27 ルナの初めて生中継中
ルナは、尋常ではないほど興奮している。
性的に。
女子の性欲が強いこの世界。健全な高2として、むらっとしてオナることは普通にある。
それが勇太と出会って回数が増えた。
ついさっき、勇太がヨータローに怒った。自分のことを言われてもヘラヘラして、受け流していた。
話題がルナのことに変わった途端、雰囲気が変わった。
物話の中では男子が女子のために戦ったりする。
だけどルナは実際にそんな場面を見たことがなかったし、友人にも見た子はいない。
自分達にない荒々しい闘争本能を見せられた。
それも、多くの人がいる前で、自分のためだけに怒ってくれた。
過去に勇太に会った覚えがないルナ。違うルナと間違えられていると思っていた。
そのことが、性欲を勇太に向けないための歯止めになっていた。
だけどさっきの、身体の奥まで響く声は、間違いなく自分だけにくれた物だった。
今、2人で保健室の男子生徒の専用治療ゾーンにいる。服を脱いだときに、女子生徒に見られないためだ。
専用といっても造りは簡単。上が空いたパーテーションでベッドを囲ってドア1つ。内側に鍵が付いているだけ。
入り口の外に侵入者警戒用の監視カメラ付き。中の音は聞こえる。
「すまんルナ。また人前で目立たせちまった」
ルナは、鼻血が出た勇太の応急手当をするため、ここに連れてきた。
しかし、言葉が出ない。
ルナは、勇太に抱きついてしまった。
「い、いえ。あの、違うの勇太く・・ん。手当て、そうだ、離れて手当しなきゃ」
状況はともかく、初めてルナの方から抱きついた。勇太は、しっかり抱き返した。
鼻血など、もう止まっている。
「ゆ、勇太、わたし・・」
「・・ルナ、かわいい・・」
ルナの目がうるうるしている。
「・・勇太、正気なの」
「なにが?」
「お、俺のルナって・・」
「本気だよ」
「人前でプロポーズされた上に、あんなこと言われたら、その気になるよ。いや、もう我慢できない・・」
すでに、2人の顔の距離は10センチ。そのまま、ルナが上でベッドに倒れ込んだ。
勇太は、条件反射のようにルナのスカートをめくって、お尻を鷲掴みにした。
ビクッとしたルナだったが、それも一瞬。なされるがままになった。
ルナも、ぎこちない手つきで勇太に触れた。
◆
時間はホームルーム終了直後。
担任の佳央理先生が、保健室の前にいる。
自分のクラスの坂元勇太が、鼻血を出していた。花木ルナと共に保健室に向かうとき、声をかけそこねた。
ここ2週間の勇太は変わった。しかし、その前の1年以上のこともあり、信用できない気持ちも大きい。
今の勇太と一致しない。
ついさっき、勇太の男子同士の暴行未遂を目の前で見た。
きっかけはルナへの、男子生徒からの暴言。
ルナを守るため、ためらいがなかった。
少し前から、佳央理は気付いていた。勇太の行動には一貫性がある。
謝罪するときも、自分の立場に関しては何も頼まない。
従妹の梓、再会を果たしたルナのことだけだ。彼女を悪く思わないでくれと頼みに来る。
何度も。
教師として保健室に来た。扉は開いている。
まずは勇太の様子見。そして学校側がもみ消すだろうが、暴行未遂への注意をせねばならない。
プラスして、チャンスがあれば勇太と2人だけで話してみたいと思った。
保健室の先生は留守。
男子生徒の専用ゾーンから声がする。
薄壁のパーテーションに付いたドアをノックしようとしたときだ。
「・・勇太、私、何の経験もないよ」
「俺も初めてだよ・・」
「なんで、そんなとこ触るの・・あっ」
聞き覚えがある女子生徒の、不安そうな声がする。
「勇太ってば、ねえ・・あっ、そこはっ、あっ、あのっ・・っ・う・・」
なんと、勇太とルナでヤり始めたところだった。
佳央理はフリーズした。
保健室で男子と女子が交尾するのを教員が止めてはならない。
それは男女比1対12の世界で、教職免許を取る上の常識。佳央理の頭にも入っている。
平成中期から、人工授精の技術が安定した。すると今度は自然妊娠率が下がりすぎた。
以前と変わらず、校内性交が推奨されている。
全国の高校では、休み時間でも男子がその気になれば、女子とエッチする部屋が用意されている。
2人で連れ立って保健室の特別ルームにしけこむ。
出生率を落とさないため、政府の推奨事項。部屋を作るための補助金も出る。
パラ高にも『男女用特別室』として存在している。
ルナ、パラレル勇太も、入学後に教師から説明を受けた。
しかし2人は、自分には縁がないと思い、話半分で聞いていた。保健室ならシていいとしか認識がなかった。
そう、ルナも勇太も間違っている。
行為をする場所は、勇太たちがサカっている薄壁のパーテーション内ではない。
保健室の右奥のドアから入る、防音機能も完璧なダブルベッドの部屋なのだ。
佳央理は困った。なぜ、あいつらはシングルのパイプベッドをギシギシいわせている。
佳央理には、勇太の荒い息づかいが聞こえる。
破瓜の傷みに耐えるルナの、断続的な声も聞こえる。
みんな、はっきり聞こえている。
2人は場所を間違っている。
そもそも、パーテーションの上は空いている。保健室の扉も全開。通行人に聞かせるために始めたのだろうか。
しかし、このケースは聞いたこともない。
止めるべきかどうか、佳央理は迷っている。
そして、股間がむずむずしている。佳央理に彼女はいるが、男女のアレは荒々しい音がする。
佳央理は、人の気配を感じた。慌てて振り向いた。
ルナの友人で2年4組のクラスメイト3人が、立っていた。
友人のルナの心配が5割、勇太との接点を持ちたい気持ち5割。3人で保健室に来た。
3人とも顔が真っ赤だ。そして中の1人がスマホを作動させている。
実況中継のようだ。
開きっぱなしの保健室の扉からルナの甘い悲鳴が漏れ、さらに6人の女子生徒が集まった。
女子10人。声を出さず、勇太とルナの声を聞いていた。
そこに勇太の、女神が細工した声が加わる。
やがて、ルナの甘い声、苦しそうな声が交互に響くとパーテーションの中が静かになった。
佳央理がハンドサインを出し、10人は保健室から静かに出ていった。
こうして、勇太とルナが結ばれた。
しかし、このことは昼休みまでに、学校中に知れ渡ることとなった。
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