51 勇太が気付かない最後のピース

モテ女・純子は双子の姉ルナが勇太と幸せの階段を昇りだしのと同時期に、糾弾されていた。


2か月前のことだ。


勇太も前世のネット小説で少しだけ悪役令嬢ものとか読んでいた。ただ乙女ゲームをやったことがないので、流れが分からず数作品程度にとどまった。


ぼそっ。

「異世界転生じゃあるまいし・・。いや、俺って異世界転生してるじゃん、何があっても不思議じゃないよな・・」



純子は自分で言う通り、かなりの人を傷つけてきたのだろうか。


責められたとき冤罪めいた罪も押しつけられたようだが、周りがそれを純子の罪と認めた。そこで、自分の馬鹿さを痛感したと言っている。


このまま帰すのが正解なのかも知れない。



だけど、・・・。


この純子を見捨ててはいけない、縁を切ってはいけないと、拒絶する自分がいる。


パラレル純子と会っても、関わらない未来も考えていた。


だけど勇太が思い描いていたガン黒な女豹ではなかった。むしろ前世純子のままだった。


今世ではルナのことがあり、避けてもいいと思ってきた相手。


だけど勇太の前世には純子が大きく関わってくれた。


勇太は、ものすごく動揺している。自分でも分からない。


本人に自覚はなくても理由はある。


前世の勇太は21歳まで生きていても、16歳の夏前には多くの交流を断っている。


どっちの世界でも世話になった柔道部の時子部長のような人物もいるが、絶望の記憶もその隣になる。


勇太の中の、最後のキラキラした記憶に残る人物は5人に絞られる。


彼女だった花木留奈。

5歳下の妹だった坂元梓。

小3から親友だった今川薫。

中3から留奈と共通の友人になった伊集院光輝。


そして3歳から幼馴染みだった山根純子。



勇太が今世の純子と会わなかったのは、意識せずとも漠然とした怖さを感じていた。


前世の最期には会えず、病気になった勇太を見舞いに行けない場所に移り住んだ。


だけど勇太と純子は連絡を取り合い、勇太は純子のモデル業の活躍を応援していた。


間違いなく絆があった。


見た目の派手さ、強気な言動で誤解を招くこともあった。だけど勇太からしたら純子は可愛い幼馴染みだった。



だからこそ、今世で同じ顔をした純子が悪く変わっていたら、大切なものが壊されるような気がしていた。


半分は無意識に避けていた。ルナからパラレル純子に会うかと聞かれても、何かためらった。返事をぼかしていた。



けれど会ってみたらパラレル純子は、勇太の病気のことを知って泣いた純子と同じだった。


本人は悪くないのに、病気の勇太に暴言を吐いたと泣きながら謝ってくれた、あのときのイメージそのもの。


幸か不幸か、イケイケで色んな評判があった時期も知らない。


だからこそ目の前の純子は、勇太が大事にしていた綺麗な純子のままに見える。



前世純子が自分に向けていた贖罪の気持ち。今純子が、その気持ちを向けている相手は間違いなくルナ。


大切なルナと純子は今世で姉妹だから、仲を取り持てないものかと思案してしまった。


「あの・・坂元、勇太君」


「ああ、ごめん、少し考えてた。パン屋のことで質問があるんだけど」

「私が分かる範囲なら」


「あの店って、サンドイッチとか扱ってる?」

「うん。あなた達が来たときはなかったけど、午前中とかに売れるの」


「リーフカフェに卸す余裕はあるのかな」

「え?」


純子が世話になっているパン屋の経営が大変と聞いて、思い付いた。


ここはリーフカフェの前。


ちょうどオーナーの葉子が今日は閉店後の後片付で残っている。


早速、勇太は葉子に店で出すパンのことを話した。


商売に関わる話だ。


カフェ店員の勇太とパン屋のアルバイトの純子でできる話ではない。


しかし葉子は、カフェを立て直してくれた勇太の話を大事にする気でいる。


勇太効果のひとつで、運動好きの女子が夕方に多く訪れる。定番のクッキーやチョコ以外に、軽食が店にないか聞かれることが増えた。


商品を追加する価値はあると思っている。葉子が話し出した。


「そうね。パン屋の『ウスヤ』か。味は確かよね、え~と花木さん」


「はい。店に今から帰るんで、あとで連絡させてもらっていいですか?」


「じゃあ俺、純子に付いていって話だけしてくるよ」


勇太の行動は早い。


純子からしたら恩人の母親の店の役に立てそう。けれど、姉のルナの彼氏とはいえ、初対面の自分を助けてくれる理由が分からない。


ルナには迷惑をかけてきたのに・・



「まあ話は早い方がいいよね。行こう」


純子は勇太のあとに付いて、パン屋に向かった。


純子は思う。


不思議な人だ。男兄弟はいないけど、頼れるお兄さんがいたら、こんな感じなのだろうかと思う。


薄手のシャツ、適度に伸びた髪。筋肉質で声も聞いていて心地いい。


エロ可愛いのはもちろんだけど、男子にこんな自然な笑顔を向けられたのは初めてだ。気のせいか愛情のようなものまで感じる。


横に並んで顔を見ていると、話しかけられた。


もうすぐ店があるアーケード街だ。


「ところで純子、パン屋の娘さんって、俺も知ってる人かな」


「ああっと・・。勇太君は間違いなく知ってる」


「へえ~」


勇太は考えたが分からない。純子の2年6組の人には転生後、誰にも会いに行っていない。


だったら、パラレル勇太の知り合い?

だけどパラレル勇太は、同級生に知人なんて・・



「あ・・」



パラレル勇太の中に、1人だけ6組に知ってる女子がいた。


思い出すと同時にパン屋が見えてきて、その前に女の子が立っていた。


「純子、お帰り・・その人・・」


「あ、・・どうも臼鳥さん」


身長163センチ。目が切れ長の美女。巨乳。


去年の6月。パラレル勇太が堂々の告白をして、カウンターでフラれた臼鳥麗子がいた。



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