第23話 ユータ、大好きよ……
図書室で小泉さんのブラジャーを覗いてから二日後のことだった。
お昼を食べてから自宅で勉強をしていると、滅多なことで鳴らない呼び鈴が聞こえた。
「はーい……」
階段を下りて玄関へと向かうと、そこには見慣れた顔が手を振って待ち構えていた。
肋骨からへその中間あたりまである少しだけボサボサした感じの長い髪の毛。
高橋さんと比べると控えめだけど、十分なボリュームのある胸。
量販店で買ってきたジャケットとTシャツ、短パンが決まっていて、短パンからはチアで鍛え上げた太ももが眩しく見える。
靴は僕が愛用しているものと同じブランドのスニーカーで、背中にはスポーティーなリュックを背負っている。
「こんにちは、ユータ」
「こ、こんにちは……。ひょっとして、勉強しに来たのか?」
「
「僕の顔を? どうしてまた……」
「細かいことは気にしないで。それじゃあ、上がらせてもらうわね。……お邪魔しまーす」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
僕が制止する間もなく、小泉さんは靴を脱いでからスリッパに履き替えてバタバタと二階に上がっていった。それにしても、小泉さんに僕の家がある場所は全く伝えていなかったのに、どうして一発で突き止めたのだろうか。そのことを疑問に思いながら部屋に戻ると、小泉さんはベッドの脇にリュックを置いてはベッドの下を漁っていた。
「小泉さん、一体何をしているの?」
「ちょっとね。男の子の部屋となれば、当然アレがあるのかなぁ~と思ってね……」
ベッドの中をのぞき込んでいる小泉さんは傍から見ればお尻の部分を丸出しにしていて、まさに襲ってくれと言わんばかりだ。
「ん~……、どこにも無いわね……」
小泉さんは残念そうにそう語る。それもそのはず、アダルトな本を持っていたら柚希に取り上げられるのが常だからだ。そのせいもあって、年齢的にアウトなアダルトものはネットの海の中にあるサンプル頼みだ。もちろん、学校指定のパソコンには保存していない。仮に保存するにしても、学校指定のパソコンとは別に買ってもらったノートパソコンの中だ。
それよりも、まずは勉強することが先だ。テストまで一週間を切っている現状では、一分一秒でも惜しいほどだ。
僕はお尻を丸出しにしている小泉さんをなだめにかかる。
「小泉さん、そんなことより大人しく勉強しようよ。今日はそのために来たんじゃなかったの?」
「そ、そうだったわね……。それじゃあ、早速勉強を始めましょうか」
小泉さんは一瞬だけ顔を赤らめながらそう答えると、ベッドの下から顔を出してカバンから勉強道具を取り出した。
僕も机からノートと教科書、それと学校指定のパソコンを持ってきて、テーブルの上に広げる。
「現代国語だっけ? 小泉さんが苦労しているのって」
「そうね。一昨日も話したけど、授業になかなかついていけなくてね」
「佐々木先生だから仕方ない気もするけどね」
僕は笑いながらそう話し、教科書とノートを開く。
それにしても、小泉さんがどうして僕の家に来たのだろうか。
「ところで、小泉さんにちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
「いいけど、手短にお願いするわ。……どうしてもここの問題が分からないのよね……」
小泉さんに尋ねようとすると、苦手な現代国語を前にして苦戦をしていた。夏期講習で佐々木先生から論理力と要素抜き出し力、解答作成力が重要だと教えてもらったから、今こそ佐々木先生のアドバイスを活かす時だ。
「小泉さんって、夏期講習には出ていない?」
「出てたわよ。それが何か?」
「佐々木先生の講義の時はどうしていたの?」
「お昼の直後だったから寝ていたわ」
夏期講習はコミュニケーションと表現から始まって数学、お昼休憩を挟んで現代国語と言語文化の講義が行われていた。特に現代国語はお昼休みが終わったばかりだったせいもあって、寝息を立てていた生徒も多かった。もちろん、隣に座っていた小泉さんもその一人だった。
ちなみに、柚希は講習の期間はアルバイトをしていたらしく、部活にもあまり顔を出さなかった。うちの学校では夏休み中のアルバイトは原則として認められないのに、一体どういう抜け穴を見つけたのだろうか。
それはともかくとして、僕は佐々木先生から教わった現代国語の解答作成術をそのまま教えることにした。
「佐々木先生、その時に論理力と要素を抜き出す力、解答を作成する力があれば出来るって話していたよ」
「本当? 嘘じゃないでしょうね」
「本当だよ。夏休み明けの実力テストでも先生のアドバイスが上手く作用して、苦手だった現国で良い点数を取れたんだから。僕も手伝うよ」
そう話すと、僕は教科書を開いて今度の定期テストで出題される可能性の高い箇所を開く。今回は評論などが多めだから、文章に書かれているのを読み解くのがポイントとなりそうだ。
「ありがとう、ユータ。こういう時は頼りになるわね」
「それほどでもないよ……」
小泉さんが笑顔を見せると、僕はいつものようにすまし顔で答えた。それからすぐにまた勉強に取り掛かろうとしたが、途端に眠気が襲ってきた。
「大丈夫、ユータ?」
「ちょっとここ最近寝不足でね……」
「一体何時間くらい寝ているの?」
「五〜六時間かな。少しだけ寝てから続きを……」
「う~ん……」
小泉さんは腕を組みながら考える。すると、小泉さんは自分の太ももを軽くポン、ポンと叩く。
「ほら、少し休みなさい。アンタね、無茶しすぎよ」
「ありがとう、小泉さん。恩に着るよ」
「どういたしまして。ただし、変なことはしないでよ。嫁入り前の乙女なんだから」
「分かっているよ」
僕は小泉さんの好意に甘えて、彼女のすぐ傍に近づいた。そのまま彼女の太ももの上に頭を乗せると、そのまま目を閉じた。
小泉さんの太ももはチアをやっているせいもあってか筋肉質だけど、ちょっとだけ柔らかくて心地が良い。
目を閉じていると、ふと僕はジャングルジムがあった公園で一人泣いていた女の子のことを思い出していた。あの泣いていた女の子は、一体誰だったんだろう。僕がそう考えていると、どこからともなく心地よい声が聞こえてきた。
「ユータ……、大好きよ。あの日から、ずっと……」
だけど、その声の主は一体誰なのか、それは分からずじまいだった。
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