【源頼光】頼光、妖怪の情報を買う
路地を出て市に戻ると、交渉を終えた
「あはは、いたいた。おーい頼光――」
「綱、妖怪退治に行くわよ! すぐに出よう!」
「はは、いきなり何の冗だ――――んで言ってるわけじゃなさそうだね。どこからそんな発想になったの」
真剣な顔になった綱に占い師さんに言われたことを伝えると、「なるほど」と言って考え込む。
「……多分それ、大江山の
「知ってるの?」
「うん、ボクたちの間でも手柄を立てるっていう選択肢の1つとして上がってたしね、妖怪退治。ただ他の有名どころで土蜘蛛ってのもそうだけど、数百人規模の集団で生活してるんだよねー。
「……それは確かに厳しそうね。妖怪って群れてるものなのね」
「あははー、単独の妖怪なんて1箇所に定住しないからねえ、探し出すだけでも難しいよー」
「集団で定住するからこそ居場所がわかるってわけね……」
そうなると朝廷が大規模な討伐軍を派遣するってなった時に参加して1番槍を取るしかない……? でもそれじゃいつになるかわかないし……。
「綱、さっきの
「ん、そりゃ色々使い道あるだろうしそれなりに残してあるよ」
布袋を受け取り、そこから1つ取り出して職人さんに差し出す。
「商売してる中で妖怪の噂とか聞いたりしない? 情報を売って欲しいんだけど」
「………………ふむ」
少し考えた後、「本当に噂程度の話」と前置きをして話し出す。
「………………この京に5mくらいの鋼鉄の巨人が現れる。刀も槍も通らない」
「そんなに大きいなら屋根越しにも見えそうね。仮に戦闘になっても、親父よりは柔らかそうだしなんとかなるかも――――」
「いやいや、もろにおっさんのことでしょ。人の噂だし実際より大きく、柔らかくもなってるんだろうねー」
「………………柔らかく?」
「少なくともこれよりは硬いかな」
手のひらに乗せた緋緋色金を転がしながら言うと「えぇ……」と困惑の声を上げる職人さん。
私が動き回る間、蹴った壁は削れるのに親父は蹴られてもピンピンしてたしなー。実際見てみないと信じられないか。
「………………それじゃ、嵯峨野の夜叉」
――以前、嵯峨野にて貴族が催し物を行った。その時、女房たちが集まる場所に巨大な鳥の「
「穢物ってあれよね、溜まった穢れに飲み込まれてしまった動物で普通の動物じゃありえない力を持つってやつ。それを狙って捕食するってことは――――」
「頼光じゃん」
おいおい、いつ私がそんな事したよ? 職人さんがまた「えぇ……」って困惑してるし、濡れ衣もいいとこなんだけど?
「いやいや、
なるほど……そういえば血を吸って自己修復するものね。思い切り斬った相手は干からびるってことすっかり忘れてた。刀が通らない
そういえば覇成死合のあと刃こぼれの確認とかしてなかったけど……思ったほどじゃない。弟くんが血吸に触れて怪我してたしその時かな。
その後も色々噂を聞かされた私は1つの結論に達した。
「全部
綱! 貞光! 季武! その他屋敷に駐在する武士の皆さん! もしかして源氏ってやばい集団なんじゃないの!? 雷を起こすとか川を逆流させるとか語ってくれてた職人さんもすっかり目が死んでるし!
「えーと、なんかごめんね? せっかく話してくれたのに微妙な感じになっちゃって。これはお礼ということで取っておいて」
「………………客の期待に答えられなかった以上受け取れない」
呪道具とやらを作って売るのが本職で、情報なんて普段取り扱ってないだろうに律儀ねえ。無駄な時間を取らせて商売の邪魔をしちゃったのはこっちだし、受け取ってくれていいのに。
そんな疲れ切った顔をしてた職人さんが「待てよ」となにかを思い出したみたい。
「………………京から南西に行った摂津国に、1ヶ月ほど前から茨木童子と呼ばれる鬼が出没するらしい」
「へー? それは初耳。どういう奴?」
さっきまで源氏の話ばかりで笑い転げてた綱が食いつく。
「………………街道にポツンと存在する床屋。客の喉を切り裂いて血をすする鬼が住む」
「正直内容としてはしょぼいけど」と今までの話と乾いた笑いが浮かぶ職人さんとは裏腹に、綱の表情は少し真剣。
「もしかしたら当たりの可能性はあるかも? 穢物が跋扈するこの時代、街を壁で囲って集住するのが普通なのに街道沿いにある1つの家で暮らしてるなんて」
そう言われて周りを見渡せば、平安京を囲う城壁が見える。それくらい穢物を脅威に思ってる街作り。逆に言えばそこに住まないのは穢物を恐れてないってわけね。
「大体そんなところで床屋なんてやっても商売成り立つわけがないからねー。完全なでまかせでそんな家自体無いって事も考えられるけど、行ってみてもいいかもねー」
「うん!」
綱に太鼓判を押されたので、残った緋緋色金を全部職人さんに渡す。
「ありがとね職人さん! 履物のことも合わせてとても助かったわ!」
「………………ん。……もし強大な妖怪と戦うなら、これだけは覚えておいて―――」
職人さんが綱から見えない方の耳に口を近づけると、そっと囁きかけてくる。
「え!? いきなりそんな事言われても……いや、うん。すごく嬉しいわ」
全身が火照りやばいくらいに心臓が音立ててる。それに比べて綱の視線の冷たさよ。温度差で風邪ひきそう。
「……何言われたの?」
「な、何でもない! いいからさっさと茨木童子に会いに行くわよ!」
私にはぐらかされたのが気に入らないのか、職人さんに聞き出そうとする綱の背中を押し、私たちは東市を後にした。
目指すは摂津国。私たちの物語はここから始まるのよ!
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