第22話 先代魔王の忘れ形見

最後に魔王と会ってから3年後、少しずつ身体に不調を感じるようになり、そろそろ『力の発散』が必要な時期だと思い出す。


すぐに2~3日程度寝泊まり出来る身支度を整え、魔王が事前に用意してくれている、エレナの自宅と魔王城の魔王の私室を繋げる転移の魔法陣に乗る。


「………………あれ?おかしいな??」シーン


いつもだったら魔法陣にのると、すぐに青白く輝き始め瞬時に転移するが、今回は何の反応もない。


エレナの胸を嫌な予感がよぎる。


魔法陣が反応しない理由は限られる。

転移先の魔法陣が破損する等、魔法陣自体に問題が起きた時。

もしくは術者である魔王が転移を拒否した時。あと1つは、術者の身になにか起きた時、簡潔にいえば術者が死んだ時の3通りだ。


最後の魔王との戦いは3年前、戦いの後、2人でエレナの家に戻って一緒に水浴びなどをして楽しく過ごした。

特に喧嘩別れした訳でもないので魔王が自分を拒否しているとは考えにくい。


当然命に関わる問題も考えたくはないが、仮に魔法陣に問題が起きていたとしても、転移先は魔王城の魔王の私室である。それはそれで大事件だ。


エレナにとって唯一の龍以外での知り合い。

500年以上の戦いを通して育んだ友情は、最早2人は互いに親友といえる間柄である。


(お願い魔王ちゃん、無事でいて…)


自身の体調など忘れ、ただただ魔王の安否だけが気になりエレナは魔王城を目指した。



1か月後、魔王城前-



「…………取りあえず良かった」ハァハァハァ


魔王城に到着したエレナは依然と変わりない魔王城の姿にまずは一安心。

あとは魔王の安否を確認するだけ、たったそれだけである。


(もし怒っていたら早く仲直りしないとな。あ、そろそろ『力の発散』もお願いしないとまずいかも…)


魔王城までの道中色々考えた結果、あんな常識外れの強さを持つ魔王が死ぬ訳がない、という結論に至った。


龍化した自分と対等以上に戦える存在など、まともな存在であるはずがない。


城門の脇に立つ兵士に声を掛ける。


「す、すみません……」


門番は無言のまま視線をエレナに向ける。


「ま、魔王様にお会いしたいのですが…」


正規のルートで入城したことがないので勝手がわからない。

恐る恐る門番に用件を伝える。


「……無理だ。」


一瞬驚いた表情を浮かべた門番が簡潔に答える。


「お、お願いです!!昔からの知り合いなんです!!」


「………無理だ。」


エレナは必死に訴えかけるが門番は無情にも同じ回答を繰り返すだけ。


「わ、私はエレナと言います!!お願いですから私の名前だけでもお伝えいただけませんか?それでダメなら諦めます!!」


尚も必死に食い下がるエレナに対し苦渋の表情を浮かべる門番。


「…んでいる……………。…魔王様は3年前に死んでいる!!!」


「え???」


思わず間の抜けた声を出すエレナ、門番の言葉が理解できない。


魔王様が死んでいる

ま王さまがしんでいる

マオウサマガシンデイル

mあおう様がsいんでいる

マオウサマガシンデイル


「嘘よ……あの魔王ちゃんが死ぬわけない!!嘘つき!!」


何の罪もない門番に罵声を浴びせるエレナ、もう門番は表情を崩さず淡々と対応する。


「もう魔王様はいない。よってお前の願いは聞き入れられない。帰れ。」


「この嘘つき!!」


「帰れ…」


---


そこからの道のりは覚えていない。


他の魔族にぶつかって怒鳴られたり、モンスターに襲われたり、雨に打たれたり、、、気付いたら自宅に戻ってベッドに倒れ込んでいた。


死んだように眠り、時折目を覚ましては魔王の死を受け入れられず泣き喚く。疲れてまた眠り自然と目を覚ます。


そんな生活を3か月も続けると、ようやく少しずつではあるが落ち着きを取り戻し始める。


(こんな事をしてても魔王ちゃんは戻らないしむしろ幻滅される。)

「いい加減立ち直らないと魔王ちゃんに笑われるわ…」


心の声を実際に出し、自分自身に発破を掛ける。

しかし、自分を取り戻すと忘れていた現実を思い出す。


(身体がだるい…これは狂龍病の発症前のサイン。どうしよう、このままだとまた暴れちゃう…)


元々エレナは冒険者から襲われることを嫌がり基本龍化は避けており、限界を迎えるギリギリまで我慢し、人里離れたところで狂龍病を発症。

その後好きなだけ暴れる、という周囲からしたら迷惑なサイクルで動いていた。


そんな暴れまわっている狂龍化状態のエレナを見かけた通りすがりの魔王はその後、魔法陣でエレナの自宅と魔王の私室を繋ぎ、エレナの発散に付き合ってくれていたのだった。



---

--


「いやーエレナ、最後の尻尾は反則だよー。」ハァハァハァ


「あれは魔王ちゃんがよく使う『あびせ蹴り』を尻尾で応用してみました!」ハァハァハァ


「これで49勝49敗だー。今度こそ差を付けられると思ったのになぁw」


「50勝目は私がいただくよ魔王ちゃん!!」


魔王城の中庭で、いつものように好き勝手暴れまわり疲れ果て寝転ぶ先代魔王とエレナ。

魔王が改まって話し出す。


「あー、あのーエレナさー…んーあのー」


「どうしたの魔王ちゃん?そんな言いにくそうに。」


いつもの適当な感じだけど物事をハッキリさせる魔王からは想像出来ないような、奥歯にものが詰まった様な会話に違和感を感じる。


「あのー最近また人間の方に勇者が誕生したみたいでねー、ん-あー」


「それで?」


勇者が誕生するサイクルは決まっていないが、遅かれ早かれ生れて来るのは最早世の常である。今更言い淀むことではない。


「今回の勇者はねー、相当強そうなんだよ。」


「へぇー魔王ちゃんがそんなこと言うの初めてかもしれないね!」


実際今まで何人もの勇者を余裕で返り討ちにしてきた魔王。

そんな魔王がこんなことを言うのは初めての事だった。


「で、もしも、仮にの話ね?例え話だからね??」


「もー魔王ちゃんらしくないよ?はっきり言ってよ!!」


エレナの話にようやく魔王が覚悟を決める。


「もし、私に万が一の事があったらの話なんだけど、そうなるとエレナの『力の発散』がまた困ることになるでしょ?」


「なんだ、そんなことか。魔王ちゃんに何か起こるなんてある訳ないでしょうよ。」


「エレナ、お願いだから真剣に聞いて。私の親友。」


魔王の真剣な表情にエレナの背筋が伸びる。

真剣な表情を取り戻し聞く準備を整える。


「ごめんなさい茶化して。話を続けて。」


「もし、私が『力の発散』に付き合って上げられなくなったら、あそこで立って見学してるあの子たちを頼って欲しいの。」


魔王の目線の先には筋骨隆々の若い男性魔族と、しなやかで健康的な肉体の若い女性魔族が立っていた。


「アルスとセニアって言うの。私がいなくなってもあの子たちがいれば大丈夫。魔族の未来よ。」


「魔族…の未来……」


---

--


「「…あ」」


エレナの話を聞きながら真っ青な顔色になっているアルスとセニア。


よくわからんがまたお前らか……

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