第18話 魔女テティス

「夫婦のことに口出しは無用です!」


「今、形式だけっていったじゃないか」


「ぐっ!」


 伯父のレナートと甥のベネット。

 ずいぶんと打ち解けた間柄に見えるが、自分を無視して話をされるのは……。


 メルはそう思い、発言することにした。


「私は確かに名ばかりの妻です。でも、ベネット様には本当によくしていただきましたし、私がベネット様のお役に立てることがあるなら何でもしたいと思っています。だから、その……、呪いのこととか、私の知らないことをもっと教えてくださいませんか?」


 メルの言葉にレナートは破顔一笑。


「なんだ、やっぱり口説いている最中だったのか。うんうん、わかるぜ。政略だといきなり夫婦になるし、いろいろとすっ飛ばしてそういう仲になるのを躊躇することもあるよな。だからこうして希少な宝石の贈り物を……」


「違います!」


 耳まで真っ赤にしてベネットは否定した。


「まあ、そう照れないで、早く彼女にこの宝石を渡してやったらどうだ?」


「伯父上が帰ったら渡します」


 少しふて腐れたような表情でベネットは言った。


 初めて見る人間臭いベネットの表情にメルは感情を揺さぶられた。



 そしてしばらく沈黙が続いたが、その時、三人とは別の女性の声が外から響いた。


「ちょっと、バルコニーで大声出して何やってるの? 渡したらすぐ帰ってくるって言ってなかった、レナート!」


 大きなトカゲに羽が生えたような生き物の上にまたがってその女性は空からやって来た。


 夜の闇に薄紫に輝く髪。

 一風変わった容姿の女性はレナートに声をかけた。


「いやあ、すまん。甥の奥さんを紹介してもらっていたから」


 いや、紹介したつもりはないけど、と、いうベネットの小さな声は無視された。


「あら、そこのきれいなお嬢さん? 初めまして、私はレナートの妻のテティスと申します。少しばかり魔法が使えるけど怖がらないでね」


 テティスは乗っていた生き物からバルコニーに飛び降りた。


「この子はリザ、よろしくね。この大きさじゃ目立つわね」


 飛んでいた生き物の名をテティスは紹介する。


 そして、リザは小さくなり、テティスの肩にちょこんと止まった。


「まったく、夜中にあんな大きな声で!」


「君がかけてくれた防音魔法があるから、僕の周囲は大丈夫だよ」


「でも、私には丸聞こえだったわよ。ごめんなさいね、せっかくの夜をお邪魔して」


 テティスはレナートを連れて飛び去ろうとした。


「あの、待ってください。王家の呪いのこととか、いろいろとまだ聞きたいことが……」


 メルは二人を引き留めた。


「いいんだ、メル、君が気にすることじゃない!」


 ベネットはそれを制止する。


「ふうん、じゃ、明日の夜また来るから、その時にまだ聞きたいと思うなら、私と一緒に行きましょう、じゃあね」


 テティスはそう言い残して、再び大きくなったリザにまたがり、彼女の夫レナートを連れて夜の闇に消えていった。

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