第11話 若き勇者様の恋心
予鈴が校舎に鳴り響く。昼休みの時間になり、校内は一気に賑やかとなった。
リブレキャリア校の昼食事情は、3つのタイプに分かれる。
食堂の学食で食べるか。購買部で軽食を購入するか。寮の共同キッチンで自炊するか。
外は爽やかな秋晴れが広がっていた。
星光石が散りばめられた天空は、濃い青がにじんだ色に染まる。それはまるで古代に存在した『大海原』のような色彩をしていた。
その日は暖かいこともあり、中庭で昼食をとる生徒も多く見られた。
校舎の中庭には、並木道が敷かれている。道の両脇には花壇が設置されていて、色とりどりの花が咲き誇る。
4人の男子生徒が、木陰で昼食をとっていた。
レオナルトとその友人たちである。
彼らはそこにいるだけで周囲から注目を浴びていた。道を通りかかる生徒は必ず彼らを見ていく。校舎内からもこっそりと視線を向けられていた。
リブレキャリア校の女子の間で、しばしば交わされる議論がある。それは「この4人の中なら誰派なのか」ということだった。
「ああ、今日もかっこよすぎる、レオ様……。話しかける勇気はないけど、この学校に通ってるからには1日100回は、あの姿を見とかないともったいないわ!」
「グレン先輩のクールな面差したまらない」
「今日、わたし、アルバートくんに話しかけてもらったのよ! 今日を記念日にするわ!」
「はあはあ……クリフォードきゅん……はあはあはあ……(男子生徒)」
今日も自分たちについて密かに論争が交わされていることなど露知らずに、当の4人はといえば。
それぞれに昼食を広げていた。
グレンは鞄からランチボックスをとり出す。彼は自炊派らしい。サンドイッチと水筒にスープを入れてきていた。パンの切り方も、具材の挟み方も丁寧だ。スープは具がたっぷりと入ったミネストローネという、朝から準備するには手間のかかる代物である。
それが2人分、鞄から出てくる。グレンはそれを隣の人物に手渡した。レオナルトが礼を言って、受けとっている。
その様をクリフォードが羨ましそうに見ている。
「グレンの手作り、いいよね。オレにも作ってくれない?」
「1食16セルク」
「高っ! こないだ聞いた時より値上がりしてるじゃん」
「偏食野郎は特別価格だ」
グレンはクリフォードの昼食を見る。
購買部でそろえたらしいそれは、サラダと栄養補助食だった。健康的な男子生徒が選ぶメニューとは思えない組み合わせだ。
アルバートが「じゃあ、おれは?」と尋ねると、
「お前は25。ラクール家の御曹司用価格」
「それぐらいなら出すぜ! 5人前で……えーっと、100ちょっとくらいか?」
「阿呆と大食漢は取引お断りだ」
冷ややかに返すグレン。
アルバートは大量のパンを抱えている。具材がローストビーフ、チキン、分厚いハム、ウインナーと肉尽くしであり、いかにも男子生徒が好みそうなものばかりだった。それをぺろりと完食してしまうのは当たり前で、日によっては「食い足りねえ」と食堂に向かうこともある。
クリフォードは納得がいかない顔で目を細める。
「ねえ、それってレオはいくら払ってるのさ?」
「立替なら間に合ってる」
レオナルトにばっさりと切り捨てられ、「あ、ずるいよ!」とクリフォードは言った。
昼食を終えると、4人は思い思いにくつろぎだした。暖かな日差しに眠気を誘われたらしい。その場から移動せずに、まったりとしている。
レオナルトは木にもたれて、目をつぶる。グレンは静かに本を読んでいた。クリフォードが「んーっ」と猫のように伸びをする。アルバートは大口を開けて、欠伸を漏らした。
密かに彼らを観察していた生徒たちは、感嘆のため息をもらす。
「ああ、いつまでも見ていたい。最高、目の保養……」
「私、今のうちに手を合わせて拝んでおくわ……」
そんなゆったりとした時間がしばらく流れ、
「あ、あの……」
ためらいがちな声が彼らにかけられた。
女子生徒が顔を赤くして、小道に佇んでいた。
「えっと、レオナルトくん。少し話したいことがあるんだけど、今、時間あるかな……?」
レオナルトは気だるそうに片目を開いた。相手の女子を一瞥してから、ぞんざいな口調で返す。
「見ればわかるだろ」
「じゃあ、放課後はどうかな?」
「わかるだろ。見なくとも」
「あっ……そっか。邪魔してごめんね!」
女の子は泣きそうな顔になり、駆け出した。そばで待機していた友人が、彼女をなぐさめている。
クリフォードとアルバートがそちらを見る。
「今のって、レオに告白しようとしてたんじゃない?」
「あーあ、もったいねーの。けっこう可愛かったけどな?」
「うるせーな、お前らには関係ねえだろ」
「レオはああいう手合いには、応えられないぞ」
グレンが唐突に口を開いた。1人の世界を形成しているように見えて、彼らの話をちゃんと聞いていたらしい。
ページをめくりながら告げる。
「すでに心に決めた相手がいるからな」
「おいっ」
「嘘!?」
「マジかよ」
レオナルトは険しい顔になり、クリフォードはにやりとして、アルバートは目を丸くしている。
「グレン。その話はするなって言っているだろ」
そこでようやくグレンは顔を上げた。
口元を本で隠して、にやりと笑う。
「おっと、そうだったな」
「お前な……」
レオナルトの刺々しい声に、クリフォードとアルバートは首をすくめる。これはさぞや怒ってる声だぞ、とそちらの方を見て――2人は驚愕した。
「え、レオ、赤くなってる? ってことは、今の話マジなの?」
「知らなかったぜ。今度おれらにも紹介しろよ」
レオナルトは赤くなった顔を隠すように、膝の上で頬杖をつく。そして、そっぽを向いた。
「そんなんじゃねえよ」
レオナルトには悩みがあった。毎晩のように、おかしな夢を見るのだ。
それが妙に生々しくて現実的なので、寝れた気がしない。そのせいで寝不足に陥っていた。
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