第41話 親子鑑定

 私よりも背が高く、威圧的な国王の視線に耐えかねて思わず後ずさりをする。


「…あ、あの…国王陛下…」


 何を言えばいいのかわからないまま口を開いたが、出てきたのはたったそれだけだった。


 けれど、国王陛下は私の声を聞いた途端、手を伸ばしてきてぎゅっと私を抱きしめた。


「おお、アイリスの声にそっくりだ! 頼む、どうかその声でエリックと呼んでくれ!」


 いくら父親かもしれないとはいえ、会ったばかりの男性に抱きしめられるなんて、はっきり言って恐怖でしかない。


「きゃあっ!」


 私が叫ぶのと同時にユージーンとハミルトンも焦ったような声をあげる。


「父上!」


「国王陛下!」


 けれど、それくらいでは国王陛下は私を離してはくれなかった。


 ユージーンとハミルトンが私から国王陛下を無理やり引き剥がして、ようやく私は国王陛下の魔の手(?)から逃れられた。


「父上! 何をしているんですか!」


「国王陛下! ひどいです! 僕だってまだ抱きしめた事がないのに!」


 ん?


 ハミルトンの言葉、おかしくない?


 私から引き剥がされた国王陛下はユージーンとハミルトンを睨みつける。


「何故邪魔をする! その声はアイリスの声そのものだ! フェリシアはアイリスの娘に間違いない! どうかその声で私の名前を呼んでくれ!」

 

 いやいや!いくら声が私の母に似ているからといって、会ったばかりの男性の、ましてや国王陛下の名前なんて呼べるわけないでしょうが!


 ユージーンとハミルトンと国王陛下の三人が睨み合っている中、誰かの声が割って入る。


「国王陛下、魔道具をお持ちいたしました。…おや? 何かあったのですか?」


 声をかけて来たのはいかにも出来る男、と言った風情の男性だった。


 後で知ったのだけれど、この国の宰相であるブライアンだった。


 なるほど。宰相がしっかりしているからこの国はやっていけてるのね。


 ブライアンの手には何やら機械のような物が見える。


「ブライアン、待っていたぞ。ユージーンもハミルトンもそこをどけ。今からこの魔道具で私とフェリシアが親子かどうかを判定するのだ」


 どうやらこの魔道具で親子かどうかがわかるらしい。


 前世ならばDNA鑑定で科学的に解明出来たけれど、この世界にはそんなものはないわよね。


 ブライアンは持ってきた魔道具を応接セットのテーブルの上に置いた。


 私達もぞろぞろとそちらへ移動すると、テーブルを挟んで私と国王陛下が向き合って座った。


 そして当然のように私の両脇にユージーンとハミルトンが腰を下ろす。


 この二人に遠慮という言葉は存在しないみたいね。


 ブライアンがテーブルの脇で魔道具の説明をしてくれる。


 魔道具は細長い板状の物で魔石が何個か並んでいる。


「お二人で同時に魔道具に触れて下さい。血縁関係があれば魔石が光るようになっています。お二人が親子であればすべての魔石が光るはずです」


 親子ですべてが光るのならば、関係が遠くなるほど光る魔石が減るのかしら。


 触るだけで親子かどうかがわかるなんて簡単でいいわね。


 皆が固唾をのんで見守る中、私と国王陛下は両端から魔道具に触れた。


 私と国王陛下の手が触れた瞬間、すべての魔石が眩しいくらいに光り輝いた。


「間違いありません。フェリシア様は紛れもなく陛下の娘です」


 ブライアンが言い終わるより早く国王陛下は勢いよく立ち上がり、私に再び手を伸ばして抱きしめようとするが、テーブルが邪魔でそれもままならない。


「おお、フェリシアよ。間違いなく私の娘だ。どうかエリックと呼んでくれ!」


 …だから、どうしてよ?


「陛下、何を仰っているんですか?」


 先程の私と国王陛下のやり取りを知らないブライアンが不思議そうに叫ぶ。


 いや、だから、どうして名前でなくちゃいけないのよ!

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