第40話 レジェンド級冒険者ゾラス

今日もいつものように、家庭菜園の域を超え始めた、我が自慢の畑と愛くるしい家畜たちの世話に精を出していると、珍しい客が来た。


現存する唯一のレジェンド級の冒険者であり先代魔王の相談役、現在はダークヘルムの冒険者ギルドマスターを務める魔族、ゾラスその男である。


「それでゾラスさん今日は何しにこちらへ?」


「はい、今日は魔王様にご相談したいことがあってお邪魔させていただきました~。」


ゾラスはエレナさんが用意してくれた冷たいお茶を飲みながら、いつものように軽い口調で話し始める。


「実はここ何か月か、ずっとアルスとセニアから魔王様をどうすれば働かせられるか、という相談を受けていたんです~。」


ほほぉ…あいつらは俺の敵だったか…

ムカつくから全部の奥歯に1日で治る虫歯魔法を掛けておく。ピロリーン

これであの2人は今日一日ずっと嫌な気持ちで過ごすことになるだろう。


「で、その中で魔王様の考える組織の在り方をお聞きして、何て素晴らしい考え方だろうと、非常に強い感銘を受けました~。規模は違えど、私も冒険者ギルドという組織を預かる身…魔王様の心情を私なりに考え、2人に本当の意味での自立を促した次第です~。」


ゾラスさん、どうやら俺は貴方の事を誤解していた様です。

どちらかといったらアルスとセニアに近い、危ない要注意魔族として認識していました。


「それで、私もすぐにサブマスターを呼んでマスターを辞めて来ました~」


「エレナさん、お客さんが帰られます。ダークヘルムまで送れますか?」


何を馬鹿なことをいっているんだこの馬鹿は…アルスとセニアより酷いぞ?

ギルドマスターの辞めた理由を俺のせいにされてもただただ迷惑なので、ぐるぐるに縛り上げギルドに送り返そう。


「ち、違うんです~、結局辞められなかったんです~。だけど、サブマスターもお疲れでしょう、と憐れんだ目を私に向けてきて、責任さえ取ってくれればずっと休んでて良いと言ってくれたんです~。優しい部下を持って私は幸せです~。」


分かり易くスケープゴートにされているじゃないですか…。

少しだけゾラスに優しくしてあげよう。





「で、今日突然お邪魔させていただいた用件なんですが、実は折り入って魔王様に相談がございまして…」


ソファに座りなおして真面目な表情でゾラスが話し出す。

普段適当な癖に不意に真剣に語り出すのがゾラスのズルいところだと思う。

流石先代魔王の相談役といったところか。


「元々ギルドマスターを辞めて冒険者に復帰しようと考えていたんです~。復帰して先代魔王様と果たせなかったクエストの達成を目指すつもりだったんです~」


唯一のレジェンドクラスの冒険者が電撃復帰とか胸熱すぎる展開じゃないか。しかも先代魔王と果たせなかったクエストを達成する為とか。


「ですが、辞めることは出来なくないうえ、幾ら長期的に休んで構わないと許可が出ているとはいっても、流石に休める限界はあります~」


まぁそりゃそうだわな。

こんなんでもギルドマスターだし報告だー決裁だーで色々やらなくてはならないことも沢山あるのだろう。


「で、問題のクエストですが、以前合同演習に参加するタイミングで簡単に説明したSSSランクのクエスト、『深淵の迷宮の踏破』なんです~」


確か魔族の1万年以上続く歴史の中で、まだ誰にも踏破されていない難攻不落の迷宮だ。

まだ踏破されていないので、当然どれだけ続くのかの全貌も解明されていない。


「冒険者時代に先代魔王様と2人で初めて潜った時は地下200階まで進むのに丸々1年掛かりました~。広さはフロアごとに様々ですが、広いフロアはブブラッドレイブン程の広さがありました~」


潜るタイプの迷宮か。

ブラッドレイブンと同等の広さとか無理ゲーだろ…


「ちなみに、ダンジョンの中は、階段の場所とかは毎回一緒ですか?


「あーそれは大丈夫です~。ジュエル様と私が進んだ200階までの地図は迷宮入口で販売もされています~。」


さすがにそれはそうか、1フロアが1国と同等の広さで更にローグライクダンジョンとかヘルモード過ぎるもんな。


「で、本題なんですが、魔王様深淵の迷宮に一緒に行ってくれません?」


「………」


ってなるよね。

実は正直行ってみたい気持ちはある、レイラの時(魔炎龍討伐)は冒険というよりも進行上必要なイベントって感じだったし。


ただ半年は長すぎるんだよなー。

アルスとセニアはともかく、四天王達に任せている改革を半年も放置するのはさすがにリスクが大きい。

間違っている状態で放置してしまったら取り返しがつかなくなるかもしれない。


「魔王様、もし迷っていらっしゃるのであれば、私とレイラもご一緒しましょうか?成体の上位龍である私が本気で飛べばブラッドレイブンの端から端まで半日程度で移動できますよ。」


「それは素晴らしいですレイラさん!!そのスピードであれば200階まで2週間程度でいけるかもしれません!!」


興奮したゾラスは思わず普段のふざけた話し方がなくなる。


「ちなみにゾラスさん、踏破した場合の報酬は…?」


ちなみに言っておくが金や金で何とかなる、国やギルドからの報酬に興味はない。


俺が確認しているのはゲームでいう初回報酬など、初踏破者限定のご褒美的なものだ。


「最深部で手に入るといわれている『古の魔神の心臓』ですが、どんな願いも必ず一つだけ叶う、と言われています。」


「それを俺に信じろと?」


「先代魔王様が、『予言の子』にとってそれは非常に重要だ、と言っていました~。」


何故先にそれを言わないんだゾラス君。

実はここ最近わかった事があって、俺の歴史や概念すら書き換える『万物の理』だが、まだ理由は不明だが決して万能ではなかった。


この世の理にまで関与しそうな神を冒涜するようなスキルの為、基本使用しないよう心がけていたが、人間との休戦を目的に、人間と魔族の憎しみ合う歴史自体を無かったことにしてしまおうと試みたがそれは叶わなかった。


理由を教えて貰おうと、何度も魔神を呼び掛けているのだが一向に音沙汰がない。きっと言えない何かがあるのだろう。


そんな俺に対して、先代魔王のお墨付きの『どんな願いも必ず一つだけ叶う』なんて、断れるわけはないだろう。


「俺の負けですゾラスさん、それ最初から交渉するつもりないじゃないですか…」


悪戯がばれた子供の様な表情を浮かべるゾラスを俺は苦笑しながら睨む。


「ただ半年は流石に長い、3か月で蹴りを付けましょう。そこで終わらせられなかったら諦めて次回再挑戦。それで良ければ是非手伝わせてください。」


「勿論です魔王様。宜しくお願いします~。」


そうして俺たち二人はがっしりと固い握手を交わした。

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