討伐後

 ティシュトリヤを討伐し、俺たちは水麗領地メルティジェミニに戻った。

 到着してすぐ森に入ったから、ここがどういう領地か知らない。

 さっそく、水着に着替えて水中へ……そして、目の前に広がったのは。


「すっげ……あっちは珊瑚礁だったけど、こっちはそのまま建造物がある」


 泳いでいくと見えたのは、まるで国会議事堂みたいな建物だった。

 驚いたことに、ぱっくり割れた地面をそのまま『町』にしている。クレバスって言えばいいのかな……岩に穴を掘って家を作り、下へ下へと続いている。

 町全体が明るく見えるのは、岩自体が発光しているのと、設置された街灯のおかげだろう。

 街灯は火ではなく、ガラスの入れ物に光る石を入れて光らせている。

 驚いていると、エルサがパンフレットを取り出して読んでいた……え、防水パンフレット?


「水麗領地メルティジェミニは、大地の裂け目に作られた町です。入口はそのまま裂け目ですけど、中に入ると……見ての通り、すーっごく広い空間になっているみたいです」


 思いついたのはフラスコだ。

 フラスコ。持ち手であり入口の部分は狭いが、容器自体はかなり容量がある。

 このメルティジェミニもそんな感じ。裂け目は大きくないが、そこを過ぎると一気に空間が広がっている。

 リーンベルは、俺たちの前まで泳いで言う。


「水棲亜人の貴族はね、海底に行けば行くほど爵位の高い水棲亜人が住んでいるんだよ」

「そうなのか?」

「うん。海底は深淵、深淵に近い水棲亜人は海の祝福を得る……って御伽噺があるの」

「へえ……わたしも初めて知りました」


 今更だが……エルサもリーンベルも、もう水着を恥ずかしがっていない。

 二人並んで俺の前を泳ぐモンだから、水着のお尻とかよく見えるわけなんだが……いや気にしてはいないが、見えちゃうんだよね。

 気付かずにエルサはリーンベルにいろいろ質問しているし。リーンベルもエルサに対して自然体というか、ようやく慣れた感じだ。


「レクスくん。とりあえず青棲騎士には報告したから、あとは水棲騎士にティシュトリヤ討伐を報告するね。たぶん……そろそろ、熱を司る悪獣タルウィが目覚めるはず」

「あ、ああ……」

「レクス……やっぱり、心配ですか?」


 いや、きみたちのお尻を見ていたのがバレたのかと思いました……なんて言ったら、この旅は終わる。


「……ああ」


 すみません!! 俺は最低のウソつきです……ごめんなさい。


 ◇◇◇◇◇


 水棲騎士団の支部に報告し、今日は宿を取って今後について話すことにした。

 宿屋で、マルセリオス公爵家の証を見せたら驚かれた……いやー、後ろ盾ってすごい。

 でも、人間用の宿じゃないので、普通に海水で満たされた部屋だった。


「ベッドはあるけど、水中で寝転がれるのか? あ……固定用のベルトがある。これを足に巻いて寝るのか……ベッドから浮き上がらないように」


 ソファはグニグニと不思議な弾力だ。ゴムというか、スライムというか。

 座り心地はいい……部屋も広いし、まあ何とかいける。

 すると、部屋のベルが鳴った。来たのはエルサとリーンベル。

 基本的に、水中では建物にドアがないので、入口にハンドベルが設置されている。


「いらっしゃい、ささ、どうぞどうぞ」

「ふふ、なんですかそれ」

「いや、なんとなく。さて……リーンベル、これからのこと、相談するか」

「あ、うん」


 最初の話題は、俺たちの旅に臨時でリーンベルが加わりたい……ということだ。

 さっそく、俺はソファに座る……このソファ、座り心地はいいんだが……水中で座るってのは変な感じ。


「リーンベル。俺たちの旅に同行するってのは? そもそもお前、この仕事終わったらリューグベルン帝国に帰らないといけないんじゃ……? 『六滅竜』の使命は帝国の守護だろ?」


 最もな疑問をぶつける。

 同行は別にいいんだけど、『六滅竜』のリーンベルが一緒にいることで、妙なことに巻き込まれないかだけが心配……もちろん、リーンベルを助けるつもりはあるが、厄介ごとに首を突っ込むのだけは正直避けたい。

 リーンベルは、行儀よくソファに座ったまま言う。


「その……私も、冒険してみたくて」


 俺をチラチラ見ながら言うリーンベル。

 すると、エルサが俺を見て、リーンベルを見て……頷いた。


「わたしは賛成です。レクス、リーンベルさんが一緒に行きたいのなら、いいんじゃないですか?」

「……ど、どうしたいきなり」

「いえ。わたし、なんとなくわかったというか……でも、それは言っちゃいけないことなんです」

「……???」


 意味がよくわからなかった。

 エルサはリーンベルを見て笑顔を向けると、リーンベルは顔を赤くして頷く。

 女同士、わかることがあるのだろうか。

 まあ、さっきも思ったが同行は別にいい。問題は別にある。


「さっきも言ったけど『六滅竜』の使命はいいのか?」

「レヴィアタンに相談したら、『手は打ったから』って。リューグベルン帝国にお手紙出したから、おう大丈夫みたいだけど」

「…………」


 ちょ~っと嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 …………よし、決めた!!


「わかった。じゃあ、俺たちと一緒に冒険するか。お前が大丈夫って言うなら大丈夫だろうし、こんな機会滅多にないだろうしな」

「うん。ありがとう……ふふ、うれしい」

「よかったですね、リーンベルさん」

「うん。ありがとう、エルサ。それと……リーンベルでいいよ」

「じゃあ、リーンベル……ふふ、なんだか恥ずかしいですね」

「えへへ」


 なんか俺邪魔かな? って空気になった。

 こうして、俺とエルサとムサシの旅に、六滅竜『水』のリーンベルが加わることになった!! 戦力差ヤバすぎる……ある意味、最強だろ。


 ◇◇◇◇◇


 さて、次の話題。


「次は『タルウィ』だな。えーっと、アパオシャとティシュトリヤが二大眷属で、そいつらを倒すと出てくるんだっけ?」

「わからない。過去にはアパオシャの群れとティシュトリヤを率いて現れたって記録もあるよ」

「そ、それってかなり危険ですね……」


 青くなる俺とエルサ。

 リーンベルは右手を見せる。


「でも、レヴィアタンなら倒せる。今は万全の状態にするために魔力を貯めているけど、タルウィが現れたら一気に倒すから」

「頼りになりすぎる……あと、現れるのはどこか検討が付いてるのか?」

「うん」


 リーンベルは頷いた。

 アイテムボックスから地図を出すと、地図のど真ん中を指差す。


「ハルワタート王国、歓楽領地ササン、水中都市アルメニア、水麗領地メルティジェミニ。この四つの領地の中心にある海域……『カヤンスウィーフ海溝』。たぶん、ここから現れる」

「……どんな姿だ?」

「不明。不思議なことに、かつてタルウィがどんな姿をしていたのか、記述が全くないの」

「じゃあ、出て来たところで勝負か」

「うん。問題は一つ……」


 リーンベルは、右手の紋章を撫でた。


「レヴィアタンのドラゴンブレスなら間違いなく倒せる。でも……威力が大きすぎるから海の生態系が壊れちゃうかも。あとは、レヴィアタンと私で海に入り、直接戦闘で倒すか……でも、相手の姿がわからないから、後手に回っちゃう。倒せるとは思うけど、無傷じゃ済まないかも」

 

 なるほどな。

 だったら、答えは一つ。


「じゃあ、俺とムサシも一緒に戦う。ムサシなら水中に適応しているし、攪乱くらいはできる」

「でも……タルウィはたぶん、『幻想級』に匹敵する強さだと思う。ムサシは変身しても『彼方級』の上位か、『永久級』の下位くらいだし……危険すぎる」

「気にしなくていい。そもそも、最初からお前だけに戦わせるつもりはないし」

「はい。仲間ですから」


 リーンベルとしては、『タルウィを倒したあと仲間になり旅をする』ってイメージだったんだろうな。自分一人で倒し、全て解決してから一緒に冒険……って感じだったんだろう。

 でも、もう仲間になったようなもんだ。

 リーンベルが一人で危険な戦いに赴くなら、それを支えるのが仲間ってもんだ。

 異世界系主人公ならヒロインのために首を突っ込んで惚れられるんだろうが……俺はそういうのじゃない。

 ただ、俺たちの旅に同行したい、一緒に冒険したいって言う子を助けるだけだ。


「リーンベル。戦うなら一緒にがんばろう。で、全部終わったら冒険だ!!」

「……レクスくん」

「リーンベル。わたし、一緒に冒険ができるの、楽しみです」

「エルサも……うん、ありがとう」


 と、俺の右手の紋章が淡く輝き、ムサシが現れた。


『きゅるる~!!』

「お、ようやく起きたか。ムサシ、これからデカい戦いがある。頼むぞ」

『きゅいーっ!!』


 ムサシは「任せろ」とばかりに羽をパタパタさせ、リーンベルの胸に飛び込むのだった。


「わわ、ムサシ……もう、甘えんぼ」

『きゅるる~』

「………」


 リーンベルの胸……いや、けっこうデカいな。うん……いや、羨ましいとかじゃないからな!!

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