第85話 上中下の褒め方
仁と瑠璃の計らいによって俺と奈桐は二人きりになることができた。
人の多い遊園地内で手を繋ぎ、並んで歩く。
こうしてみると、ちゃんと二人でいられてるのは久しぶりかもしれない。
美森が生まれてから、俺たちだけの時間というのは徐々に徐々に減っていった。
もちろん喧嘩をしたわけじゃないし、何なら一緒に過ごす時間を努力して作っていた。
それでも二人きりの時間は減っていったのだから仕方ない。
いや、仕方ないで終わらせたくないのだが、美森のことを考えると不満に思ったりもできないし、何より自分自身実妹のことを可愛がってあげたい思いがちゃんとある。
――奈桐との時間を作れなくなったのは全部美森がいるからだ。美森が悪い。
そんなことは何があっても言いたくなかった。
「……ねえ、成? なんか……こうやって二人でちゃんと歩くの久しぶりだと思わない? 最近だと特にさ」
「まあ、そうだな。うん。頭の中だったら結構一緒に歩いてんだけど」
あっけらかんとして俺が言うと、奈桐はクスッと笑って「何それ」と呟く。
そして笑みを浮かべたままわざとらしく呆れて見せ、
「ほんと、成は私のことが好きだなぁ。同じ家に住んでるのに、頭の中でも私と一緒にいること考えてるとかさぁ」
呆れた感じを出してる割に語調は嬉しそうだ。
鼻の穴もちょっとだけ膨らんでます。奈桐さん。
「任せろ。何なら一緒にいるどころか一緒に寝てるところまで妄想してるぞ」
「えぇ~、成のえっち。それはちょっとどうなの~?」
とか言いながらなおも嬉しそう。
ニヤニヤが止まらないご様子。
「可哀想だと思わないか? せっかく俺は奈桐と同じベッドで寝たいのに、母さんが全力で止めてくるから脳内妄想で補完するしかないんだ」
「いやぁ~、可哀想じゃないねぇ~。変態だねぇ~」
「ちなみに俺の妄想の中では、昨日奈桐寝言で告白ワード連呼してたんだよ。『成、大好きだよ。愛してる』って」
「いやいやぁ~、も~、怖いよ怖いよ~」
「可愛かったなぁ~。うんうん」
一人で納得して頷く俺。
妄想の中の奈桐を思い出して幸せな気分になっていた。セルフ幸福コントロールの使い手である。
「まったくまったくだ。やれやれ。こんな可笑しな変態さんを前にして逃げ出さない女の子なんて私くらいですよ? もっと私の存在に感謝してね、成さん?」
「ははぁ~、ありがたき幸せ~」
「ふふふっ。よろしい」
手を繋いだまま歩き、俺が頭を下げると、その下げた頭を奈桐は優しく撫でてくれた。
幸せそうな笑みを浮かべてる。
「……けど、私嬉しい。成がそうやっていい意味でいつまでも変わらないでいてくれるから」
「え、俺変わってない? 昔と比べたら結構変わってないか? ほら、こんなにも奈桐へ可愛いとか好きとか直球で言えなかったし」
俺が言うと、奈桐は吹き出すようにして笑った。
繋いでる手とは反対の左手で自分のお腹を押さえている。
ただ、俺をそうさせたのはあの悲劇があったからだ。
奈桐が亡くなって、伝えたい言葉は伝えられる時に口にしておかないとダメだって悟った。
クサいセリフを言ってしまう時もあるけど、それは未来で後悔しないためだ。
今度来る奈桐との別れでは、絶対に『伝えておけばよかった』という思いをしたくない。
というか、もう俺は奈桐と別れたくない。
ずっと、ずっと一緒にいたい。
たとえ命が潰えても、どうにかして、ずっと傍にい続けたい。
「それは確かにそうだね。昔の成はもっと奥手だった。こんなにグイグイ来なかった。すごい進化だ」
「だろ? だから変わってないなんてこと無いんだよ。めちゃくちゃ進歩してんの、俺」
胸を張って言ってやった。
奈桐はいたずらに「いひひっ」と笑い、
「進歩か~。確かに確かに。そこは本当にその通りですねぇ~」
「もっと褒めてくれ。存分に頼む」
「はーい。上から? それとも同じ目線? 下からが良いかな?」
「んー、じゃあ全部で」
「あははっ。欲張りさんめ。いいよ、中、上、下の順番でいくね?」
その順番セレクトは謎だったけど、そもそも褒め方に上中下みたいなのを設定してるのもよくわからなかった。
「じゃあ、まず中。成、すごい……! さすが……!」
目をキラキラさせながら同じ目線から褒めてくれる奈桐。
控えめに言って可愛過ぎた。溢れ出るスタンダード感。
「それで、次は上。ちょっと立ち止まって?」
「え。あ。はい」
言われた通り一緒になって立ち止まると――
「成、えらいえらい。成長できるなんてすごいねぇ~。頑張ったねぇ~」
頭を撫でられ、こんなことを言われる。
ヤバい。泣きそう。聖母……? 上から目線ってことか。
「最後に下ね。成、ありがとう。私のために嬉しい言葉たくさんくれて。今こうして幸せなの、全部成のおかげ」
「っ……。い、いや、奈桐のためもだけど、俺は何だかんだ自分が――」
「私も……大好きだよ? ……成」
思わず息を呑んでしまう。
静かな場所とは程遠い人混みの中だが、ここはまるで二人きりの世界みたいで。
俺はジッと奈桐の顔を見つめ続けていた。
目が離せない。
わずかに頬を朱に染める彼女があまりにも可愛くて、尊くて。
「……奈桐……」
「えっ……な、成……!?」
気付けば、俺は奈桐のことを抱き締めていた。
感じるのは懐かしい温かさ。
本当にあの時のままだ。
十五歳の時の奈桐のまま。
それを感じられるだけでも泣きそうになるのに、ストレートに褒められて色々と我慢できなかった。
泣くのを見られるのはもう慣れてる。
でも、こんなところでっていうのも雰囲気にそぐわないから。
俺は涙目になってるのを奈桐に悟られないよう、しばらく彼女のことを抱き締めたまま会話を続けた。
ありがとう、と。
【作者コメ】
どうもどうも~、せせら木です~(;^ω^)
いやぁ、毎度のことながら更新空いてしまって申し訳ない。
これでも精一杯毎日原稿書いてるのですが、色々やってたらこうなってしまうのでどうかお許しください。
ユーチューブの方ではお話をしたのですが、今現在せせら木、公募に向けても色々原稿作ったりしてるんですよね。それでちょっと色々考えた結果、この【なくまい】を改稿してとある新人賞に送ってみようということに決めました。
経緯は単純で、なんとかしてこれ書籍化できねぇかなぁ、みたいなそんな感じです!(適当過ぎんだろ)
まあ、本当になくまいは色々ピースが上手くハマッた作品でもありますし、どうにかして成君と奈桐ちゃんのラブを商業の世界で戦わせてやりたいっていう思いも捨てきれず、色々ごちゃごちゃ動いてるんですよね……。
まあ、他にも語りたいことはあるんですが、それはまたおいおいということで。
とりあえず賞向けに作った改訂版を今年の5月くらい……?に出そうと思ってますので、どうか一つよろしくお願いします! 色々描写が丁寧になってたりすると思うし、芳樹パパのことも深堀りしていこうと考えてるのでね!
ではでは、長くなりましたがこの辺りで!
また次回もよろしくお願いします!
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