74 パラレル世界でも行列好きの日本人
インターハイの団体戦が、今度こそ始まる。
不知火マイコにカオルが変な挑まれ方をされただけで、おおむね問題はない。
「勇太さん約束です。63キロ級で優勝できたらハグ、・・・それと一本勝ちできたら、追加であ~んしてクッキーをお願いします!」
不知火は、顔を真っ赤にして、走って去っていった。
「あ、返事も待たずに逃げちゃったよ。それくらいなら、いつでもいいのに」
要望が増えているが、追加オプションもクリア条件の厳しさに反してショボい。
きっと不知火マイコの勇太の前世同一人物は、日本のどこかでダメンズに引っ掛かるハイスペック女子である。そう断言できる。
勇太は、茶薔薇学園を激励に来たことを思い出した。
「桜塚部長」
「なんだ、勇太君」
「今朝、クッキー焼いてきたんだけと、あとで食べます?」
そう。体力チートの勇太は今朝は2時から山のようにクッキーを焼いてきた。
その後にリニアモーターカーに乗った。
「まだ試合まで40分くらいある。クッキー1枚くらい食っても試合には影響ない。で、できれば、あ、あ、あ、あ~んして欲しい」
「いいっすよ」
「まじ?」
「並べ!」
「せいれ~つ」
勇太が返事した瞬間、カオルを除く茶薔薇の部員が、顧問まで含めて全員並んだ。
そして・・
なぜか他県の代表も茶薔薇学園のあとに並んでいる。
「やった~」
「ネットで見て、やってもらえたらって、期待してたんだ」
「うっし、歌といい、力が沸いてくるよね」
「生の勇太君って最高だって、ネットに書き込んであったよね」
「あれ?不知火さんも逃げなかったら、今やってもらえたんじゃ・・」
「誰か呼びに行く?」
「いや、列から離れたら2度とチャンスはないな」
「じゃあ放っておこう」
ここに残って順番待ちしている、不知火の仲間らが呟いてた。
体育館の競技スペースを囲む長くカーブが付いた通路。蛇行した列の最後尾が見えない。
勇太も、茶薔薇と関係ない人はダメとも言えなくなった。
「ルナ、梓、カオル、どうしよう」
「やるしかねえだろ。うっしっし」
「ほら、みんなユウ兄ちゃんを待ってる」
「勇太って優しい」。ルナもにこにこしている。
「あげられるクッキーは300枚ですよ~。なくなり次第終了で~す」
自分が何番目だと確認する女子が騒ぎだして、すごく遠くから悲鳴も上がっている。
桜塚部長から順に、あ~んしてもらった。終わると、茶薔薇学園の面々は1回戦の準備に行った。
残りは知らない女の子だ。まだ最後尾は見えてこない。
「愛媛県52キロ級代表、松山タエコです。あ~ん」ぱくっ。
「試合、頑張ってね」
「応援の人間ですがいいですか、タケノサクラコです。あ~ん」
「肥後天草女子校顧問、カノチエです。あ~ん」
ここでも教師が混じっている。それもおばさまだ。
これを270回繰り返した。
「ようし!」
「ありがとうごさいます。頑張ります!」
当然、録画されまくり。
「くくく。だから勇太、茶薔薇の敵になる人達を元気にしすぎだって~」
「こら~、ユウ兄ちゃん。ふふふ」
「え~、俺が狙ってやったわけじゃないよな・・・」
ルナと梓に突っ込まれても、知らんがなとしか言えない勇太だ。
ようやく、あ~ん大会が終わり、2階の観客席に上がった3人。梓、勇太、ルナの横並びで座っている。
今日の勇太は、結構胸元が空いたポロシャツだけ。
当たり前のように、注目を浴びている。パラレル市から初めて遠出した勇太。最初にリーフカフェに現れたときくらい、ざわついている。
あくまでも柔道の応援である。
そして気付いた。勇太が全国の柔道女子を中心にクッキーを食べさせている間に、茶薔薇の初戦が終わっていた。
クッキーの行列をさばくのに、一時間以上かかっていた。
どうや茶薔薇学園は、すでに試合が終わって勝っていた。
茶薔薇は勝ったが、格下と思われていた敵に健闘されたらしい。
敵校は勇太のクッキーで力を奮い起たせたそうだ。なんと茶薔薇が追い込まれた原因は勇太だった。
「わ、ユウ兄ちゃん効果が変なとこで現れちゃってる」
「勇太、モテモテ」
これも、知らんがなと言いたい勇太だ。
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