第36話 会話のきっかけ
段々と凪のことを奈桐だと知っていく人が増えていく。
それは、雛宮奈桐として亡くなった俺の幼馴染が、本当の意味で生き返っていくような感覚がして。
俺は胸がいっぱいになるような思いに駆られる。
亡くなった人が生き返るなんて、こんなことは恐らく世界中のどこを探しても無いはず。
あったとしても、その例は少ないだろう。
奇跡だ。
奇跡なんだけど、同時に俺は不安にもなる。
この素晴らしい現象が、まるで星屑のように突然消えてしまったら。
凪の中の雛宮奈桐が消えてしまったら。
その瞬間から、俺はいったいどうやって生きていけばいいだろう。
喜んでいた葉桐ちゃんにはどう説明したらいいだろう。
怖くて仕方ない。
尊い奇跡が幻に変わってしまうその時が。
「成お兄ちゃん? どうしたの? さっきからぼーっとして」
高速道路を走っている車の中。
後部座席に座っていると、突如として隣から声を掛けられた。
凪だ。
ハッとして、彼女の方を向く。
言いながら差し出してきていたポッキーをゆっくりと見やり、それからまたゆっくりと凪の方へ視線を移動させた。
で、パクリ。
モグモグすると、凪はニコニコしてもう一度問うてくる。
「どうしたの? 何か考え事?」
俺は「まあ」と曖昧な返しをして。
「人生のうちに願い事を一つだけ叶えてもらえる力みたいなのが人間に備わってればなぁ、とか考えてた」
「ふぇ……? 何それ?」
「何だろう。凪が嫁なんかに行かず、俺の傍にずっとい続けてくれればいいのに、みたいな願い事しようかと思って」
言うと、助手席に座っていた母さん、それから運転席にて車を運転していた芳樹さんが大笑いする。
いや、まあ確かに笑われてもおかしくない発言だとは思いますけど。
「あんた、どんなお願いよそれ! 凪ちゃんにいきなり言うのもおかしな話だけどさぁ!」
「凪はお兄ちゃんに好かれてるんだなぁ。いいこといいこと」
「……っ」
ふざけてることを言った自覚はあるから別にいいが、段々と恥ずかしさが募ってきた。
あまりにも二人が笑ってるもんだから。
「……へへ~」
隣にいる凪もにやーっとして俺を見てる。
違うな。
あの顔は凪じゃない。
奈桐の顔だ。
奈桐が「相変わらず私のこと好きなんだから」みたいに見てる感じ。
微妙にムカつくけど、事実なんだし仕方ない。
俺は開き直って抱き締めてやった。
奈桐はわざとらしく「きゃー」と声を上げる。
芳樹さんと母さんはまた大きく笑った。
このハグはしばらく解いてやるつもりはない。
「はははっ。それにしても成君が面白くて僕は緊張が少し解けたよ。ありがとうね」
芳樹さんの発言に母さんが「え!?」と即座に反応。
緊張自体は無理もないことだ。
「何、芳樹。緊張してたの? そんな素振り全然見せてなかったけど」
「緊張してるよ。もう割と。お父さんお母さんに改めて挨拶しに行くわけだし」
「一回したよね? それでもまだ緊張すんだ」
「するねぇ。たぶん、何回会っても緊張するんだと思う」
「へぇ~。まあ、そこはガンバ、だね。アタシも一応フォローとか入れるつもりだし、安心してていいけど」
「うん。その辺りはお願いしたいかな~」
「合点承知!」
母さんが自分の腕を叩きながら言う。
俺と凪はハグした状態で「頑張れ~」と気の入ってないような声を出した。
芳樹さんはそれを受けて笑いながら「頑張る」と返してくる。
本当に頑張って欲しい。
兵庫のじいちゃんは少し気難しいところがあるから。
「それじゃ、頑張る宣言したところで、とりあえず近場のパーキングエリアにでも入ろうかな? 皆、そろそろお腹も空いたよね? お昼時だし」
「「空いた空いた~」」
俺と凪の声が重なる。
母さんもクスッと笑って同調。
次のパーキングエリアに入ることになった。
●〇●〇●〇●
広島県のパーキングエリアは、どこもかしこももみじ饅頭の売り出しが多い。
簡単にラーメンを食べた後、俺は生もみじなる饅頭を買い、一人で車内に戻ろうとした。
……が。
「……あ。そうじゃん」
当然だが、車のカギは芳樹さんが持ってる。
彼がいないと中には入れない。
「仕方ねーか。ここで食べよ」
独り言ち、熱々のブツが入った包装紙を開けていると、だ。
「ははっ。悪い悪い。中入れたげるよ、成君」
芳樹さんがちょうどいいタイミングで戻ってきた。
俺はグッドサインを手で作り、もみじ饅頭を一口。
モグつきながら車の中へ入った。安定の後部座席だ。芳樹さんは運転席に座る。
「ふー。にしても、やっぱ美味かったね。尾道ラーメン」
「だね。さすがはご当地ラーメンって感じだった」
「聞いてなかったけど、成君はラーメン好きな方なの?」
「いや、本音言うとうどん派」
「はははっ。うどん派かぁ。一応うどんもあったけど?」
「とは言ってもだよ。ここまで来たらさすがに尾道」
「さすがにね。ふふっ」
言って、一息つくように芳樹さんは買ってきていたペットボトルに口を付ける。中身はカフェオレだ。
俺は生もみじを食べているわけだけど、微妙な沈黙が流れた。
気まずさはない。
むしろこれはチャンスだと思えたのだ。
「父さん」
「おっ。何々? 嬉しいねぇ。そう呼ばれると」
「父さんはさ、生まれ変わりって信じる?」
俺は食べ切った饅頭の紙を強く握りながら問うのだった。
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