第6話 四天王ガイア
「わかりました。視察はもういいので、後はガイアさんに挨拶だけして次の都市を目指しましょう。」
グリムウッドを治める地の魔族ガイアは、学園の学園長も兼務しているらしい。
アルスとセニアの案内で早速学園長室へ向かう。
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「失礼します」コンコン
「入るが良い。」
部屋の奥から渋い中年男性の声が我々を招き入れる。
中に入るとあり得ない程の筋肉を身にまとった逞しい中年男性がダンベルっぽい何かで筋トレしてる。
いや、うん、うわぁ…身体の大きさで錯覚したけど、あれダンベルじゃなくてバーベルだな。
やべえ奴だ。
「……初めまして。私は……」
「うむ、話はアクアスから聞いている。私がグリムウッドを治める地の魔族、四天王が一角、ガイアだ。」
「ガイア。わかっているのなら魔王様に向かってその対応はどういうつもりかしら?」
「お主たちこそ本気か?こんな小童に魔族の運命を託すつもりなのか?」
「き、貴様!?」
「一般の魔族らは気付いておらずお主らの事を嘲笑しているが…真に魔族の繁栄を考える主ら二人のこと、我ら四天王は心から尊敬しておる。」
「「…………」」
いつもの2人なら褒められてデレデレしそうなもんだが流石に空気を読んで黙っている。
「魔族にとって何より大切なトレーニングの時間を削り、どんなに馬鹿にされても魔族の為に研究を続けるその姿…我らには決して真似できない強さの形の一つなのだろう」
なるほどね。
アルスとセニアが他の魔族と比べてポチャとガリなのは2人が魔族の為献身的に動いているからなのだろう。
この2人はふざけなければ物凄い優秀なのかもしれない。
「繰り返すが、そんなお主らが本気でその小童に魔族の運命を託すつもりなのか?」
「「…………」」
今までのこの2人なら、即座に肯定しそうなものだが中々答えない。
種族の命運を自分たちだけの考えで判断しないことに益々好感が持てる。
普段から黙っていればいいのにな…。
「どうした?さっさと答えよ。」
「お話中すみません。」
真剣な空気に耐えきれない小市民な俺。
思わず話に割り込む。
取りあえず空気が悪いので話を逸らそう。
「ガイアさん、ホエイプロテインを知っていますか?」
「っんな!!??なぜ伝説のプロテインの名を知っている小童が!!??」
ぅおっ、すんげぇ喰いついて来たわ。
それまでの落ち着いた口調が一転、一瞬で崩れる。
アルスとセニアは全く話についてこれていない。
「グリムウッドを視察させて頂きましたが、見ているとおそらく皆さんが飲んでいるプロテインはソイプロテインが主流ではないでしょうか?」
「主流………というよりそれしかないのが現実だ。」
「私はホエイプロテインを全魔族に普及させることが出来る。」
「…そんなことできる訳がない!!!」
「………と言ったら?」
「………」
「…………」
「……自信があるのか…?」
「…はい」
「…………。ふっふっふ、アクアスの言う通りだ…。我らの上に立つべき魔王様かどうかはわからんが………確かに普通の小童ではないようだ。して小さき魔王よ、何を望む?」
アクアスさん俺の事なんて伝えたんだろう。
「私は魔族を救いたい。そして人間との争いを終わらせたい。」
「その戯言を私に信じろと?」
「アクアスさんにもお願いしましたが1年間私に時間を下さい。1年後必ずガイアさんを納得させてみせます。」
「「………」」
「……わかった。1年待とう。」
「ありがとうございます。」
「だが、もし1年後私が納得できなかったらどう落とし前を付ける?」
「……その時は私の首を差し上げます」スッ
俺は手刀を作り自分の首に手を当て滑らせる。
「「「……」」」ゴクリッ
俺以外3人の唾を飲み込む音が聞こえる。
ホエイプロテインを用意するだけでどうにかなりそうな気がするから失敗する要素はない。
「…………」ニコリッ
「ふっはっは!気に入ったぞ小童!!そこまで言うのならやってみろ!」
「はい!お任せください」
「その時は今日の無礼を自らの命を持って償いなさい。」ギリギリギリ゙
場の緊張が和らぎアルスがいつもの調子を取り戻す。
「アルスさんは二度と口を開かないで下さい」
「はっはっはっ、まぁ良いではないか。小さき魔王様、期待して待っておるからな!」
「はい、楽しみにしていて下さい」
そうして俺たちは学園長室を後にした。
「しかし魔王様流石です。私はガイアの交渉が一番難航すると思っていました。」
しばらく歩いているとアルスが話し出す。
「そうなんですか?」
「はい、あれ(ガイア)は見た目の通りあり得ない程の頑固者で、素直に相手の言うことを聞くなど、長い付き合いですが見たことも聞いたこともありません」
「まぁ俺も正直あんな上手くいくなんて思っていませんでしたけどね」
適当に話を逸らしてお茶を濁してさっさと帰ろうと考えていたくらいだしな。
まさかホエイプロテインにあんな反応するとは。
「ところで魔王様、ガイアがあれ程驚愕していたほえい?プロテインというのはいったいどのような……」
「ああ、ホエイプロテインというのは簡単に言うと吸収が早いプロテインなんです。皆さんが今飲んでいるプロテインはソイプロテインと言って、ゆっくり体に吸収されていきます」
「「???」」
「トレーニング前に飲むと、より効果の高いプロテイン程度の認識で結構です」
「す、すす凄いですよねほえいぷろていん」
絶対わかってないだろこいつら。
「ところでアルスさんもセニアさんもトレーニングが嫌いな訳ではないんですよね?」
「当然です!!」
返事をするアルスの横でセニアも凄い勢いで首を縦に振っている。
「そ、そうですよね」
思わず2人の勢いに押された。
そうだよな。プロテインの話とかトレーニング施設とか見ている2人の表情から考えれば嫌いな訳がない。
何より魔族にとってトレーニングは生活の一部になっているのはここ数字しか知らない俺でも容易に想像がつく。
「言い訳にはなってしまいますが、我々魔族は言い伝えで聞いている人間と比べると何事においても自分中心で考えている節があります。」
それはなんとなくわかる気がする。
日本にいる時、筋トレばっかりしている人間はナルシストが多い、と聞いた事がある。
もちろんトレーニー全員がそういう訳ではないが、完全に否定も出来ない。
アルスは続ける。
「ですが、全員が自分中心で生きていればいずれ魔族は滅びます。私たちも最初からそれに気付けていた訳ではありませんが、先代の魔王様にそれをご教示いただいてからは私とアルス2人で出来る限り、魔族全体の発展を考えて来ました。」
どうしようこの2人。抱きしめたい。
何事も自分を犠牲にしてでも周囲の手助けをするなんて、誰にでもできることじゃない。
さっきのガイアの話だと四天王以外の魔族からは馬鹿にされているらしい。
それにも関わらず腐らず魔族全体を考える。
普段の馬鹿な二人からは想像できないくらい、本当のところは優秀なんだろう。
「私もセニアも、先代の魔王様が愛した魔族たちを幸せにしたいんです。トレーニング出来ずに筋肥大させられない私たちが馬鹿にされるくらい全然なんてことありません。」
こいつら泣かせるじゃねーか!!!
「俺がアルスさんとセニアさんの想いを実現させます。馬鹿にしている奴らを見返してやりましょうよ!!」
青春ドラマのワンシーンみたいになっているけどそんなん知った事か。
俺はこのちょっと馬鹿だけど魔族全体を想う優秀な2人をなんとか助けてやる。
「魔王様にそんなお言葉をいただけるなんて…私は、もう今死んでも構いません!」
「我が生涯に一片の悔い無し。」
やべぇ…2人とも感極まって死のうとしてる。
片方はどっかの覇王みたいなこと言ってるし。
こいつら甘やかすと調子に乗りそうだから、やっぱり2人には気付かれないようにサポートしよう。
そうして俺は膝に縋りつく2人の顔を足蹴にするのだった。
忘れてるかもしれないけど俺の姿幼児だからね。
事案です。
---
そして俺は魔族を舐めていた。
俺のこの日ガイアにした適当なプロテインの話が、後に筋肉大革命と呼ばれ魔族の歴史に刻まれるのはまた別のお話し。
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