16 パラレル勇太は俺の鏡

勇太は教室に入ったあと、クラスメイトとは、ほとんど話していない。


しかし授業は楽しい。


ちょうど今の佳央理先生の日本史。


病気になる前は、嫌だった授業。今はとにかく学べることが嬉しい。


休み時間はクラスメイトを不快にさせないために、教室を出て行くことにした。


で、ルナを見に隣の教室に行ったが、美術の授業前で移動していて、教室がもぬけの殻だった。


「ヤヒロカナエさん、アシベヒロコさん、この前は梓のことを助けてくれたんだってね。ありがとう」


「・・え、え~と、たまたまだな」

「私達も、あいつらにはムカついてたんだよ」


次の休み時間、2年1組の女子にお礼を言っている。


少し前、パラレル勇太絡みで、梓が2年女子に馬鹿にされた。梓が反論した。


そして梓は、女子4人に囲まれた。


ピンチの梓を救ってくれたのが、梓と同じバドミントン部の2人だった。


そう梓に聞いた。


カナエ、ヒロコのコンビは前世でも仲が良く、今世では恋人同士。


前世の2人と勇太は、中学からの同級生だった。


病気になった勇太に千羽鶴を折ってくれた。


だから、2倍感謝している。


「2人とも相変わらず仲がいいんだね。良かったら、これを使って」


お礼にリーフカフェの飲食券を渡した。


「ありがとう。ところであんた、4組の花木ルナと知り合いだったの?」


「うん、まあね。先週の金曜日に、助けようとしてくれて気付いたんだ」


「へ~」

「なんか、ロマンチックだね・・」


「前のまんまじゃ相手にされないから、ダイエットして、少しはマシな男に変わろうかな~って。ははは」


ぼそっとカナエが呟いた。「変わりすぎたろ・・」


ルナは冤罪をかけられたり、特に最近は散々だったらしい。だから心配だ。


勇太は今日の昼休み、ルナに一緒にご飯を食べようと、一方的に言った。


『昼、都合が悪いなら、今度にする?』


LIMEを送ったものの、既読は付いても返事が来ない。


勇太は慌てすぎたと反省している。ルナが陰キャの自分と登校したことで、迷惑に思っていないかと。


こんなことを考えながら午前中は5人の女子生徒に会った。


勇太からしたら、感触がいい。根暗で嫌われていると思っていたし、かなり嬉しい。


これは、勇太の認識不足。


男女比1対12世界に転生して動き回っていても、まだ丸3日たっていない。


この世界の女子の性質が分かっていない。男は数が少ないから大半が高飛車だ。


エロ可愛い男子に笑顔を向けられたのは、初体験の女子が多い。


大半の女子は顔が赤い。原因はシャツの隙間から覗く勇太の乳首。


すでにパラ高の女子生徒の8割が、ネット上で勇太の動画を見つけた。


彼は色んな女性のリクエストに気楽に応えている。


失礼ながらブス寄りのキミカ、モブ顔のルナも大事そうにハグしている。


仲良くなれば、セッ●スさせてくれるという噂まで流れている。


「またねー、ハヤマさん」


勇太は、名前で当たりを付けて前世のルナの友達に会いに行った。


この世界でもハヤマとルナは中学からの友人だった。相変わらず明るかった。


このハヤマは自分でも、自分をブスと思っている。


だけど、新生勇太は周囲の美人ではなく自分に会いに来た。


ルナの友達で良かったと思いながら、女としての優越感を味わっている。



勇太は今後も謙虚さを失うことはない。


理由は前世、モブ顔、自分のクラス。プラスしてパラレル勇太と弱気要素が満載。


勇太は前世で目立っていなかった。そしてモテなかった。


花木ルナに好かれたことが、人生の大ヒットだと思っている。


顔にも別に自信はない。


リーフカフェでは、お客さんにちやほやされる。


それは女神の力もあり、前世でもモテるレベルになってるから。


しかしモブ顔の勇太自身は、職場にひとりでも男子が入ってくれば、勝てないと思っている。


希少な男子なのに、クラスでシカトされていた記憶も色濃い。


プラスして、同じ2年3組には学校の王子様がいる。


伊集院光輝。


身長183センチ、スラッとしていてフィンランド人とのクオーター。


前世の伊集院君は名前だけ名門だった。今回のパラレル伊集院君は、大名家の血筋で本物のサラブレッド。


親が決めた婚約者だけで4人。学校では、自分が見初めて婚約した女子生徒が3人。


4人目も決めてあるとの噂。高校で見初めた女性は、3人とも顔ではなく人格で選んだ。


この学校の女子生徒からしたら夢のような存在だ。


ルナも話したことがある。『勇太君の次に優しかった』と言われ、勇太は赤面した。


馬鹿すぎたパラレル勇太でさえも無碍に扱っていない。


器が大きすぎる。


そんなパラレル伊集院君を、パラレル勇太はライバル視していた。


その記憶を引き出したとき、勇太は気絶しそうだった。



伊集院君には、全国で10万人のファンクラブ会員がいる。


梓しか味方がいなかったパラレル勇太が、何をもってしてライバル視したのだろうか。


伊集院君は週2登校をしており、水曜日と金曜日。


明後日はパラレル伊集院と話そうと思ったら、フィンランドに行っていた。


早くても6月にならないと帰って来ない。


前世で意外と仲良しだった伊集院君と話してみたかったから、残念である。



勇太は数人のパラレル人物に会って、決して女子に強気に出ないと心に決めた。


まだ数人だけど、パラレル人物はみな、勇太の前世で会った人と人格が似ている。


と、いうことは、恐ろしい事実が浮かび上がる。


金に汚く、人に謝れない根暗のパラレル勇太も、また勇太。


つまり自分自身が、その嫌われ者要素を持っていると思うと、背筋が冷たくなった。


「謙虚に生きよう」


強く誓った。


昼休み。


昼のチャイムと同時に教室を出た。異物の自分が和を乱してはいけないと思った。


目指すは屋上だ。


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