絢爛妖花 -けんらんようか-

ジャック(JTW)

絢爛妖花

鷹彦の章

曼珠沙華 -壱-

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 戦国の世、妖花ようかの影が蔓延る時代。

 その中で、一人の妖花の宿主やどぬしである青年、鷹彦たかひこが、荒れ果てた山道を歩いていた。


 彼の身に宿るのは、美しくも恐るべき妖花『曼珠沙華まんじゅしゃげ』。

 その赤く鮮やかな花弁は、まるで血濡られた刃のように鋭く、その毒は鷹彦以外の生命を蝕んでいく。


 鷹彦は、その毒を以て毒を制す戦いの中で生きる男。

 彼の刀は、自らの血で染められ、妖怪達や悪しき妖花憑ようかつきを討つための武器となっていた。



 彷徨さまよう彼の目的は二つ。

 妖花から解放されるための術を探すこと。

 ──そして、夜行独尊やぎょうどくそんという男を殺すこと。


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 数年前、まだ何のとがも背負っていなかった頃の幼い鷹彦。

 彼は、生まれ故郷の村の端にある小高い丘に立っていた。目の前に広がる田園風景は、穏やかな風と共に揺れる稲穂の波を見せていた。

 彼は、この景色が大好きだった。

「こら、鷹彦、遊んでないで帰っておいで」と優しく叱る母、そして穏やかな父。温かく見守ってくれる優しい村人達。

 幼い鷹彦は、間もなくその平和な風景が一変することを知る由もなかった。


 ──ある日、村の端にある小さな森の中で、一輪の花が咲いていた。その花は、深紅の花弁を持ち、どこか妖艶な魅力を放っていた。

 村人たちはその花を『曼珠沙華まんじゅしゃげ』と呼び、美しいが危険な花として避けるようにしていた。


「危ないから触れてはいけないよ」


 そう言われていたにも関わらず、ある日、鷹彦はその花に興味を持ち、近づいてしまった。

 妖艶な花の美しさに魅了され、彼は指先で花弁に触れた。すると、その瞬間、彼の手から赤い霧が立ち上り、彼の体を包み込んでゆく。

 そして、彼の黒い髪が赤く染まり、有り触れた黒の瞳も赤く輝くようになっていく。


「おっとう! おっかあ! 助けて……!」


 ──焼け付くような痛みと全身が溶けるような苦しみに、鷹彦は悶絶して意識を手放した。


「う……」


 鷹彦は、目を覚ますと、目の前に広がる光景に言葉を失った。

 彼の故郷である村は、まるで別世界のように変貌していた。赤く輝く曼珠沙華の花が、あたり一面を覆い尽くしていた。

 その美しさはまるで幻想のようであり、同時に異様な恐怖を感じさせた。


「おっとう! おっかあ! どこだ……!」


 鷹彦は、慌てて立ち上がり、村を駆けた。しかし、彼の足取りは空しく、誰も生きている者はいない。曼珠沙華に包まれた家々は廃墟と化し、血の匂いが漂っていた。

 彼の両親も、哀れな骸となり、命を落としていた。


「おれが、おれが、花に触ったから、こんな……!」

 

 鷹彦は、その光景に絶望し、悲しみに暮れた。

 

 そして、彼の胸には、憎むべき美しさを持つ曼珠沙華の花が咲いていた。その花は、彼の心臓を侵し、彼の運命を変えてしまったのだ。


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