第11話:今、私のご主人様を殺すとおっしゃいましたか?
王都の外に出ると、外は浅い雪で積もっていた。
ほとんどの冒険者は、滑らないように靴底にゴムを付けている。
だが俺とレナセ―ルは、お手製のスパイクを履いていた。
「これ、凄いですね。全然滑らないです。ベルク様がお考えになったのですか?」
「違うよ。作ったのは俺だがな。それより靴のサイズは大丈夫か?」
「はい! 紐でしっかりと縛っていただいたので大丈夫です」
「今日の夜にピッタリ合うものを作ってやる。それまで我慢してくれ」
「……えへへ」
ぎゅっと服の袖を掴むレナセール。
息を吐くと白い煙が籠れ出る。
王都は人で溢れているので、雪は朝には溶けてなくなるが、外は違う。
薬草は北へ二十分ほど歩いた森の中にある。
何度か来たこともあるが、それは気候の良い時だけだ。
何があってもいいように、できるだけ視界が広い場所だけにしておこう。
森の浅瀬に足を踏み入れると、しゃがみ込んで薬草を探す。
「薬草の見極め方はわかるか?」
「形、色、匂いでしょうか?」
「それと魔力だな。ほんの少しだが気にしていればわかる。コツを掴めば、俺よりもレナセールのが感知できるだろう」
「わかりました。やってみます」
家にあった数枚の薬草をレナセールに見せた後、離れないように気を付けながら、手分けして探す。
雪がある分見えづらいが、おかげで手つかずだろう。
「レナセール、葉が欠けていたり半分程度のやつは、別で獲っていてくれ。別の用途で使う」
「わかりました」
薬草獲りは簡単な仕事だと思われているが、実に根気のいる作業だ。
この間にも後ろから襲われる可能性がある。
ゴブリンや魔物狼が突然に走ってくることを考えると危険極まりない体勢。
二人で背中を向けながら安全に薬草を獲っていく。
レナセールは、何度も魔力探知をしているのか、立ち上がると目をつぶっていた。
魔物がいないか調べてくれているんだろう。
魔法について詳しく聞いてなかったが、今後こう言ったことがあるのなら情報共有は必須だろう。
二時間ほどで目標数に達し、腰がバキバキになったところで今日は終わりにすることにした。
綺麗な薬草80枚と実験用として使うのが20枚。
上出来すぎる。
「ありがとうレナセール、おかげで助かったよ」
「えへへ、お役に立てて嬉しいです」
頭を撫でてその場を後にしようとすると、後ろから、がははと声が聞こえてきた。
「でよお、ん? こんなとこで何してんだお前ら?」
酒場にいた冒険者、三人組だ。
茶色い布の厚着、背中には大きな鉈を背負っている。
何度か見かけたことはあるがいつもバカ騒ぎしている。
アルコールを飲んでから狩場に向かってるのか。
「薬草を獲ってたんです。それと、この辺りに魔物はいませんでした」
冒険者同士は情報を共有するのが習わしだ。
俺もそれに乗っ取って丁寧に伝えたのだが、馬鹿笑いされてしまう。
「聞いたか今の? お前らと違ってこんな浅瀬でビビったりしねえよ」
「舐められたもんだな。よくみると回復薬を卸してる奴だろ? チマチマと大変だなぁオイ」
「クックック、お前らやめとけよ。薬草獲りを終えてやっと一息ついたところだぜ」
俺が冒険者が嫌いになった理由は、こういった輩が多いからだ。
暴力が強さに直結し、それが尊敬される世界において傲慢は強いのだろう。
もちろん全員がそうだとは思ってないが。
俺はレナセールの手を引き、その場を後にしようとした。
奴らも茶化すのが目的でそれ以上は求めていないはず。
「奴隷と一緒にイチャイチャ薬草獲りか、いいねえ頭のいい奴は楽で」
「帰ったら肌を温め合うんだろうなあー、その前に一発どうだい嬢ちゃん?」
自分のことはいい。レナセールをバカにしているのが腹が立つ。
おそらくそれが目に出ていたのだろう。
「なんだぁオイ? 文句でもあるのか?」
「クックック、ここは王都の外だぜ。わかってねえみたいだな薬野郎」
「――こいつ殺して、嬢ちゃんもらうか」
脅しか本気かはわからない。
その時、レナセールが前に出た。
「……今、私のご主人様を殺すとおっしゃいましたか」
今まで見たことのない冷徹な表情をしていた。
おそろしく……冷たい目だ。
「あァ? なんだてめェ?」
「嬢ちゃん、奴隷でも殺されるんだぜ?」
「おいおいしつけがなってねえな。やっぱり主人がクソ――は? ぎゃああああああああああああああ」
男が背中の鉈に手をまわそうとした瞬間、俺はとんでもないものをみた。
レナセールが、腰に携えていた短剣で、男の指を瞬時に切り落としたのだ。
現実世界の戦いは一瞬だ。特に対人戦は、戦意を無くした瞬間に決すると言われている。
血しぶきが舞い、デカい男が膝をついた。
レナセールは冷静に、淡々とナイフの切っ先を男に向けた。
「変な動きをしたら、問答無用で殺します」
――――――――――――――――――――――
あとがき。
つよレナセール。
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