第4話 四天王アクアス
そんなこんな騒いでいたら奥から新キャラが現れた。
「なんですか騒々しい。常日頃から冷静に暴れろとあれほ……ど?」
キレて暴れられるより冷静に暴れられる方が怖いです。
奥から現れたのは、眼鏡をかけた黒髪の女性。整った顔立ちをしており、いかにも知的な印象を受ける。白衣を着ていることから研究者の類なのだろうか?
「あなた方は……?ここは医学を発展させる為の魔族にとって非常に重要な施設です。関係者以外立ち入り禁止ですよ?」
「私よアクアス!久しぶりね!!」
「………あぁ。もしかしてアルスとセニアですか?正座なんかしてどうしたんですか?」
白衣を着ていてもわかる鍛えられている肉体。童貞だから詳しくは分からないけどきっと素晴らしいプロポーションなんだろう。
魔族全体に共通していえることだが美男美女が多い上に非常に鍛えられた肉体を持っている…正座している2人以外ね。
「これはあれよほら、魔王様の偉大さに触れさせていただいたのよ。」アセアセ
「我々如きが立っていては魔王様に申し訳なかろうとな……はっはっは」アセアセ
「あぁ、久しぶり過ぎて忘れてました。相変わらずバ、相変わらずバカですねあなた達は。」
言い直したのに結局馬鹿って言った。
どうやらこの2人は昔からこんな感じらしい。
本当に知略に長けているのか本気で疑わしくなってきた。
「そちらの方は?」
「「魔王様です」」
「……え?この赤ん坊が……ですか……?」
「……今すぐ死になさいアクアス。そうしましょう。」ゴゴゴゴゴ
「アルスさん、そういうのいらないですって。佐藤です。一応魔王らしいです。アクアスさん初めまして。」
アルスとセニアに任せていると話が一向に進まないので介入する。
黙って成り行きに身を任せようと思っていたがどうやら無理らしい。
「えぇ…はぁ……魔王様…ですか?初めまして、私はアクアスと言います。四天王の一人としてこの都市の統治をしております。小さいのにしっかり挨拶出来て偉いですね。」ヨシヨシ
「よ、よろしくお願いします」
突然美女に頭を撫でられて照れる俺。
……赤ん坊の姿で普通にしゃべってみたが意外とさらっと受け入れられたな。
恐らく赤ん坊としてだけど。
「立ち話もなんですし、こちらにどうぞ。ちょうど今から昼食にしようと思っていたんです」ニコリ
「ありがとうございます……」
アルスとセニアより全然まともそうだぞ……2人より全然知的じゃないか。
---
アクアスに案内された場所は、神殿の一室。
アクアスの私室らしいが何かの資料や本が沢山あり、前世では見たことのないような道具なども沢山ある。
本棚の横にベンチプレスがあるのは気にしない事にする。
そして中央にある丸いテーブルを囲み、全員がそれぞれ向かい合うようにして座る。
「して、その魔王様とやらはなぜこちらに?」ニコリ
侮蔑の表情を隠そうとしないアクアスに俺の両脇の2人が切れる。
「あ、貴方まだ…!!」
アルスは声を荒げ、セニアも席を立つ。
今にも殴り掛からん勢いだ。
「2人とも落ち着いてください!!」
「し、しかし…」
「俺は全然気にしていませんので。」
別に俺は敬って欲しい訳でもないしちやほやされたい訳でもない。
そもそも魔神の人違いがなければこんな状態にもなっていない訳で。
魔神やはちべえ、アルスやセニアには悪いけど、別に俺は魔王になりたくてなった訳ではないので当然ずっと魔族を率いるつもりなどない。
やることやってハーレムでウハウハするんだ俺は。
そもそも一般ピーポーの俺は気を遣われる方が気を遣う。
なのでアクアスくらい雑な対応の方がやりやすい。
「俺の目的は2つあります。1つは他でもない、魔族を救う為に出来る限り魔族の事を知りたい。その為の視察です。」
2人を黙らせて俺はアクアスに話し掛ける。
こっちは建前だが次の目的の為にも外すことはできないので嘘でもない。
「そして2つ目は、(俺の末永い平和な生活を確保する為に)人間との争いを終わらせる為に、あなた方四天王の力を借りたいのです。」
こっちが本音。
「ほう……(人間たちを皆殺しする為)私たちに力を借りたいと?面白い事を仰いますね魔王様。フフ……我ら四天王を従わせるだけの力を貴方はお持ちだと?」ニヤリ
「いやいや、そんなの俺には無理ですよ」
気負うことな普通に答える。
そんなつもり全くないってば。
俺はただただ平穏に暮らしたいだけだ。
一瞬あっけにとられた表情を浮かべ、その後はっきり落胆したような目でアクアスは俺を一瞥する。
「はぁ………アルス、セニア、こいつに何を期待するのですか?」
「き、貴様まだ暴げ…
「どうせあなたたちの事だから例の予言の神殿にでも行ったのでしょう?そういえばもうそんな時期ね。ただね、あんなの昔の魔族たちの妄言に決まっています。その赤子もどこかのだれかが悪戯で放置したちょっと不思議な喋る赤ん坊に違いありありません。魔王物語に夢中になるなど夢見る子供でもあるまいし。」ヤレヤレ
怒りで震えるセニアを遮りアクアスは続ける。
「…取り消しなさいアクアス。これ以上魔王様を侮辱するつもりならいくらあなたであっても容赦しません。」
「あなた方が私に勝てる訳ないでしょう?一般魔族にも劣るあなた方が。あなた方の知力を理解しているからこそ対等に扱っておりますが、戦いにおいては手加減しませんよ?」
「「…くっ」」
「アルスさんもセニアさんも落ち着いてください。」
「……もういいわ。あなた方のくだらない遊びに付き合っていられるほど私も暇じゃないの。先代魔王様の死後100年経つのよ?いい加減に立ち直りなさい。」
アクアスは最早俺の存在を無視して会話を進める。
「そもそも先代様の死は先代様の弱さ故、間違ってもあなた達の問題じゃないわ。何度も言ったはずです。」
「「…………」」プルプルプル
アルスとセニアが無言で流す涙にはどんな想いが込められているのか。
先代魔王を失った悲しみなのか、自責の念からか。
ただ一つ俺に分かることはこいつら悪いやつじゃないってこと。
ふぅ、とため息をついて俺はアクアスに視線を戻す。
「アクアスさん、突然の訪問すみませんでした。俺はまだこの世界の事を知らなさ過ぎます。他の都市も自分の目で見て、魔族を理解する為の時間を下さい。その時、改めて私の話を聞いて欲しい」
「……」
「そして、もしその時私を認めていただけるのであれば……その時は俺の目的のためにあなた方四天王の力を貸して欲しい。」
アクアスは俺の目をじっと見て、少し間を置いてから口を開く。
「……分かりましたわ小さな魔王様。はっきり言って私は貴方になんの期待もしていません。アルスとセニア、二人の同期に免じてその時は話だけは聞きましょう。」
アルスとセニアも今回は黙って聞いている。
「期間は1年、話を聞き次第私は新たな指導者と成り得る本当の魔王様を探します。異論は一切認めません。」
「はい、それで構いません。」
「それでは私はこれで失礼します。せいぜい他の四天王に殺されないようご注意下さい。それではご機嫌よう…」スタスタスタ…
加護の力を使ってしまえばアクアスも納得したかもしれないけどそれでは全然意味がない。
仮に無理矢理やらせても、本当の意味で理解を得られなければその組織は長続きしない。
魔王としての俺に依存した組織になってしまう。俺がいなくなったら崩壊する。
そんな組織をサラリーマン時代腐るほど見てきた
。
そもそも俺がずっと魔族を率いるとか絶対にごめんだ。仮に一時的に魔王を務めたとしても、俺がいなくなってすぐ組織が崩壊するようでは俺の望む安定は得られない。
自分が将来的に楽する為に、今は喜んで苦労しよう。
その為には多くの情報と協力者が必要だ。
魔族の各都市を知り、魔族の人間?性などを理解しなければ、魔族の本当の理解を得ることは不可能だろう。
その先に俺の信じる安定した生活(それとハーレム)がある。
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