59 伊集院君、なんで今?
勇太は伊集院君と一緒に歌ってしまった。
すると、ものすごい声援と拍手。これはすごい快感。
女性達に言われて薄々は感じていたが、女神が声にも細工していると確信した。
今まではてっきり、パラレル勇太の声帯が優れていると勘違いしていた。
「すごい勇太」
「勇太君の声って、すごくクルよね」
ルナと純子が褒めてくれた。
梓と柔道の練習帰りのカオルも合流して、通称『勇太ファミリー』がそろった。
「ルナと純子もいるしな・・。そうだ、パンの歌を歌ってみるか。梓もカオルも参加してよ」
「ええ、恥ずかしいなあ」
「ちょっとだけだぞ。期待すんなよ」
「じゃあ、僕のところも4人で参加させてもらうよ」
純子が伊集院君を見て、遠慮しがちだった。だが、伊集院君か以前、ルナに近付くために純子に迷惑をかけたことを謝った。
勇太はパクって歌った。前世の人気番組のパンな人を主人公にしたドラマのエンディングテーマだ。
まずは小声で口ずさんだ。メロディーを♩♪♩♩~♩♪♩♪♪~。と、こんな感じて。
サビのところをゴブパンマンに変えた。前世ならヤバいぞ、勇太。
純子は歌がうまいらしい。ルナは普通。伊集院君もコーラスを買って出てくれたし、即興で合わせてもらった。
混んでいるリーフカフェの中で、いきなりライブになったけれど客の大半は勇太が目当て。
そこに伊集院君というスペシャルゲストまでいる。
誰も文句なんて言わない。
「ワン、ツー、スリー、はい」
♪♩♩~♩♪♪♩♩~♩♪♪♩♩~♩♪。3回程繰り返し、純子がメインボーカルのとき、全員がしっくりきた。
「ふ~、いい気分。ご静聴ありがとうございました~」
曲が終わった。
きゃ~、きゃ~、の声援と共に、すごい拍手をもらった。
「今の歌、聞いたことがないけど、なんて曲ですか」
「伊集院さんか、勇太君が作ったんですか」
「またサプライズライブやるんでるか?」
「結婚して下さい」
やはり不純物も混じるが、お客さんから矢継ぎ早に質問が飛んできた。
「勇太君が即興で作ったんだ」
「あ、まあ・・」
ぱくりである。何となく良心がとがめるが、本当のことは説明がつかない。
「パンのウスヤさんに提供しよっかなって思って・・」
どよめきが起こった。そのあとの褒め言葉と拍手で、少しは罪悪感が減った勇太。
思いつきではあるが、ウスヤがあるパラ横商店街のテーマとしてアーケード街の復興に役立つことになる。それは先の話。
◆
「勇太すごい。曲作りの才能があったんだね。前にも知らない曲を歌ってたもんね」
「ユウ兄ちゃん、素敵だった。楽しかったよ」
「勇太、アタイまで気分よく歌えたぜ。サンキュー」
ルナ、梓、カオルも勇太を囲んで絶賛中である。それを目を細めて見ている伊集院君。
テンションも上がって、興奮気味に話し出した。
「素晴らしいね勇太君。パン屋を手伝っているのはルナ君の妹の純子君のためだよね」
「まあ、成り行きというか、計画性はないけどね」
「今日は、勇太君に謝らないといけないことがある」
「なに、いきなり」
「実は、今日一緒に来た婚約者以外の、4人の婚約者とも話し合ったんだけど・・」
「ああ、政略結婚絡みの人達ね・・」
「やっぱり、色々な制約がありすぎて、勇太君と僕で男性同士の結婚は無理だと言われてしまった」
「は?」
きゃー、きゃー、きゃーと、一部の女性からの腐った悲鳴が聞こえてきた。
勇太自身が早くも忘れかけていたが、伊集院君に結婚しようと言われていた。
あれは自分達と仲良くなりたい伊集院君の言い間違いみたいなものだと思っていた。
まさか、持ち帰って本気で検討していたとは思っていなかった。
BLは無理だから、話が正式に消えてくれるのは大歓迎だ。
カオルにルナと梓が、伊集院君を入れて5Pしたいかと聞いたとき『無理』と答えた。
だから、話が再燃しても断ることは確定していた。
いや、その前に勇太が無理だと言ったのに、なぜ最終確認はカオルに取ったのだと言いたい。
「じゃあ4Pで決定だね」の梓の笑顔が、大輪のヒマワリのようだったのは何故だろうかと、疑問に残っている。
だけど伊集院君は、わざわざ歌ったあとの大注目の中で、それを言う。
「ごめんね勇太君、僕から言い出したのに・・」
「い、いやいや、そっちも事情があるだろうし、こうして交流を持てればいいよ・・ね?」
純子と麗子のパン屋の建て直しは男子パワーを駆使して、早くもうまくいっていると思える。歌に伊集院君まで加わってくれて、超の付くブーストまであった。
しかしなぜ、麗子といい伊集院君といい、自分をフッたとこになっている。これが納得いかない
告白はしていない。
そしてまたも、満面の笑みのルナに背中をパンパンされながら「ドンマイ」と言われた、
◆◆
即興ということになっているパンの歌で、ウスヤのパンは有名になった。
これがネットで再生回数が上がっている。後日、夏休みになるとウスヤの見物客が、早朝から訪れることになる。
そしてアーケード街の店が協力して、イートインコーナーの役割を買ってくれる。
2軒隣にあるお茶屋の女性店主いわく。「このまんまじゃ店をたたんでたから、むしろありがたいさね」
学校での評判は微妙なまなの純子だけど、麗子やウスヤの周りの人には感謝される存在になってきた。
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