第33話 第二王子との会話
「今日はあの乳母を連れていないのですね」
オーブリーは言った。
乳母とはおそらくばあやのサモワのことだろう。
「あなたこそおひとりとはおめずらしい」
いつも第三王子のクレールやエメと連れ立って歩いているのに。
「私にもいろいろ考えることがありますからね。それにしてもメル殿がおひとりの時に出会えるとは、なんと運がいい」
「……?」
オーブリーの言葉にメルは首をかしげる。
「メル殿は王太子妃の立場を辞せば実家に帰られるのでしょうが、それはなんとももったいないこと、と、私は常々思っておりました」
私だって帰りたいわけじゃないわよ。
メルは内心思っていたが言葉には出さなかった。
「ご自分で思ったことはございませんか?」
「何をでしょう?」
オーブリー王子の質問にメルは質問で返す。
「このまま、王家や侯爵家の捨て石としての立場を甘んじて受けることに疑問を感じたことはありませんか?」
捨て石とは言い妙である。
「あなたの妹のエメ殿とメル殿の違いなど、髪や目の色による雰囲気でしかない。エメ殿を本当の王太子妃候補と父や母も見なしているが、正直言って、浪費とダンスしか取り柄のない女より、メル殿が引き続き王太子妃でいてくださる方がよっぽど王家のためになるというもの」
「意外ですわ、そんなに高く評価してくださっていたなんて」
メルは本気で思った。
「クレールの奴は中身のない妹御を妃に迎えても、王太子としてつつがなくやっていけると思っているようですが私は違う。いかがでしょう。すでに王太子妃としての業務の実績のあるあなたなら……」
「どういう意味でしょう?」
「やつとは白い結婚のまま何事もないのであれば、廃嫡されたのち、新たに王太子となったものの妃となっても何ら問題はないはず」
「えっ、つまり……?」
「次期王太子妃として私と一緒に国を治めれば、実家の侯爵家も引き続きあなたを軽んじることはない、私はあなたなら……」
オーブリー王子の言葉は次第に熱を帯びてった。
しかし、メルは彼と同じ熱をもってその話を聞き入れる気分にはなれなかった。
「あの、オーブリー殿下……。疑問があるのですが、あなたは私が王家や侯爵家から捨て石のように扱われていることをご心配くださっています。それは非常にありがたいことですが、その捨て石的な立場に置かれている存在というのなら、あなたには私より先に気づかうべき存在がいるのではないですか?」
「はあっ……?」
オーブリーにはメルの言っている意味が分からなかった。
「ベネット様ですわ。あなたの兄君こそ、あなた方王家の人間からそれこそ『捨て石』のような扱いを受けていらっしゃるのに、それを差し置いて、私の立場を気遣うのは順序が逆というものですわ」
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