眠り姫
うららかな春の日差し
舞い落ちる桜の花びらの中
まるでキミは春の女神のような笑顔を見せて
くるりと振り向きボクに言ったね
「来年も再来年も、これからもずっと、家族が出来ておじいちゃんおばあちゃんになっても、一緒にこの桜並木の下を歩きたいね」
それはまるで美しいお伽噺のハッピーエンド
「そうして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ」
そんな甘いエンドロール
これから始まる新しい生活に
心は希望に満ちていた
夏が来て
それぞれに忙しく
容赦なく降り注ぐ日差しは
アスファルトに影を強く焼き付けた
右も左もわからない日々
やっと二人で見に行った花火も
キミは疲れたと言って途中で帰ったね
暗い夜空に
吸い込まれてゆく儚い花たち
ねぇ?次はいつ会えるかな?
いろんなものが気付かぬ間に遠ざかってく
相変わらず朝は眠たいけど、寝惚けててももうちゃんと結べるよ?ネクタイだって
新しい暮らし、初めての朝、キミはちぐはぐなボクのネクタイを笑いながら直してくれたね?
少し肌寒くなった朝、何もかも吸い込んでしまいそうな青空を見上げて一人思い出してる
今日は日曜日
キミと一緒に居られる時間は少ないのに
疲れたキミはまるで眠り姫のよう
そっとくちづけて静かな横顔をいつまでも見ていた
あぁ、もう少ししたら冬が来る…
ある寒い寒い冬の朝
気が付くと外は一面の雪
独りでに点いたテレビから
お伽噺のように現実が流れてくる
今まで誰も見たこともないような景色
みんな雪に閉じ込められて外には誰も居なかった
静かに降る雪だけが
感情もなくこの世界を白く染めてゆく
ねぇ?なのになぜキミはこんな世界に横たわっていたの?
大きな影が横切った足跡
キミの口から溢れた血はまるで深紅の口紅のように
キミが最後に歩いた道に落ちていた
氷のように冷たいキミは暖かい春を待つ眠り姫
どうか神様ボクの想いが真実でありますように
どうかあの日のように、優しくボクのくちづけにキミが微笑んでくれますように
そっとくちづけてキミの横顔を見つめてた
もう春が来たよ?
朝は相変わらず眠たいし
いつまでもこうして白い毛布にくるまっていたくなる
キミのいない世界に目覚めても
ボクを待って居てくれる人がどこにいるのだろう?
あの日二人歩いた桜並木がどうしても霞んで見えないよ
どこまでも
どこまで歩いても辿り着けないハッピーエンド
色を無くした現実にボクだけを取り残して
どうかお願い
ボクに覚めない夢を下さい
どうかお願い
これが最後の夢ならば
キミにもう一度だけ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます