!」
「そんなことしていません!」
めでたいはずの男子誕生、しかも常人離れをした美しい赤子であるにもかかわらず、顔を合わせた若夫婦がまずしたことは、ののしり合いであった。
不貞の疑いを明らかにするために神殿にて正否を確かめてもらったが、生まれた子は間違いなくエメとクレール王太子の息子であった。
ここにきて王家は『呪い』が本当に効いているか心配になり、元王太子のベネットを追いやった離宮に使いをおくる。しかし、そこはもぬけの殻であった。
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