第73話 夜の空き地。二人きりの本音。
ラーメンを食べ終え、俺たちは各々これからやることを確認し、ショッピングセンターの前で解散した。
俺と奈桐は帰る方向が一緒だが、赤坂と迫中は違う。
二手に分かれる形となった。
細かいことはSNSのメッセージでやり取りし、連携を図る。
これだけは徹底しようという話だ。
「成、今日も一日お疲れ様。ほんと、色々ありがとう。私のために動いてくれて」
暗い夜道を二人で歩いていると、奈桐が俺にさっそく感謝の言葉をくれた。
静かな中でそう言われると、肩の荷が下りた気になる。
俺は微笑を浮かべ、横で並んで手を繋いでる奈桐を見つめながら応えた。
「奈桐も一日お疲れ様。色々動くのは当然だから今さら感謝なんてしてくれなくてもいいけど、そう言われるとえらい達成感得られるな。さすが彼女パワー」
「そうだよ? 彼女パワーを舐めないこと。あと、感謝しなくていいってのも禁句です。こういう時は素直にありがとうって受け取ってくださいね?」
「はいよ。そいつはすみせんでした。ありがとうございます」
「も〜、なんか適当な返事だなぁ〜」
「適当なんてことないよ。心の底から同意」
「ほんとに〜?」
「はっはっ。ほんとほんと」
多分俺に向けてるのはジト目。
怪しむようにこっちを見つめてくる姿がどうにも可愛い。
可愛いが故に、俺はふと、迫中から言われたことを思い出した。
『これから先、小、中と奈桐ちゃんの人間関係に首を突っ込み続ける気か?』
違う。
そんなことはしてられない。
してられないけど、少なくとも今の俺はしてしまいそうだ。
忙しくなる自分の時間を使ってでも、奈桐のことに首を突っ込む。
それはダメだった。
俺が成長しなきゃいけないし、一度奈桐を失ってしまったというトラウマからも逃れないといけない。
言われる前から、それは薄々自分でも考えていた。
考えていながら、変えていかないといけない自分に対して目を背け続けている。
俺は……。
「ねえ、成?」
「……ん?」
「ちょっと歩くの休憩しない?」
言って、すぐそこの方を指差す奈桐。
それは、小さい頃何度も遊び場として利用した空き地だった。
大きめの土管があるだけの場所だ。
「どうした? どっか痛むか? それとも疲れた?」
「んー……どっちでもないけど、疲れてるのは疲れてるかも?」
「どっちでもないけど、疲れてる?」
「うん。なんか成が疲れてるように見える」
言われて、俺は体の動きを止めてしまった。
自分ではそんなつもりまるで無いのだが、傍から見てる奈桐の目にはそう映ってるらしい。
見透かされたような気がした俺は、誤魔化すように遅れて苦笑いするしかない。
そうかな、と。
「ほら、こっちこっち。適当に座ろ?」
奈桐は言いながら俺の手を引っ張り、空き地の方へと連れていく。
どうせ今家に帰っても食堂は忙しいままだ。
だったら、ここで時間を潰すのも悪くないか。
「はい。では、ここで奈桐ちゃんとお話をしましょう。大切な彼氏が何か思い詰めてるようなので」
「思い詰めるってほどでもないと思うけどな……?」
「私の前でそんな強がらなくてもいいよ。なんなら、もっと甘えてきてもいいくらいだし」
「4歳児に甘える男子大学生か……。本格的に捕まりそうだな」
「大丈夫だよそんなの。特に今は誰も見てないしね」
言って、「ん」と両手を広げながら抱きついておいで、と奈桐。
断るに断れなかった。
一応周りを確認して、俺は奈桐の胸に飛び込むように顔を埋める。
かなり体勢を下にしているし、人が見れば俺はただの犯罪者だと思う。
けど、そんなことももう考えないことにした。
夜闇に紛れ、二人きりの世界だと思い込むことにする。
「ぅあ〜……なんだこれ……落ち着く……」
「うん……いい子いい子……」
「奈桐の匂い……昔と変わって無さすぎて涙が出そう……泣いていい?」
「いいけど、まさか匂いのことについて言われるとは思ってもなかったから私はちょっと後悔してるよ。ハグするの失敗だったかなって」
「ハグはもう何度もしてるだろ……? そうじゃなくて、奈桐吸いをしたのは久々な気がしてな」
「猫吸いみたいに言わないでよ……もぉ……」
恥ずかしそうに言う奈桐がまた可愛い。
俺は思わず軽く笑ってしまった。
奈桐に頭をくしゃくしゃとされる。たぶん腹いせ。
「それで、どうかしたの? 何かまた新しい悩みごと?」
「新しいというか、前から思ってたことをとある奴に指摘されて、そのことについて考えざるを得なくなったというか」
「何? 私に言ってみて?」
気恥ずかしいが、ここまできて隠すのも違う。
俺は、自分の気持ちを正直に話すことにした。
「まだ解決はしてないけど、今回奈桐の周りで色々あっただろ? テツ君たちに好きになられて、みたいな」
「うん。あったね」
「そういうのがさ、これから小、中、と大きくなっていくにつれてますます増えてくると思うんだけど、そのたびに俺は一回一回奈桐の人間関係に首を突っ込んで行くんだろうなって思って」
「うん」
「果たしてそれは良いものなのか、いや、良くはないだろ、ってぐるぐるぐるぐる考えてしまう」
「……うん」
「俺も、今なら大学生でギリギリ時間があるけど、これから二年も経てば社会人だ。社会人になりながら、小学生の女の子の人間関係に口出しするってヤバいと思うんだよな。絵面的にも」
「ヤバくはないと思うよ?」
まさかの即答。
あまりに前のめりだったので、思わず「はは」と笑んでしまった。
奈桐も「ごめん」と謝ってくる。
いい。謝ることはない。
「ヤバくないと思うか? 奈桐的には」
「ヤバくない……と思う。思うけど……」
「……?」
「これは……私が悪いよ。私が成に依存し過ぎてるんだと思う」
「……え?」
奈桐の小さい手が俺の頭を撫でた。
でも、その撫でる手はどこかキレが悪くて、俺から離れていくのを嫌がるようにゆっくりな動きだ。
「今回も、本当はそう。私のことは、私で解決しなくちゃいけなくて、成や瑠璃ちゃん、仁君にどうにかしてもらうことじゃなかったんだ」
「……いや、それは」
「そうだよ。これはそうなの。言い逃れできない」
「…………」
「ごめんね、成。私、こんな見た目でも19歳なのに……。なんか、今さらながら情けないや」
声がしょんぼりとなっていく。
ただ、俺はそうやって落ち込む奈桐を見て、胸から顔を上げ、首を横に振った。
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